インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ペルー中銀、インフレ鈍化を好感して利下げ実施も、追加利下げには慎重

~今後は景気下支えに注力したい政府と慎重姿勢の中銀の間で軋轢が生じる可能性も~

西濵 徹

要旨
  • 14日、ペルー中銀は定例会合で政策金利を25bp引き下げて7.50%とする決定を行った。同国では昨年末以降、政情や社会の混乱が経済の足を引っ張るとともに、物価高と金利高の共存も景気の足かせとなってきた。中銀は今年2月に利上げ局面を休止するも高金利を維持し、インフレ鈍化による実質金利のプラス幅拡大は通貨ソル相場を下支えしてきた。また、その後もインフレの頭打ちが続いたことは中銀の利下げ実施を後押ししたとみられる。ただし、中銀は利下げサイクルに入った訳ではないと慎重姿勢を維持している。総選挙の前倒しが見込まれるなかで政府は景気下支えを目指す一方、中銀は慎重姿勢を崩しておらず、先行きの政策運営を巡っては両者の間で軋轢が生じる可能性に注意する必要があると考えられる。

南米ペルーにおいては、昨年末にカスティジョ前大統領への弾劾が成立し、副大統領であったボルアルテ氏が大統領に昇格して同国初の女性大統領が誕生した。ただし、カスティジョ氏が自身の弾劾直前に議会の閉鎖、解散による臨時政府樹立を試みたことが反逆罪に問われ、身柄が拘束されたことを機に同氏や政権を支えた急進左派政党のPL(自由ペルー)の支持者を中心にデモが激化し、一部が暴徒化する事態に発展した。政府は治安維持を目的に非常事態宣言の発令に動いたが、足下においてもその対象は段階的に縮小されるも度々延長される展開が続いているほか、今年はエルニーニョ現象に伴う集中豪雨をきっかけにデング熱を媒介する蚊が急増して感染爆発状態となり、デング熱に対する非常事態宣言の発令にも追い込まれている。なお、昨年末以降のデモの激化やその長期化を受け、同国経済の柱のひとつである観光産業に深刻な悪影響が出るとともに、複数の鉱山が襲撃されて稼働停止を余儀なくされる事態となるなど、幅広く経済活動に下押し圧力が掛かった。さらに、商品高や国際金融市場での米ドル高による通貨ソル安を受けた輸入インフレも重なり、インフレ率は大きく上振れして一時16年ぶりの高水準に加速したため、中銀は一昨年8月から今年1月まで18会合連続の利上げを余儀なくされた。ただし、中銀による断続利上げにも拘らずインフレは高止まりする展開が続くとともに、金利高の共存も重なり景気の足かせとなることが懸念された。一方、昨年末以降はインフレ要因である商品高の動きが一巡するとともに、米ドル高の動きも一服したことも重なり、高止まりしてきたインフレ率は足下で頭打ちの動きを強めて実質購買力が押し上げられるなど、景気の底打ちに繋がる動きがみられる。同国政府は前年同期比ベースの実質GDP成長率しか公表しておらず、年明け以降は2四半期連続のマイナス成長となるなど一見するとテクニカル・リセッションに陥っているものの、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率は2四半期連続でわずかながらプラス成長で推移している。ただし、実質GDP(季節調整値)は足下においても昨年半ばを下回る水準に留まると試算されるなど、上述した昨年後半以降における政治、及び経済の混乱の影響を克服出来ていないと捉えられる。その一方、年明け以降は頭打ちの動きを強めているインフレ率は依然として中銀目標(2±1%)の上限を上回る推移が続いているものの、その後も頭打ちの動きを強めるなど落ち着きを取り戻している。また、足下のインフレ率は鈍化するなか、中銀は今年2月に利上げ局面の休止に動くも、その後も高金利を維持して実質金利のプラス幅は拡大するなど投資家にとり投資妙味が向上したため、年明け以降のソル相場は政治情勢を巡る不透明さにも拘らず堅調な推移をみせており、結果的にインフレ鈍化を促してきたと捉えられる。こうしたなか、中銀は14日に開催した定例会合において政策金利を25bp引き下げて7.50%とする決定を行うなど、2月以降の利上げ局面から一転利下げに動いた格好である。ただし、会合後に公表した声明文では、今回の決定について「利下げサイクル入りを必ずしも示唆しているものではない」とした上で、先行きの政策運営について「物価動向や経済のファンダメンタルズを巡る状況次第」とする考えを示している。さらに、足下のインフレ率は頭打ちの動きを強めているものの「依然として中銀目標の上限を上回っている」とした上で、先行きについて「一段と鈍化して来年初めには目標域に収まる」との見通しを示しつつ、「気候要因に関連したリスクはくすぶる」と注視する考えをみせている。なお、同国は世界2位の銅生産国であり、ソル相場は銅をはじめとする商品市況の動向の影響を受けやすいなか、足下では中国経済を巡る不透明感が市況の重石となり、ソル相場の上値が抑えられる動きもみられる。上述のように景気回復の動きは遅れており、総選挙の前倒しが見込まれるなかで政府は景気下支えに注力したいとの思惑を有する一方、中銀は慎重姿勢を崩しておらず、今後は両者の間で軋轢が生じる可能性にも注意が必要と考えられる。

図1 実質GDP(季調値・試算)と成長率(前年比)の推移
図1 実質GDP(季調値・試算)と成長率(前年比)の推移

図2 インフレ率の推移
図2 インフレ率の推移

図3 ソル相場(対ドル)の推移
図3 ソル相場(対ドル)の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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