インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中国、内需の弱さがディスインフレ圧力の根強さを招く展開

~当局による対応は対症療法に留まり、先行きも構造問題が景気の足を引っ張る状況が続く~

西濵 徹

要旨
  • 足下の中国経済は景気の底入れが確認されるなど、成長率目標は射程圏内にあると捉えられる。しかし、内・外需双方に不透明感がくすぶるなか、当局は内需喚起への対応を強化しているが、マクロ的な影響は限定的と捉えられる。足下の企業マインドは頭打ちするなか、短期的には財政出動などによる景気下支え効果が期待されるが、構造問題が足かせとなる形で中国経済は頭打ちの様相を強める懸念は高い。
  • 世界経済の減速懸念の高まりが10月の輸出額(前年比▲6.6%)を下押しする動きが確認される一方、対照的に輸入額(前年比+3.0%)は底打ちが確認された。ただし、輸入底打ちの動きが内需回復を反映したものと捉えるのは早計であり、在庫積み上げの動きが輸入を押し上げた可能性に留意する必要がある。他方、商品市況の底入れによる世界的なインフレ再燃の兆しは川上におけるインフレ圧力を招いているが、内需の弱さが価格転嫁を困難にしており、10月のインフレ率は▲0.2%と3ヶ月ぶりのマイナスに転じている。財、サービス双方でディスインフレ圧力の根強さが改めて確認されるなどデフレ傾向がくすぶる状況にある。
  • 当局による内需下支え策を受けて短期的には景気が押し上げられる可能性はあるが、構造問題が足かせとなる形で来年の景気は下振れが避けられず、世界経済の重石となる展開が続くことも予想される。

足下の中国経済を巡っては、国内・外双方に景気の重石となる材料が山積しているものの、7-9月の実質GDP成長率は前期比年率ベースで+5.3%と前期(同+2.0%)から伸びが加速したと試算されるなど景気の底入れが続いていることが確認されるとともに、今春の全人代で示された今年の経済成長率目標(5%前後)が『射程圏内』にあると捉えられる(注1)。しかし、外需についてはここ数年の米中摩擦の激化に加え、デリスキング(リスク低減)を目的とする世界的なサプライチェーンの見直しの動き、改正反間諜法(反スパイ法)や改正治安管理処罰法案をきっかけにする事業環境の悪化懸念も重なり、対内直接投資に大きく下押し圧力が掛かるとともに、欧米景気の減速懸念など外需を取り巻く環境は厳しさを増している。他方、内需についても若年層を中心とする雇用悪化が家計消費の足かせとなる状況が続いている上、需要鈍化も追い風に不動産市況の低迷が長期化するなかでGDPの2割強に及ぶ不動産投資が下振れして幅広い経済活動の足かせとなるとともに、独自財源の乏しい地方政府にとって財政の重石となるなど、厳しい状況が続いている。こうした事態を受けて、共産党や政府は内需喚起に向けた取り組みを強化するとともに、中銀(中国人民銀行)も利下げや預金準備率の引き下げといった金融緩和に舵を切るなど、財政・金融政策の両面で景気下支えの動きが進む動きがみられる。さらに、不動産市況のテコ入れに向けて、地方政府レベルでは融資規制や購入規制の一部緩和による需要喚起を図る動きもみられ、一部の大都市では不動産市況に下げ止まりの兆候が出ている。そして、先月には1兆元の新規国債発行と地方政府による来年度分の債券発行枠の一部前倒しを可能とするなど、財政出動を後押しする動きが示されており、インフラ投資の拡充・促進を通じた景気下支えに向けた動きも前進している。なお、「1兆元」と一見すると大規模な財政措置が打ち出されたようにみえるものの、GDP比では0.8%程度に留まることから、マクロ的な観点でみた効果は極めて限定的と捉えられる(注2)。さらに、中国においてはこれまでも幾度に亘ってインフラ投資の拡充を図っており、インフラ投資に伴う乗数効果、潜在成長率の押し上げ効果そのものが低下している可能性があり、短期的な景気下支えを超える効果を期待することは難しくなっていると捉えられる。こうしたなか、足下の企業マインドは幅広く頭打ちの動きを強めており、国内・外双方における需要の弱さがあらためて確認されるなど景気の足踏みを示唆する動きがみられる。当面の景気は上述した財政出動も追い風に下支えの動きが進むことが期待されるものの、不動産投資への過度な依存や人口減少など構造的な問題が足下の中国経済の足かせとなっているにも拘らず、当局の対応はいずれも『対症療法』の域を出ず、傾向としては頭打ちを脱することは難しいと捉えざるを得ないものと予想する。

