インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

韓国中銀、景気下振れを意識する一方でウォン相場への目配りに苦慮

~早期の利下げ観測に口先介入を強める一方、国内・外で景気の不透明要因が山積する展開が続く~

西濵 徹

要旨
  • 昨年来の韓国経済はコロナ禍からの回復が進んだが、物価高と金利高の共存が内需の足かせとなるとともに、世界経済の減速が外需の重石となる状況に直面している。インフレ率はピークアウトするも依然高水準で推移しており、不動産市況の調整は逆資産効果を招く状況が続くなか、中国のゼロコロナ終了にも拘らず輸出は低迷するなど、足下では景気浮揚に向けた糸口を見出しにくい状況に直面していると捉えられる。
  • 中銀は昨年半ばを境にインフレが鈍化したことを受け、2月に1年半に及んだ利上げ局面の休止に動いた。しかし、足下ではウォン相場の上値が抑えられる展開が続くなど、輸入インフレが再燃する懸念はくすぶる。こうした状況ながら、中銀は25日の定例会合で3会合連続の金利据え置きを決定した。IT関連や中国景気の不透明感を理由に成長率見通しを下方修正する一方、金融市場で広がる早期の利下げ観測を諫めるべく政策委員の大宗が追加利上げの余地を確保すべきと考えていると述べるなど難しい対応を迫られている。こうした背景にはウォン安が輸入インフレを招くことを警戒しているとみられるが、国内・外に景気の不透明要因が山積するなか、中銀としてはウォン相場の行方にも目配りせざるを得ない難しい対応が続こう。

昨年来の韓国経済を巡っては、コロナ禍からの景気回復が進む動きがみられるも、商品高を受けた生活必需品を中心とする物価上昇に加え、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ウォン安に伴う輸入インフレも重なり、インフレ率は約24年ぶりの高水準となる事態に直面した。さらに、コロナ禍対応を目的に中銀は利下げのみならず、事実上の量的緩和政策に動くなど異例の金融緩和に舵を切ったものの、その後の景気回復を受けて余剰資金は首都ソウルなど大都市部を中心とする不動産市場に流入し、市況高騰を招くなどバブル化する懸念が高まった。よって、中銀は一昨年8月に物価安定を目的に利上げ実施に舵を切ったほか、その後も物価と為替の安定を目的に断続的、且つ大幅利上げを余儀なくされるなど難しい対応を迫られた。なお、昨年末以降は米ドル高の動きが一巡するとともに、足下では世界経済の減速懸念を理由に商品市況も頭打ちしており、インフレ率は昨年7月を境にピークアウトが進む動きがみられるものの、依然中銀の定めるインフレ目標(2%)を上回る水準にあるなど、物価高と金利高が共存するなど景気に冷や水を浴びせる懸念が高まっている。また、景気回復を追い風に急上昇した不動産市況は金利上昇を受けて一転頭打ちしており、今月中旬時点においても下落局面に歯止めが掛からない状況が続いている。同国の家計部門については、債務残高がGDP比で105.3%(昨年9月末時点:BIS基準)に達するなど主要国と比較しても突出した水準となっている上、その9割超を住宅ローンが占めるなど不動産市況の影響を受けやすい体質を有する。なお、同国経済は構造面でアジア新興国のなかでも相対的に外需依存度が高く、財輸出の4分の1強、コロナ禍前には外国人観光客の4割弱を中国(含、香港・マカオ)が占めるなど、昨年末以降における中国よるゼロコロナ終了の動きは景気の追い風となることが期待される。今年1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+1.14%と2四半期ぶりのプラス成長に転じるなどテクニカル・リセッション入りは回避されたものの、外需は力強さを欠く推移が続くとともに、内需は幅広く弱含む動きが確認されるなど内容は見た目以上に厳しい状況にあると判断出来る(注1)。その後の景気動向を巡っても、今月の輸出額は上中旬ベースで前年比▲16.1%と4月(同▲14.3%)からマイナス幅が拡大するなど一段と下振れする動きが確認されるなど、世界経済の減速懸念の高まりが外需の重石となる展開が続いている。そして、インフレの鈍化を受けて家計部門のマインドは底打ちする動きをみせているものの、依然としてその水準はコロナ禍後の景気回復局面の頃を下回る推移が続いており、家計消費をはじめとする内需も本調子にほど遠い状況にあると判断出来る。

