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2023.07.13
アジア経済
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為替
韓国中銀、自律的な政策運営は困難な一方、家計債務の動きを再び警戒
~一部に不動産価格の底打ちによる家計債務拡大の動き、ノンバンクを巡るリスクにも警戒感を示す~
西濵 徹
- 要旨
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- 韓国経済はコロナ禍からの回復を遂げるも、昨年以降は商品高やウォン安が重なる形でインフレが昂進したため、中銀は断続、且つ大幅利上げを迫られた。足下では商品高の一服や米ドル高の一巡も重なり、インフレは大きく鈍化している一方、利上げの累積効果が重石となり一部を除いて不動産価格の調整が続く。インフレ鈍化は家計マインドを押し上げる一方、外需の不透明感は企業マインドの足かせとなる対照的な動きが続いているが、先行きは企業マインドの悪化が雇用を通じて家計部門に波及する可能性はくすぶる。
- インフレ鈍化を受けて中銀は今年2月に利上げ局面の休止に動き、その後も一段と鈍化しており、13日の定例会合でも4会合連続で政策金利を据え置いている。なお、先行きのインフレは中銀目標を上回る推移が続くとの見方を維持するとともに、ノンバンクを巡るリスクや家計債務の拡大を警戒するなど、再利上げの可能性に含みを持たせる姿勢も示す。外需を中心に先行きの景気に対する不透明感はくすぶるも、金融市場で高まる利下げ観測を再び諫める姿勢もみせるなど難しい対応を迫られる状況が続く。自律的な政策運営が困難になるなか、韓国経済を取り巻く状況は外部環境に揺さぶられる展開が続くことは避けられない。
韓国経済を巡っては、コロナ禍からの景気回復が進む動きがみられたものの、昨年来の商品高による生活必需品を中心とする物価上昇に加え、国際金融市場での米ドル高を受けたウォン安に伴う輸入インフレが重なり、一時はインフレ率が約24年ぶりの高水準に加速する事態に直面した。また、中銀はコロナ禍対応を目的に、利下げや事実上の量的緩和など異例の金融緩和に舵を切ったが、その後の景気回復を追い風に余剰資金が首都ソウルなど大都市を中心とする不動産市場に流入したため、価格が急上昇するなどバブルが懸念される事態となった。こうしたことから、中銀は一昨年8月に物価安定に向けて利上げに舵を切り、その後は物価と為替の安定を目的に断続、且つ大幅利上げを余儀なくされるなど難しい対応を迫られた。なお、昨年末以降は米ドル高が一巡している上、商品高も一服して足下では世界経済の減速懸念を反映して調整する動きをみせており、インフレ率も昨年7月を境に頭打ちに転じるとともに、その後も鈍化の動きを強めるなど一見インフレ収束に向かっている様子がうかがえる。なお、食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率は一時に比べて低下しているものの、依然として歴史的にみれば高水準での推移が続いており、インフレが収束したと判断することは些か早計と言える。他方、中銀による断続利上げに伴い不動産市況は一転して調整の動きを強めており、足下では首都ソウルやセジョン(世宗)特別自治市など一部に底打ちする動きがみられるものの、今月初めの時点でもほとんどの地域で調整が続いている。昨年末時点における同国の家計部門が抱える債務残高はGDP比105.0%(BISベース)とアジア太平洋域内で突出した水準となっている上、その9割以上を住宅ローンが占めており、不動産価格の低迷は逆資産効果を通じて家計消費の足を引っ張ることが懸念される。ただし、上述のように生活必需品を中心とする物価安定を受けたインフレ鈍化の動きは実質購買力を押し上げるとともに、家計部門のマインドを下支えしている。一方、同国経済は輸出依存度が比較的高い上、財輸出の4分の1強、コロナ禍前には外国人観光客の4割弱を中国(含、香港・マカオ)が示すなど中国経済の動向に左右されやすい体質を有する。よって、昨年末以降に中国がゼロコロナ終了に舵を切ったことは同国経済の追い風になることが期待されたものの、中国景気の息切れが意識されるなかで企業マインドは勢いに乏しい推移が続いており、底入れする家計マインドと対照的な動きをみせている。足下の家計マインドの改善には雇用環境が底入れしていることも追い風になっているとみられるが、企業マインドの低迷が長期化すれば雇用悪化を通じて家計マインドの足かせとなることが懸念される。


