インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

インドネシア中銀、ルピア安一服で再び様子見姿勢に転じる動き

~市場環境に揺さぶられるなか、財政、金融両面で慎重な政策運営が求められる局面は続く~

西濵 徹

要旨
  • インドネシアでは、昨年のインフレ上振れを受けて中銀は断続、大幅利上げを余儀なくされた。しかし、昨年末以降の商品高や米ドル高の一巡を受けてインフレは頭打ちしたため、中銀は今年2月以降利上げ局面を休止させた。しかし、商品高や米ドル高が再燃してインフレ懸念が高まり、中銀は10月の定例会合で9会合ぶりの再利上げに追い込まれた。その後は商品市況も米ドル高も一服しており、中銀は23日の定例会合で再び様子見姿勢に転じている。ただし、足下の経常収支は赤字基調、外貨準備高も国際金融市場の動揺への耐性は充分ではないなど経済のファンダメンタルズは脆弱な状況にある。当面の景気は大統領選や総選挙に向けた関連支出や公共投資の進捗に下支えされる展開が期待される一方、コロナ禍を経て財政状況は悪化しており、金利上昇が財政政策の足かせとなる懸念はくすぶる。中銀は引き続き難しい政策対応を迫られるなか、政府には慎重、且つ的を絞った財政運営に取り組むことが求められよう。

昨年のインドネシアでは、コロナ禍の一巡による経済活動の正常化、商品高や国際金融市場での米ドル高に伴う通貨ルピア安による輸入インフレも重なり、インフレは大きく加速して中銀目標を上回る事態に見舞われた。中銀は昨年8月に物価と為替の安定を目的に利上げに舵を切ったものの、その後もインフレが高止まりしたため、断続、且つ大幅利上げを余儀なくされる難しい対応を迫られた。しかし、昨年末以降は商品高と米ドル高の動きが一巡するなどインフレ要因が後退したほか、インフレ率も昨年9月を境に頭打ちに転じるとともに、年明け以降は一段と頭打ちの動きを強めたことから、中銀は今年2月に半年に及んだ利上げ局面を休止させた。足下の景気を巡っては、インフレ鈍化により実質購買力が押し上げられる一方、金利上昇による債務負担の増大が家計消費や企業部門による設備投資の足かせとなる懸念がくすぶるなか、その後の中銀は金利据え置きによる様子見姿勢を維持する対応をみせてきた。事実、7-9月の実質GDP成長率は前年比+4.94%と伸びが鈍化するも、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースではプラス成長で推移するなど底入れが続いていることが確認されているものの、内・外需双方に下押し圧力が掛かる動きがみられるなど頭打ちが意識される動きもみられる(注1)。他方、主要産油国による自主減産延長や中東情勢を巡る不透明感の高まりを理由に原油価格が上振れしたほか、異常気象を理由とする農作物の生育不良を受けて輸出禁止や制限に動く国が広がるなかで食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレが再燃する懸念が高まる動きがみられた。さらに、商品市況の底入れの動きは世界的なインフレ長期化を招くとの懸念に加え、米FRB(連邦準備制度理事会)による一段の利上げや引き締め長期化が意識されたことで米ドル高も再燃し、通貨ルピア相場はコロナ禍の最中以来となる安値を更新するなど輸入インフレ圧力が強まる懸念も高まった。こうした事態を受けて、中銀は先月の定例会合において9会合ぶりとなる利上げ再開を決定するなど難しい対応を迫られる動きもみられた(注2)。なお、足下のインフレ率は生活必需品を中心にインフレが再燃する動きがみられる一方、世界経済の減速懸念の高まりを意識して原油相場は頭打ちしているほか、国際金融市場においては米ドル高圧力が後退してルピア安の動きが一服するなど、対外収支や物価を巡る懸念要因が後退する動きが確認されている。こうしたなか、中銀は23日に開催した定例会合において政策金利である7日物リバースレポ金利を2会合ぶりに6.00%に据え置く決定を行うなど、再び様子見姿勢に転じている。会合後に公表した声明文では、今回の決定についてこれまで同様に「世界経済を巡る不確実性が高まるなかでルピア相場の安定と輸入インフレの抑制によりインフレを目標域に抑えることを目的としたもの」との姿勢を示している。その上で、世界経済について「依然として不確実性が高い」との認識を示す一方、同国経済について「内需をけん引役に堅調な推移が続いており、今年通年の経済成長率は+4.5~5.3%に、来年には一段と加速する」との見通しを示している。また、ルピア相場について「中銀による安定化策の下で管理可能な水準で推移している」との認識を示しつつ、物価動向についても「目標域内で管理可能な状況が続いている」とした上で、「物価と為替の安定を図りつつ金融政策の有効性を高める方策に取り組む」としてルピア建ての新投資商品(中銀が保有する国債を裏付けとする新たな証券)を通じた資金流入を促す取り組みを強化している旨を改めて説明している。なお、会合後に記者会見に臨んだ同行のペリー総裁は、足下の世界経済について「減速が続いており、不確実性は極めて高い」との見方を示す一方、国際金融市場について「その不確実性が新興国を巡る資金動向に影響を与えるなか、米FRBはより長期に亘って高金利を維持する可能性が高い」としつつ、同国経済について「内需をけん引役に好調を維持しており、来年に向けては選挙関連費用の拡大や公共投資の進捗が景気を押し上げる」との見通しを示している。ただし、このところの商品市況の調整の動きが重石となる形で経常収支は再び赤字基調で推移するなど、対外収支を取り巻く状況は厳しさを増している上、コロナ禍を経て財政状況も悪化するなど経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は脆弱さが高まっており、同国経済は国際金融市場を巡る環境に揺さぶられやすい体質を有する。さらに、外貨準備高はIMF(国際通貨基金)が国際金融市場への動揺への耐性の有無の基準として示すARA(適正水準評価)に照らして「適正水準(100~150%)」を下回ると試算されるなど、中銀がルピア相場の安定を目的に積極的な為替介入を展開してきたことも影響して脆弱性が高まっていると判断出来る。足下ではルピア安の動きが後退していることを反映して外貨準備高の減少ペースは落ち着きを取り戻している可能性はあるものの、こうした点でも外部環境の変化に対する耐性が乏しいと捉えられる。来年の大統領選に向けては、世論調査によると地方部を中心にプラボウォ国防相とジョコ大統領の長男(ギブラン氏)のタッグの支持率が他の2陣営(ガンジャル前中ジャワ州知事とマフッドMD政治・法務・治安相、アニス前ジャカルタ州知事とムハイミン国民議会副議長)を引き離す動きが確認されているものの、同時に実施される総選挙では与党連立を構成する各政党の支持率が拮抗しており、安定政権樹立に向けたハードルは決して低くないのが実情である。当面の景気についてはジョコ大統領の『肝煎り』である新首都(ヌサンタラ)建設に関連した公共投資の進捗の動きが景気を下支えすることが期待されるものの、コロナ禍を経て足下の公的債務残高(中央+地方)はGDP比で7割を上回る水準となっているおり、一段の財政悪化による金利上昇は財政運営の足かせとなることも懸念される。その意味では、中銀は難しい政策運営を迫られる展開が続くとともに、政府には慎重、且つ的を絞った財政運営が求められることになろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

図表4
図表4

図表5
図表5

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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