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2023.12.13
アジア経済
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マレーシア・アンワル政権発足1年、難局を内閣改造で乗り切れるか
~国民からの信頼回復へ人事刷新も、アンワル首相の求心力向上に繋がるかは現時点では未知数~
西濵 徹
- 要旨
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- マレーシアでは昨年の総選挙を経て大連立によるアンワル政権が発足した。ただし、商品高と米ドル高を受けたインフレ昂進や中銀による断続利上げが景気の足かせとなる状況が続くなか、アンワル氏の縁故主義的な動きも重なり、政権への支持は低下が続く。足下のインフレは鈍化しているが、食料インフレがくすぶる上、リンギ相場も依然上値の重い展開が続く。こうしたなか、アンワル政権は発足から1年で初めての内閣改造により国民からの信頼回復に努める姿勢をみせる。今回の人事についてアンワル首相は経済、医療、教育を最優先課題に掲げる考えをみせるが、求心力向上に繋がるかは未知数である。宗教保守主義が勢いを増す動きもみられるなか、政治の成熟化や安定化に繋がるか当面の動きに注目する必要があろう。
マレーシア経済を巡っては、昨年は商品高や国際金融市場における米ドルを受けた通貨リンギ安に伴う輸入インフレの動きも重なり、インフレが大きく上振れするとともに、中銀は物価と為替の安定を目的に断続利上げを余儀なくされるなど、景気に冷や水を浴びせることが懸念された。さらに、同国経済はASEAN(東南アジア諸国連合)内でも輸出のGDP比率が相対的に高いなど輸出依存度が高く、中国経済を巡る不透明感の高まりも景気の足かせとなることが懸念された。こうしたことから、昨年末から年明け直後にかけての景気は物価高と金利高の共存に加え、外需の低迷も重なり景気は頭打ちの様相を強める状況に見舞われた。こうした状況も影響して、昨年末に実施された総選挙は与野党が四部五裂となる混戦状態となる一方、最終的には大連立政権の樹立を通じてアンワル氏が首相に就任して20年以上の時間を経て捲土重来を果たした(注1)。なお、大連立という『同床異夢』色が強い政権基盤に加え、2018年の総選挙で建国後初の政権交代が行われた後は政局争いを理由とする政権崩壊が相次いだこともあり、アンワル政権は発足直後から経済重視姿勢を掲げるなど党派ごとの波風を立てない姿勢をみせてきた。しかし、アンワル氏は首相と財務相を兼務したことに加え、自身の長女であるヌルル・イザー氏(前下院議員)を経済・財政担当の上級顧問に任命しており、経済・財政運営を巡る権限がアンワル家に集中するなど、かつてはアンワル氏が猛烈に批判してきた縁故主義的な動きをみせている。さらに、今年8月には政権発足後初の州議会選挙が実施され、政権に対する『信任投票』的な意味合いが強いことからその行方に注目が集まったが、全6州で実施された選挙においてはアンワル氏率いるPH(希望連合)を中心とする与党連合が3州、野党連合のPN(国民同盟)も3州で勝利して勢力図は選挙の前と後で同じとなるなど、一見すれば与党連合が一定の評価を集めたとも捉えられる。しかし、与党連合は都市部を中心にすべての州で議席を減らしている上、与党連合に加わったBN(国民戦線)は惨敗を喫するなど昨年の総選挙同様に党勢が衰退の一途を辿っていることが改めて明らかになった。一方、野党連合のPNのなかでは宗教保守色が強いPAS(汎マレーシア・イスラム党)が昨年の総選挙で躍進を果たした勢いを州議会選においても発揮しており、すべての州で議席数を積み増す動きが確認されるなど党勢拡大を果たしている。マレーシアは現行憲法においてイスラム教を国教と定めているものの、国民に占めるイスラム教徒の割合は昨年時点で64%に留まる上、その大宗は穏健派が占めるとされる一方、近年は宗教感情が活発化する動きが確認されるなかで宗教保守を謳うPASが躍進する動きに繋がっている。