図 1 財新製造業・サービス業 PMI の推移
図 1 財新製造業・サービス業 PMI の推移

上述のように外需を取り巻く環境は厳しさを増していることを反映して、10月の輸出額は前年同月比▲6.6%と6ヶ月連続で前年を下回る伸びで推移している上、前月(同▲6.2%)からマイナス幅は拡大するなど下振れしている。当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比も3ヶ月ぶりに減少するなど再び頭打ちの動きを強めており、外需が景気の足かせとなる展開が続いていると捉えられる。国・地域別では、昨年のウクライナ戦争以降に関係深化が進むロシア向け(前年比+17.2%)は引き続き堅調な推移をみせているほか、外交関係に改善の兆しがみられる豪州向け(同+5.9%)も同様に底入れの動きが確認されており、中国との関係が貿易動向を左右している様子がうかがえる。他方、米国向け(前年比▲8.2%)やEU向け(同▲12.6%)、日本向け(同▲13.0%)などは軒並み前年を下回る推移が続いており、関係悪化に加えて景気を巡る不透明感が重石になる動きがみられる。ただし、最大の輸出相手となっているASEAN向け(前年比▲15.1%)のほか、南米向け(同▲6.0%)、アフリカ向け(同▲5.0%)も軒並みマイナス幅が拡大する動きが確認されており、世界経済の減速懸念の高まりが輸出を下押ししている。財別でも、船舶(前年比+34.2%)は引き続き堅調な動きをみせているほか、中国国内における在庫の積み上がりが懸念される石油精製品(同+10.4%)も底入れする動きが確認されるなど周辺国を中心に在庫を流出させる動きがみられる。その一方、世界的には半導体をはじめとするエレクトロニクス関連の需要に底打ち感が出る動きがみられるものの、ハイテク関連(前年比▲9.2%)の輸出は下振れする展開が続いているほか、衣料品(同▲10.2%)やおもちゃ(同▲17.4%)、プラスチック製品(同▲11.3%)といったいわゆる『中国製品』の需要も軒並み下振れしており、例年この時期に活発化するクリスマス需要の弱さを反映していると捉えられる。一方、10月の輸入額は前年同月比+3.0%と前月(同▲6.2%)から8ヶ月ぶりに前年を上回る伸びに転じているほか、当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比も2ヶ月ぶりの拡大に転じている上、中期的な基調も拡大傾向に転じるなど輸出と対照的な動きをみせている。こうした動きは一見すると内需の回復を示唆しているようにみえるものの、昨年の同時期は当局によるゼロコロナ戦略が長期化、且つ強化されるなかで輸入に下押し圧力が掛かった反動が出ていることに注意する必要がある。なお、財別ではコンピュータ及び部品(前年比+60.0%)、電気機械関連(同+0.3%)をはじめとするハイテク関連(同+2.0%)のほか、自動車部品関連(同+2.7%)で底打ちする動きが確認されている。ただし、半導体(前年比▲10.0%)や半導体部材(同▲8.1%)は引き続き前年を大きく下回る伸びが続いているほか、機械製品関連(同▲12.3%)など生産設備に関連する輸入も低迷していることを勘案すれば、内需を取り巻く環境が改善していると判断するのは早計と捉えられる。また、景気対策への期待を反映して鉄鉱石(前年比+22.1%)や銅鉱石(同+34.9%)の輸入が大きく上振れする動きがみられるほか、冬場にエネルギー需要が高まることを見据えて原油(同+8.4%)や石油製品(同+56.2%)などの輸入高止まりしており、このところの市況の底入れ動きも相俟って輸入額が押し上げられている可能性がある。さらに、大豆(前年比+2.7%)のほか、様々な穀物の輸入額も底入れする動きが確認されており、在庫の補充に向けた動きが輸入を押し上げたと捉えることも出来る。よって、足下の輸入が底打ちしている動きを以って内需の回復が進むと見通すことは難しいのが実情と捉えられる。

