- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- ペルー中銀は5会合連続の利下げも、慎重姿勢を崩せない状況が続く
- World Trends
-
2024.01.16
新興国経済
新興国金融政策
その他新興国経済
為替
ペルー中銀は5会合連続の利下げも、慎重姿勢を崩せない状況が続く
~次期総選挙に向けた「台風の目」の兆し、政策運営も困難が続くなどその行方は見通せない展開~
西濵 徹
- 要旨
-
- 昨年のペルー経済は反政府デモに加え、エルニーニョ現象による豪雨被害も重なり景気は勢いを欠く推移が続く。一昨年以降の同国では商品高や米ドル高も重なりインフレが上振れし、中銀は断続利上げを余儀なくされた。しかし、昨年は頭打ちに転じており、中銀は昨年9月に利下げに舵を切るとともに、今月11日の定例会合でも5会合連続の利下げを決定した。インフレ鈍化にも拘らず、通貨ソル相場は商品市況の低迷が重石となっている上、食料インフレの懸念がくすぶるなかで中銀は慎重姿勢を崩さない展開が続く。同国では今年にも次期総選挙の実施が予定されるが、政治混乱が長期化するなかで有力な候補者が居ない一方、昨年末に釈放されたフジモリ元大統領が「台風の目」となる兆しもみられる。多くの新興国が「選挙イヤー」を迎えるなかで同国の政治動向にも注意する必要がある上、政策は困難な展開が続くであろう。
昨年のペルー経済を巡っては、一昨年末にカスティジョ前大統領が弾劾により失職に追い込まれたことを機に反政府デモの動きが激化して幅広い経済活動に悪影響が出る事態に直面した。さらに、ここ数年の同国においては歴史的大干ばつを理由に、電源構成の半分弱を水力発電が占めるなかで火力発電の再稼働を余儀なくされるなど、原油や石炭などエネルギー資源価格の上振れも重なりエネルギーを中心とするインフレに見舞われた。他方、昨年はエルニーニョ現象による集中豪雨が頻発した結果、主力産業である観光産業に深刻な悪影響が出るとともに、散発的な反政府デモも影響して鉱業部門は稼働停止を余儀なくされたほか、関連投資が低迷する状況が続いている。結果、足下の実質GDP成長率は前年同期比ベースでも3四半期連続のマイナス成長で推移する展開が続いている上、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースでも7-9月はマイナス成長に陥っているとみられるなど、足下の景気は一進一退の動きをみせるとともに足踏み状態が続いている。他方、商品高や国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ソル安に伴う輸入インフレも重なりインフレは大きく上振れする展開が続いたものの、一昨年末以降は商品高や米ドル高の動きに一服感が出たことで昨年のインフレは一転して頭打ちの動きを強めてきた。よって、中銀は2021年8月以降、物価と為替の安定を目的に18会合連続での利上げ実施に動くなど急進的な金融引き締めを余儀なくされたものの、昨年1月に利上げ局面の休止に舵を切るとともに、昨年9月には一転して利下げに動くなど政策の方向性を転換させている。その後もインフレは一段と鈍化して中銀目標(2±1%)の上限近傍まで収束する動きをみせるなか、中銀は今月11日の定例会合においても5会合連続の利下げ決定により累計125bpの利下げに動いており、上述のように足下の景気が勢いを欠く推移が続くなかで下支えに向けた姿勢を強める様子がうかがえる。しかし、中銀は定例会合後に公表した声明文において引き続き「継続的な利下げサイクル入りを示すものではない」との考えを改めて示すとともに、先行きの政策運営について「インフレ動向を巡る新たな情報と決定要因を元に判断する」との姿勢を維持しており、足下のインフレ鈍化にも拘らず慎重姿勢を崩していない。足下の通貨ソル相場については、昨年末以降における米ドル高の動きに一服感が出ていることを反映して底堅い動きをみせているものの、中国経済を巡る不透明感は主力の輸出財である銅をはじめとする商品市況の重石となるなかで上値が抑えられる展開が続いている。また、エルニーニョ現象をはじめとする異常気象を理由に穀物をはじめとする食品インフレ圧力が強まる懸念もくすぶるなか、先行きのインフレ率は昨年に鈍化した反動で上振れしやすい環境にあることも、中銀が慎重姿勢を崩さない一因になっているとみられる。他方、同国ではカスティジョ前大統領に対する弾劾を経てボルアルテ副大統領が大統領に昇格し、議会においては2026年に予定される次期総選挙を今年に前倒しすることで同意が図られている。しかし、景気低迷が長期化するなかで政権支持率は『低空飛行』が続いているほか、直近の世論調査においては7割以上の有権者が投票先を未定、ないし白紙とするなど有力な候補者が見当たらない状況が続いている。こうしたなか、昨年末に在任中の人権侵害や汚職などの罪で25年の禁固刑を受けて約16年に亘って服役していたアルベルト・フジモリ元大統領が高齢を理由に釈放されたほか、2021年の前回大統領選で敗れた娘のケイコ氏を伴う形で政治活動を再開させる動きをみせるなど次期総選挙に向けて『台風の目』となる兆しもみられる。今年は多くの新興国で選挙が実施される『選挙イヤー』となっているが、ペルーの動向を巡っても目が離せないとともに、当局は難しい政策運営を迫られる展開が続くと予想される。



西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
インドネシア、財務相に続いて外相も交代、実務重視への軌道修正か ~実務家の登用で政策への信頼は回復するか、焦点は大統領主導の政権運営~
アジア経済
西濵 徹
-
台湾・9月輸出、半導体などの旺盛さを反映して過去最高に(Asia Weekly) ~原油価格の再上昇を受けて、多くのアジア新興国でインフレ率が再び加速~
アジア経済
西濵 徹
-
新たなスキャンダルに揺れるインド、今度は「選挙」を巡る問題噴出 ~選挙制度の信頼が揺らぎ、モディ政権への批判が再燃、政治不安が新たなリスクとなるか~
アジア経済
西濵 徹
-
トルコ金融市場の混乱が収まらない ~投資信託の規制強化が株安を招き、実体経済や政策運営への波及が懸念される~
アジア経済
西濵 徹
-
インド中銀、3年8ヵ月ぶりの利上げ、政策スタンスも転換 ~インフレを警戒した「予防的引き締め」、追加利上げに含みも慎重姿勢、ルピーや株価は?~
アジア経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
金融市場はブラジルの右派回帰を好感、株価・レアルともに上昇 ~議会選も右派躍進、財政再建への期待の一方で実現性に課題、左派の巻き返しも要注視~
新興国経済
西濵 徹
-
ブラジル大統領選は決選投票へ、フラビオ氏が首位 ~フラビオ・ボルソナロ氏が予想以上の得票、市場は財政・外交政策の行方に注目~
新興国経済
西濵 徹
-
メキシコ中銀、政策判断の自由度を重視 ~3会合連続で金利据え置き、FRB利上げへの機械的追随を否定、ペソ相場はどうなる?~
新興国経済
西濵 徹
-
景気減速にもかかわらず南ア中銀は2会合ぶりの追加利上げを決定 ~原油高やサービス物価を警戒、ランド相場は外部環境に左右される展開が続く~
新興国経済
西濵 徹
-
ブラジル中銀は5会合連続の利下げも、緩和継続には慎重姿勢 ~景気減速を重視する一方、原油高・異常気象・財政運営が引き続きインフレリスクに~
新興国経済
西濵 徹