こうした背景には、マレーシア政界においてはここ数年に亘って有力政治家による汚職事件が相次ぐとともに、上述したように政局争いの激化が政権の不安定化を招いているほか、同国経済もかつての勢いを失う一方でコロナ禍や昨年来のインフレなど国民生活は厳しさを増す状況に直面しており、政治的なクリーンさを求める若年層などを中心にPASが支持を集める動きが顕著になっているとされる。なお、昨年末以降は商品高の動きが一巡しており、年明け以降のインフレは頭打ちの動きを強めているほか、10月末にはリンギ相場がアジア通貨危機以降の安値を更新するなど輸入インフレの懸念が高まったものの(注2)、足下では米ドル高圧力が後退するなかで調整の動きに一服感が出ている。しかし、足下ではインドによるコメ禁輸措置などの影響で主食のコメをはじめとする食料品価格は上昇傾向を強めており、上述のようにインフレは鈍化しているものの、実感との間に乖離が生じているとみられる。さらに、アンワル政権は構造改革の実現を掲げて誕生したものの、寄り合い所帯の政権運営が足かせとなる形でスピード感のある施策を打ち出すことが出来ない状況が続いている。また、足下の景気は一見すると底入れの動きを強めているものの、家計消費など内需の弱さが顕在化するなど国民生活を取り巻く環境は改善しておらず(注3)、結果的に政権支持率は低下が続くなどアンワル政権は難局に直面している。こうしたなか、アンワル首相は12日に政権発足から1年を迎えるなかで初めての内閣改造を発表し、国民からの信頼回復を目指す考えを示した。アンワル首相が財務相を兼務する状況を維持する一方、財務相を補佐する『第2財務相』を新設した上で同国最大の公的年金基金である従業員積立基金(EPF)の最高経営責任者であったアミル・ハムザ・アジザン氏を任命して経済・財政運営の強化を図る。また、国民生活の安定を図る観点から国内取引・生活費相に7月から代理を務めるアルミザン・モハド・アリ氏が正式に就任するとともに、保健相にはマハティール元政権下で保健相を務めたズルキフリー・アフマド氏が再任される。その他の主要閣僚についても、外相にモハマド・ハサン前国防相、高等教育相にザンブリー・アブドゥル・カディル前外相、国防相にカレド・ノルディン前高等教育相がそれぞれ横滑りするとともに、通信デジタル省を通信省とデジタル省に、天然資源・環境・気候変動省を天然資源・環境持続可能性省とエネルギー以降・公益事業省に分割するなど省庁再編も実施し、これらに関連する副大臣人事も重点的に配置されている。アンワル首相は今回の内閣改造の狙いについて経済、医療、教育を最優先課題に掲げるとともに、デジタル化への対応を目指した人事とする考えをみせている。ただし、上述したようにアンワル政権を支える与党連合は『寄り合い所帯』感が強く、政策の方向性を巡ってもバラバラ感が否めないなか、今回の内閣改造によりアンワル首相の求心力向上が図られたかは未知数のところが多い。一方、宗教保守主義が勢いを増すなか、中東情勢の混乱を機にこの動きに乗じたデモなどの活動が活発化する動きもみられるなど、今後は一段と政治的影響力を高める流れが生まれる可能性もくすぶる。政治の成熟化と安定化という課題にアンワル政権が何らかの答えを見出すことが出来るか、当面の政権運営の行方がカギを握る展開となるであろう。


注1 2022年11月25日付レポート「マレーシア、大連立政権の樹立を経てアンワル氏が首相に就任」
注2 10月20日付レポート「マレーシアリンギ安に歯止め掛からず、1998年以来の安値を更新」
注3 11月17日付レポート「マレーシア景気は底入れ確認も、その内容は見た目ほど力強くはない」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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