インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

オーストラリア・インフレ鈍化確認で、豪ドル相場はどうなる?

~短期的な利上げ観測後退も、インフレリスクは根強く下値余地は限定的か~

西濵 徹

要旨
  • 年明け以降、RBAの連続利上げとRBNZの政策金利据え置きを背景に、豪ドルはNZドルに対して上昇し、豪ドル/NZドル相場は5月末に13年ぶりの高値を付けた。しかし、その後は両中銀の政策姿勢に変化が生じた。RBAは高金利と物価高による景気や住宅市場への悪影響を警戒して6月会合で利上げを見送る一方、RBNZは7月に約3年ぶりの利上げに転じ、追加利上げの可能性を示唆したため、豪ドル優位の流れに変化がみられた。

  • オーストラリアの4-6月期のインフレ率は、原油高の一服によるエネルギー価格の下落を受けて鈍化した。6月の月次インフレ率も低下基調にあるものの、コアインフレ率は高止まりし、医療、教育、金融、住宅などのサービス価格には根強い上昇圧力が残っている。さらに、7月以降はイラン情勢の再悪化で原油価格が上昇に転じており、新築住宅価格や家賃の上昇のほか、堅調な雇用環境も含めて、先行きのインフレには不透明感が強い。

  • 物価の鈍化を受け、RBAが短期的に追加利上げに動くとの観測は後退するとみられる。ただし、インフレ率は引き続き目標レンジを上回り、雇用の底堅さやサービス物価の高止まりも続いているため、RBAはインフレ警戒姿勢を維持する可能性が高い。豪ドル相場は短期的に上値が重くなるとみられるものの、RBAのタカ派姿勢や原油価格の上昇が下支えとなり、下落余地も限定的と見込まれる。

目次

【オセアニア通貨(オージーとキウィ)を巡る動きに変化】

年明け以降のオセアニア通貨については、オージー(豪ドル)がキウィ(NZドル)に対して強含みする展開が続き、豪ドル/NZドル相場は5月末に一時13年ぶりの高値を記録した(図1)。この背景には、RBA(オーストラリア準備銀行)とRBNZ(ニュージーランド準備銀行)の金融政策の違いがある。RBAは今年2月に2年3ヵ月ぶりの利上げに踏み切り、その後も3月、5月と3会合連続で利上げを実施するなど、金融引き締めを強化した。一方で、RBNZは2月会合で様子見姿勢を維持するとともに、ハト派寄りの姿勢を示した。RBNZは4月、5月と連続で政策金利を据え置いたことで、豪ドルはNZドルに対して強含むことにつながった。

図表
図表

しかし、その後の金融市場では、RBAとRBNZの政策スタンスが「逆転」するとの見方が強まり、豪ドル/NZドル相場に変化の兆しが出た。イラン情勢の悪化による原油などエネルギー価格の上昇が世界的なインフレを招くなか、ともに原油備蓄が乏しいオーストラリア、ニュージーランド両国でもエネルギーを中心にインフレ圧力が強まった。オーストラリアでは、RBAによる断続的な利上げ実施を受けた高金利と物価高が併存し、その副作用への懸念が高まったことから、RBAは6月会合で4会合ぶりに政策金利を据え置いた。RBAは追加利上げを排除しない考えを示したものの、消費者や企業マインドの悪化に加え、上昇基調が続いてきた住宅市況にも変調の兆しがみられるようになり、金融市場では利下げに転じるとの見方が強まった。一方で、RBNZは7月会合で約3年ぶりの利上げに舵を切り、先行きも慎重に利上げを進める考えを示した。このように両国の金融政策のスタンスが変化したことが、5月末以降の豪ドル/NZドル相場の変化をもたらした。

