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2023.07.14
アジア経済
タイ経済
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タイ、首班指名選挙が行われるも「決めきれない」
~ピタ氏や前進党を取り巻く環境は厳しさを増すなか、こう着状態長期化で政局混乱に陥る可能性も~
西濵 徹
- 要旨
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- タイでは今年5月の総選挙で民主派が議会下院の多数派を形成することに成功した。民主派の8党は次期政権樹立に向け連立形成で合意するも、第1党となった前進党や首班指名を目指すピタ党首を巡っては保守派を中心に拒否感が根強く、その行方は不透明な状況が続いてきた。13日に議会上下院による首班指名選挙が行われたが、反対・棄権票が多数となるなど保守派が壁となった。ピタ氏は19日に行われる再選挙への出馬意向を示すが、足下では前進党やピタ氏の憲法違反を訴える動きが強まるなど、その行方は不透明である。タクシン派の貢献党が連立脱退による保守派取り込みを目指すとの見方もある一方、国民の政治不信が一段と高まり政情不安に発展する懸念もある。バーツ相場は政局混乱と無関係な動きが続いているが、事態や混乱が長期化すればそうした見方が一変する可能性に要注意と捉えられる。
タイでは、今年5月に実施された議会下院(人民代表院)総選挙において、選挙戦終盤にかけて支持を集めた『反軍政』を掲げる民主派の前進党が第1党(151議席)となるなど躍進したほか、いわゆる『タクシン派』のタイ貢献党も第2党(141議席)となる一方、選挙前の与党であった親軍政党は議席を大きく減らして少数派に転じた(注 )。総選挙後には、上記の両党を含む計8党が前進党のピタ党首を首班候補に一本化するとともに、政権樹立に向けた連立を組むことで合意したものの、8党を併せた議席数は312議席と議会下院(総議席数500)では多数派を構成することが出来ている。しかし、首班指名選挙は議会下院に加え、議会上院(元老院:総議席数250)を併せた750人による投票で行われるため、8党だけでは半数(375議席)に満たない。さらに、上院議員は軍政下で国軍により任命されており、その人選を巡っても親軍色、且つ保守色が反映されているほか、前進党は急進的な政権公約(不敬罪の緩和、徴兵制の廃止など)を掲げて大躍進を果たすも、保守派の間にはこうした政権公約に対する拒否感が強く、結果的にピタ氏に対する反発が強まる動きがみられた。他方、総選挙後の議会招集を前に、前進党と貢献党の間では下院議長をはじめとする重要ポストを巡る綱引きが激化するとともに、結果として対立が表面化し両党の間に『すきま風』が吹くなど、政権樹立を前に連立の枠組そのものに不透明感が増す動きもみられた。最終的に下院議長には連立内で第3党である国民国家党(プラチャーチャート)党首のワンムハマドノー氏(通称ワンノー)が就任する形で妥協が図られるとともに、一旦は首班指名選挙実施に向けた道筋が付けられた(注 )。こうしたなか、13日に議会上下院による首班指名選挙が行われ、ピタ氏が唯一の立候補者となったものの、ピタ氏への賛成票は324票と半数を下回ったことで持ち越しとなった。事前には上院議員のなかでピタ氏に投票するのは数票との見方が示されていたなか、結果的に13票を獲得するなど事前予想に比べれば善戦したとも捉えられる。しかし、投票直前には上院議員1名が辞任しており、総数749票による投票が行われたが、棄権票が199票、反対票が182票、そして、上院議員の44人が欠席(無投票)するなど、議会上院の大宗を占める保守派が『壁』になった格好である。なお、ワンムハマドノー下院議長は13日の投票で決定しなかった場合は19日に仕切り直しの選挙を行う方針を示していたため、今回の結果を受けて19日に再選挙が行われる予定となる。ピタ氏自身も今回の結果を受け、「結果を受け入れるが諦めていない」、「結果は期待通りとはならなかったが、再投票に向けて支援を得るべく努力する」、「政策は変えず、国民への約束を守るべきだ」と述べるなど、再投票に臨む考えを示している。ピタ氏は8党から再指名を受ければ再投票に立候補することが可能となるが、その足下には不透明感が漂う動きもみられる。というのも、首班指名選挙の直前の12日に保守派弁護士などが憲法裁判所に対して、同党の政権公約(不敬罪の改正・廃止)が政権転覆を目的とするなど憲法違反に当たるとして訴状を提出し、これが受理されるなど今後審理が行われる見通しとなっている。また、ピタ氏を巡っては、総選挙に出馬した際にメディア企業の株式を保有している旨の報告を怠ったことが憲法違反に当たるとして選挙管理委員会に提訴されていたが、12日に選挙管理委員会はピタ氏の立候補資格がなかったとの訴えは正当性があるとの見解を示すとともに、憲法裁判所に対して判断を仰ぐべく勧告を行う動きもみられる。仮に憲法違反と認定されれば、前進党は解党を余儀なくされる上、ピタ氏をはじめとする党役員は公民権停止処分を受けるなど、首班指名選挙どころではなくなる。こうした保守派による相次ぐ動きは、総選挙により退潮が鮮明になったことに対する『悪あがき』と捉えられる一方、保守派の間には前進党を中心とする民主派が『数の論理』を盾に圧力を強めていることへの反発もうかがえるなか、現行制度を駆使した動きは今後も活発化することが予想される。現地報道によれば、今回の首班指名選挙で壁となった保守派を取り込むべく、貢献党が8党連立を脱退して親軍政党との連立を模索しているとの見方も根強くある。そうなれば次期政権樹立への道筋は描きやすくなる一方、総選挙での『民意』を無視した政界工作は国民からの反発を招く恐れがあり、結果的にこうした動きへの反対デモが活発化して混乱が長期化することも懸念される。金融市場においては同国の政局混乱は『日常茶飯事』と見做される傾向があるものの、事態が長期化するとともに混乱が拡大すればそうした見方が一変する可能性に要注意と考えられる。


注1 5月15日付レポート「タイ総選挙は前進党が第1党に、民主派が大勝利も次期政権の行方は混とん」
注2 7月5日付レポート「タイ、下院議長選出で前進党と貢献党が「妥協」も、首班指名は未だ見通せず」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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