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2023.10.06
アジア経済
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インド中銀、4会合連続の金利据え置き、物価と為替安定へ「何でもあり」の様相
~政府同様に総選挙を見据えて物価と為替の安定になりふり構わぬ姿勢をみせる可能性~
西濵 徹
- 要旨
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- • 昨年のインドでは、商品高、米ドル高に伴うルピー安、景気回復も追い風にインフレが大きく上振れしたため、中銀は断続、且つ大幅利上げを余儀なくされた。物価高と金利高の共存を受けて昨年末にかけては景気減速局面入りしたが、年明け以降はインフレ鈍化や利上げ局面の休止も追い風に景気は一転底入れしている。しかし、足下ではカリフ期作(雨季作)の低迷に加え、世界的なエネルギー・食料インフレ、米ドル高を受けてインフレが再燃する動きがみられる。こうしたなか、中銀は6日の定例会合で4会合連続の金利据え置きを決定し、成長率とインフレ見通しを維持する一方、インフレ圧力を警戒する姿勢をみせる。先行きの政策運営について再利上げに含みを持たせたが、ルピー安圧力が強まるなかで通貨防衛を目的とする為替介入を積極化させている模様である。政府は来年の総選挙を見据えて物価安定になりふり構わぬ姿勢をみせるなか、中銀も物価と為替の安定を目的に「何でもあり」の姿勢を強める可能性は高いと見込まれる。
昨年のインドでは、商品高の動きに加え、国際金融市場における米ドル高を反映した通貨ルピー安に伴う輸入インフレ、コロナ禍の一巡による経済活動の正常化の動きも追い風に、インフレが大きく上振れする事態に直面した。さらに、インドは国内における原油消費量の7割を輸入に依存するなか、原油市況の上振れの動きはインフレのみならず、輸入増を通じて対外収支の悪化を招くなど、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さが増すことに繋がる。そして、対外収支の悪化を警戒した資金流出の動きはルピー安を招いて輸入インフレ圧力を増幅させるなど、インフレを巡る悪循環に繋がりやすい特徴を有する。他方、コロナ禍対応を目的に、中銀(インド準備銀行)は利下げのみならず、事実上の財政ファイナンスを実施するなど異例の金融緩和に舵を切ったものの、昨年5月に一転して緊急利上げに動くとともに、その後も物価と為替の安定を目的に断続、大幅利上げを余儀なくされた。とはいえ、中銀による金融引き締めにも拘らずインフレは高止まりする展開が続き、物価高と金利高の共存状態が長期化したことで、昨年末にかけては2四半期連続で季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率はマイナスになったと試算されるなど、景気後退局面に陥る事態となった。なお、ロシアによるウクライナ侵攻を機に欧米などはロシアに対する経済制裁を強化したものの、インドは『等距離外交』を国是とするなかで欧米などに同調せず、割安なロシア産原油の輸入を拡大させるなど国益を重視する対応をみせた(注1)。また、昨年末以降は商品高や米ドル高の動きが一巡するなど、インフレ要因が後退したこともあり、年明け以降のインフレ率は頭打ちの動きを強めるとともに、中銀の定めるインフレ目標の範囲内で推移するなど落ち着きを取り戻す様子が確認された。よって、中銀は今年4月に1年弱に及んだ利上げ局面を休止させるとともに、その後は政策金利を維持する対応をみせた。こうしたことから、年明け以降の同国景気はインフレ鈍化による実質購買力の押し上げの動きに加え、ここ数年の米中摩擦の激化やコロナ禍、ウクライナ戦争を機にデリスキング(リスク低減)を目指した世界的なサプライチェーン見直しの動きが広がることも追い風に対内直接投資が活発化するなど、足下の景気は一転して底入れの動きを強めている(注2)。ただし、今年はモンスーン(雨季)の雨量が8年ぶりの低水準となり作付面積が大幅に下振れしており、コメや小麦、砂糖のほか、タマネギやトマトの生産低迷によりこれらの価格が上昇して新たなインフレ圧力となる動きがみられる。さらに、主要産油国による自主減産の延長を受けて原油価格は底入れの動きを強めているほか、国際金融市場においては米長期金利の高止まりを理由に米ドル高の動きが再燃してルピー安圧力が強まり、インフレが再び上振れする動きもみられる。同国では来年に総選挙が予定されるなか、モディ首相、及び与党BJP(インド人民党)は総選挙の勝利と政権3期目入りを確実にすべく、大宗の白米の禁輸やタマネギを対象に輸出関税を課すなど国内供給を優先することで物価安定を図る動きをみせる。こうした対応にも拘らず、8月のインフレ率は前年比+6.83%と2ヶ月連続で中銀目標(4~6%)の上限を上回る推移が続いており、中銀はインフレ率を目標域の下限に抑える姿勢をみせるなかで難しい状況に直面している。こうしたなか、中銀は6日の定例会合において政策金利であるレポ金利を4会合連続で6.50%に据え置くとともに、政策の方向性についても「金融緩和の解除に注力する」との方針を維持する決定を行っている。会合後に公表した声明文では、今回の決定について政策金利は前回一致で据え置かれる一方、政策の方向については今回も「5(維持)対1(留保)」と票が割れた模様である。なお、世界経済について「モメンタムを失っている」との認識を示す一方、同国経済については「経済活動は力強い」としつつ、物価動向について「カリフ期作(雨季作)を巡る不確実性に伴い見通しは混乱する」との見方を示している。また、物価見通しについて「短期的には改善が見込まれるが、中長期的にはカリフ期作の動向、エルニーニョ現象の動向、世界的なエネルギーと食料品価格の動向に左右される」とした上で、「今年度のインフレ率は+5.4%になり、リスクは均衡している」と従来見通しを据え置いている。また、景気見通しについても「世界経済の動向や地政学リスク、金融市場の動向、エネルギー価格や気候変動を巡るリスクが懸念される」としつつ、「サービス部門の堅調さや地方部における需要回復、家計及び企業部門のマインド改善が追い風になる」として「今年度の経済成長率は+6.5%になる」と従来見通しを据え置いている(注3)。今回の決定については「世界的な食料品とエネルギー価格の高騰と国際金融市場のボラティリティの高さを勘案して厳戒態勢を維持する」とした上で、先行きは「状況が許せば適時適切に政策措置を講じる用意がある」、「断固としてインフレ期待の固定化に取り組む」など、再利上げに含みを持たせる考えをみせた。なお、このところの国際金融市場では米ドル高の動きが再燃していることを反映してルピー安圧力が強まるなか、中銀は通貨防衛に向けた為替介入の動きを積極化させている模様である。こうした動きをみせているものの、足下の外貨準備高は国際金融市場の動揺への耐性の有無を示すARA(適正水準評価)に照らして『適正水準』とされる規模を大きく上回ると試算されるため、今後も中銀は積極的な為替介入を続ける可能性は高いと見込まれる。上述のように政府は物価安定に向けてなりふり構わぬ対応をみせているが、中銀も同様に物価と為替の安定を目的に『何でもあり』の姿勢をみせる可能性は高いと予想される。




注1 8月8日付レポート「「実利優先」の姿勢をみせるインドをどのようにみるか」
注2 9月1日付レポート「インド景気は底入れ確認も、食料インフレの再燃が足を引っ張るか」
注3 8月10日付レポート「インド中銀、3会合連続の金利据え置きも食料インフレを警戒」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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