図 2 輸出額(季節調整値)の推移
図 2 輸出額(季節調整値)の推移

図 3 輸入額(季節調整値)の推移
図 3 輸入額(季節調整値)の推移

他方、主要産油国が自主減産を年末まで延長する決定を行ったことに加え、異常気象の頻発を理由とする生育不良を受けて農産物の輸出禁止や制限に動く国が広がりをみせており、足下の商品市況は底入れの動きを強めるなか、中国においても川上の段階ではインフレ圧力が再燃する兆候がうかがえる。10月の生産者物価(調達価格)は前年同月比▲3.7%と引き続きマイナスで推移しているものの、前月比は+0.2%と3ヶ月連続で上昇しており、燃料関連や非鉄金属関連をはじめとする原材料を中心に物価上昇圧力が強まる動きがみられるなど、インフレ圧力に直面していると捉えられる。しかし、昨年の商品高に際しては、当局はインフレを警戒して企業部門に対して製品価格への原材料価格の上昇の転嫁を事実上禁止する対応をみせたほか、足下においても同様の動きが続いている可能性がある。こうした動きを反映して、10月の生産者物価(出荷価格)は前年比▲2.6%と引き続きマイナスで推移している上、前月比は+0.0%と横這いで推移しており、上述のように原材料価格に再び上昇圧力が掛かる動きがみられるにも拘らず製品価格に転嫁出来ない状況が続いている。原材料関連や中間財関連で価格上昇圧力が掛かる動きはみられるものの、消費財関連の価格は引き続き下振れする展開が続いており、需要の弱さやEC(電子商取引)サイト間の価格競争の激化を受けて耐久消費財を中心に価格に下押し圧力が掛かりやすい展開が続いている。このように川上においてインフレ圧力が再燃しているものの、川中の段階ではその影響が抑制させる動きがみられるなか、川下に当たる10月の消費者物価は前年同月比▲0.2%と3ヶ月ぶりのマイナスに転じており、前月比も▲0.1%と4ヶ月ぶりの下落に転じるなどインフレ圧力が後退する対照的な動きがみられる。原油価格の底入れの動きなどを反映してエネルギー価格は上昇する一方、生鮮品をはじめとする食料品価格は下落するなど、生活必需品を巡る物価の動きはまちまちの様相をみせている。よって、生活必需品を除いたコアインフレ率は前年同月比+0.6%と前月(同+0.8%)から伸びが鈍化している上、前月比は+0.0%と横這いで推移しており、消費財のみならずサービス物価に下押し圧力が掛かるなど、全般的にディスインフレ圧力が強まっている様子がうかがえる。10月は国慶節に伴う大型連休が重なり、今年は期間中の人の移動がコロナ禍前を上回ったとされたにも拘らず、観光関連をはじめとするサービス物価は弱含みする展開が確認されており、雇用回復が遅れるなかで家計部門の財布の紐の固さを改めて示唆する内容になったと捉えられる。

図 4 生産者物価の推移
図 4 生産者物価の推移

図 5 消費者物価上昇率(前年比)の推移
図 5 消費者物価上昇率(前年比)の推移

なお、当局はこれまで、中国経済を巡って足下も先行きもデフレ状態にはないとの認識を示してきたものの、足下の物価統計は世界的にはインフレ再燃の兆しが出ているにも拘らず、中国国内においてはディスインフレ圧力の根強さが確認されたと捉えられる。足下においては政策支援も追い風に一部の大都市で不動産市況に底打ち感が出る動きはみられるものの、地方都市においては依然として下げ止まりの兆しはみられず、バランスシート調整圧力が幅広い経済活動の足かせとなる懸念はくすぶる。上述したように、当局による対応が対症療法の域を抜けない展開が続くなか、先行きは構造問題が足かせとなる形でディスインフレ圧力がくすぶることも予想され、結果的に世界経済の重石となる展開も予想される。今年は経済成長率目標をクリア可能と見込まれるものの、来年については一段の下振れが避けられないであろう。


西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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