図表1
図表1

足下の韓国経済については内・外需双方に景気の足を引っ張る材料がくすぶるなか、上述のように中銀は物価と為替の安定を目的に断続的な利上げ実施に動いてきたものの、インフレが鈍化したことを受けて、今年2月には1年半に及んだ利上げ局面の『一時休止』を決定している(注2)。その後もインフレ率は一段と鈍化する動きをみせる一方、国際金融市場においては米ドル高の再燃を受けて通貨ウォン相場は再び調整の動きを強めるなど、輸入インフレ圧力がくすぶる状況が続いているものの、中銀は先月の定例会合でも2会合連続で政策金利を据え置くなど景気に配慮する動きをみせている(注3)。直近4月のインフレ率は商品市況の調整なども追い風に前年比+3.7%と1年2ヶ月ぶりの水準に鈍化しているものの、コアインフレ率は同+4.0%と伸びが逆転するなどインフレ圧力がくすぶる状況は変わっていない。さらに、足下の国際金融市場においては米ドル高の再燃や中国経済を巡る不透明感を理由に同国通貨のウォン相場は上値の重い展開が続くなど輸入インフレが再燃する可能性もくすぶる。こうした状況ながら、中銀は25日の定例会合において3会合連続で政策金利を据え置く決定を行っている。会合後に公表した声明文では、今回の決定について「インフレ率は鈍化が見込まれるも相当期間に亘って目標を上回る水準で推移すると予想されるため、現行の抑制的な水準の維持が適切」とした上で、「再利上げの必要性については国内外の状況を勘案する」との考えを示した。その上で、世界経済について「想定以上に堅調な推移が続いているが、先行きの景気は抑制的な金融政策とそれに伴う信用収縮に伴い減速が予想される」としつつ、国際金融市場について「世界的な物価動向や主要国の金融政策、米ドル相場の動向、米国の中小銀行を巡るリスク、米国の債務上限交渉の行方、中国経済の動向の影響を受ける」との見方を示した。一方、同国経済について「しばらくは弱含む推移が続く」とした上で「今年通年の経済成長率は+1.4%になる」と従来見通し(+1.6%)から下方修正するとともに、「IT産業の回復時期や中国景気の動向を巡る不確実性は高い」との見方を示している。物価動向については「ベース効果による低下で年末までは3%前後での推移が予想される」として「今年通年のインフレ率は+3.5%になる」と従来見通し(+3.5%)を据え置く一方、「コスト増圧力の蓄積とサービス業の堅調さを理由にコアインフレの鈍化は緩やかなものに留まり、通年では+3.3%になる」と従来見通し(+3.0%)から上方修正している。調整が続く不動産市況については「調整ペースの鈍化が見込まれる」との見方を示した上で、先行きの政策運営について「物価安定に重点を置いて相当期間に亘って抑制的なスタンスを維持する」としつつ「再利上げの必要性については物価動向、景気の下振れリスクや金融市場を巡るリスク、過去の利上げの効果、主要国の金融政策などを十分に勘案しつつ判断する」として、政策運営の難しさを匂わせている。なお、会合後に記者会見に臨んだ同行の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は今回の決定も「全会一致で合った」とした上で、「6人の政策委員がもう一回利上げを実施する機会を維持すべきと考えている」として、4月時点(5人)から1名増えたことを明らかにしている。その上で、金融市場において高まる利下げ観測に対して「政策委員は年内における利下げ実施は時期尚早との見方を共有している」と強調するなど、前回会合同様に市場期待を諫める姿勢をみせている。また、物価動向について「年末までにインフレ率が目標(2%)に近付くか否かについては不確実性が高い」とした上で、「コアインフレは政策委員の想定ほど鈍化していない」と述べるなど、物価抑制に苦慮している様子もうかがえる。その上で、景気動向について「半導体セクターの弱さに加え、中国によるゼロコロナ終了の効果発現が遅れていることが見通しを引き下げた主要因」と述べるなど、物価及び景気に対する不透明感の高さをうかがわせた。上述のように内・外需双方に不透明要因が山積するなど景気浮揚の糸口が見出せない状況に見舞われる一方、金融市場においては早期の利下げ観測がウォン相場の重石となる展開が続いており、中銀としては「昨年の為替介入は群集心理の解消を目的としたもの」と説明するなど、今後も口先介入などによりウォン相場の安定を目指す難しい対応が迫られる局面が続くであろう。

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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