足下の韓国経済を巡っては、外需を中心に不透明感がくすぶるなか、中銀は物価と為替の安定を目的に断続利上げに動いてきたものの、上述のようにインフレ率は頭打ちに転じていることを受け、今年2月に1年半に及んだ利上げ局面の『一時休止』を決定した(注1)。さらに、その後もインフレ率は一段と鈍化して実質金利はプラスに転じているものの、コアインフレ率は高止まりするなどインフレ鎮静化にはほど遠い状況が続いている上、国際金融市場においてはウォン安圧力がくすぶるなど輸入インフレが再燃する懸念がくすぶる。よって、外需を中心に景気を巡る不透明感がくすぶるにも拘らず、中銀は政策金利を据え置く対応を維持せざるを得ず、13日に開催した定例会合においても4会合連続で政策金利を3.50%に据え置いて利上げ休止状態を維持している。会合後に公表した声明文では、今回の決定について「インフレは鈍化しているが、来月以降は再び底入れして相当期間に亘って目標を上回る推移が見込まれる」として「主要国の金融政策や家計債務の動向を注視する必要があり、現状の抑制的なスタンスを維持することが適切」とした上で、「再利上げの必要性は国内外の状況を見極めながら判断する」と追加利上げに含みを持たせる考えを示した。その上で、世界経済について「想定以上に好調を維持しているが、今後は金利高の影響で徐々に鈍化する」とし、国際金融市場について「ドル安が進む動きがみられるが、先行きは世界的なインフレ動向、主要国の金融政策、中国景気の動向に左右される」との見方を示している。一方、同国経済については「外需低迷の緩和を受けて景気の下振れ懸念は後退しており、雇用環境も概ね良好な推移が続いている」としつつ、先行きは「家計消費の緩やかな回復や輸出の改善を追い風に緩やかな改善が続く」として「今年通年の経済成長率は+1.4%と従来予想通りとなる」との見通しを示した。物価動向についても「原油価格の調整に伴い鈍化している」としつつ、先行きは「8月以降底打ちして年末までは3%台で推移する」ことで「今年通年のインフレ率は+3.5%と従来予想通りになる」とする一方、「コアインフレ率は従来予想を上回る」との見通しを示す。他方、金融市場について「ウォン相場は外部環境の影響を受ける展開が続く」とする一方、「ノンバンクを巡るリスクが拡大している上、住宅ローンをけん引役に家計債務の拡大が続いている」と引き続きその動きを警戒する動きをみせている。そして、先行きの政策運営については「金融市場の安定に留意しつつ、景気安定と中期的な観点での物価安定を目指す」と足下のインフレ鈍化を受けて幾分ハト派的な姿勢を強める動きをみせている。その一方、「政策運営を巡る不確実性は高い」とした上で、「相当期間に亘り物価安定に重点を置いた抑制的なスタンスを維持する」と従来の考えを改めて強調しつつ「再利上げの必要性は物価動向、金融市場を巡るリスク、景気の下振れリスク、これまでの利上げによる効果、主要国の金融政策などを十分に勘案して判断する」と慎重姿勢をみせている。なお、会合後に記者会見に臨んだ同行の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は、今回の決定について「全会一致であった」としつつ、「6人の政策委員がもう一回利上げを行う機会を維持すべきと考えている」と、政策委員の間で5月の前回会合と同じ考えが示されたことを明らかにしている(注2)。また、「数名の政策委員が家計債務の増加に懸念を示している」とした上で、「短期的な金融市場を巡るリスクにはミクロ的な対応を取る必要がある」と述べるなど、家計債務の抑制に向けて個別対応を行う可能性に含みを持たせた。その上で、ウォン相場について「米国との金利差だけの影響を受けている訳ではない」としつつ、金融市場において高まる利下げ観測を念頭に「これまで政策委員が利下げについて協議したことはない」と述べるなど再び諫める姿勢をみせた。その一方、先行きの景気について「半導体セクターと中国景気の行方に極めて高い不確実性がある」と述べるなど、景気に対する不透明感はくすぶるものの、中銀としては金融緩和に動けないなど自律的な政策運営が困難となるなかで外部環境に揺さぶられる展開が続くことは避けられないであろう。


注1 2月24日付レポート「韓国中銀、1年半に及ぶ利上げ局面の一時休止決定も不確実性に留意」
注2 5月25日付レポート「韓国中銀、景気下振れを意識する一方でウォン相場への目配りに苦慮」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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