【原油高一服でインフレ率は鈍化も、先行きには不透明感が残る】

先行きの豪ドル/NZドル相場については、RBAの政策運営を左右する物価動向に注目が集まっている。両国の物価統計は長らく四半期ベースで公表されてきたため、金融政策の判断に際しても四半期統計が重視される傾向がある。オーストラリアの4-6月消費者物価は前年同期比+4.0%とRBAが定める目標レンジ(2~3%)の上限を4四半期連続で上回ったものの、前期(同+4.1%)から伸びが鈍化した(図2)。前期比も+0.60%と、米国とイランの停戦合意による原油高一服でエネルギー価格が下落し、教養・娯楽関連のサービス物価が押し下げ要因となったことが影響し、前期(同+1.38%)から上昇ペースが鈍化した。一方で、コアインフレ率の指標であるトリム平均(刈り込み平均)ベースのインフレ率は前年同期比+3.6%と前期(同+3.5%)からわずかに加速したものの、RBAが5月会合時点で示した見通し(同+3.8%)を下回った。なお、前期比は+0.8%と、教養・娯楽以外のサービス物価(医療、教育、金融など)で幅広く上昇したことが影響し、前期(同+0.8%)と同じペースで上昇している。

図表
図表

2025年11月から実態に即した形で公表している月次ベースのインフレ率も、6月は前年同月比+3.8%と前月(同+4.0%)から鈍化して4ヵ月ぶりの低い伸びとなるなど鈍化基調にある(図3)。前月比も▲0.06%と、原油高一服によるエネルギー価格の下落が続いているほか、輸送コストの下落を反映して幅広い財価格に下押し圧力がかかったことが影響し、前月(同▲0.69%)から2ヵ月連続で下落している。

図表
図表

しかし、コアインフレ率(トリム平均ベース)は前年同月比+3.6%と前月(同+3.6%)から横ばいで推移しているうえ、前月比は+0.3%と前月(同+0.4%)からペースは鈍化しているものの上昇基調が続いている。RBAが月次ベースの物価統計のなかで注視してきた物価変動の大きい財と観光を除いたベースでは、前年同月比+4.2%と前月(同+4.0%)から加速しており、基準の違いに留意する必要があるものの、2023年12月以来の高い伸びとなった。なお、前月比は+0.02%と前月(同+0.18%)から上昇ペースは鈍化しており、幅広く財価格に下押し圧力がかかる一方、サービス物価は足元の雇用環境が押し上げ要因となって上昇ペースが加速している(注1)。

7月に入って以降は、イラン情勢が再びエスカレートして原油価格が上昇に転じており、ここ数ヵ月のエネルギー価格の下落がインフレ圧力の後退を促した状況は大きく変化している。さらに、国際商品市況の上昇による交易条件の改善が国民所得を押し上げているうえ、資材価格や人件費の上昇が転嫁される形で新築住宅価格は約3年ぶりの高い伸びとなるとともに、家賃も上昇が続くなどサービス物価を押し上げる一因となっている。

【短期的な利上げ観測後退も、インフレ警戒が豪ドル相場に与える影響は】

インフレ鈍化の動きが確認されたことを受けて、金融市場では当面、RBAが短期的に追加利上げに動く可能性が低下したとの見方が広がると予想される。しかし、インフレ鈍化を促した原油高一服の動きは反転しているうえ、イラン情勢は見通しが立たないなか、インフレリスクの解消にはほど遠い状況にある。さらに、サービス物価は高止まりが続いているうえ、足元の雇用の底堅さが確認されており、先行きもサービス物価の上昇を促す材料は多い。このため、先行きもインフレ率は目標レンジを上回る伸びが続き、RBAはインフレリスクへの警戒姿勢を維持すると見込まれる。

このところの豪ドル相場は、RBAによる追加利上げ観測を反映して底堅い動きをみせてきたものの(図4)、短期的には上値の重い動きをみせると見込まれる。しかし、RBAがタカ派姿勢を維持するとみられ、下値は限定的なものにとどまり、原油価格の動向などが相場の下支え要因となる可能性がある点には留意が必要である。

図表
図表

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