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2023.07.06
アジア経済
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為替
マレーシア中銀、新体制下初の定例会合は利上げ局面の再停止に
~インフレ鈍化を好感も、外貨準備高の過小感など外部環境に晒されやすい状況は変わっていない~
西濵 徹
- 要旨
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- 6 日、マレーシア中銀は 3 会合ぶりに政策金利を 3.00%に据え置く決定を行った。同行は今月初めに総裁が交代しており、今回は新総裁の下で初めて実施される定例会合となる。昨年の同国は高成長を実現してコロナ禍の克服が進む一方、商品高や米ドル高を受けた通貨リンギ安などによるインフレ昂進に直面した。中銀は物価と為替安定のための断続利上げを余儀なくされたが、インフレが頭打ちに転じたことを受けて年明け直後に利上げ局面を休止させた。しかし、その後も米ドル高の再燃や商品市況の調整を理由にリンギ安が進むなどインフレ懸念が高まり、中銀は 5 月に再利上げに舵を切った。他方、商品高の一服に伴い足下のインフレ率は一段と鈍化する一方、リンギ安圧力がくすぶるなかで中銀は為替介入を示唆するなど難しい対応を迫られる状況が続く。また、外貨準備高は国際金融市場の動揺への耐性が充分でないなどの問題も抱える。今回の決定は足下のインフレ鈍化の動きを好感したと捉えられる一方、先行きの政策の方向性に関する明言は避けるなど、外部環境如何では再利上げに追い込まれる可能性もくすぶるであろう。
昨年のマレーシア経済を巡っては、感染一服による経済活動の正常化や国境再開に加え、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復も追い風に、通年の経済成長率は+8.7%と 22 年ぶりの高い伸びとなるなどコロナ禍による景気悪化の影響克服が進んだ。他方、商品高による生活必需品を中心とする物価上昇に加え、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨リンギ安に伴う輸入インフレ、景気回復を追い風とする賃金インフレの動きも重なり、インフレ率は大きく上振れするとともに、コアインフレ率も過去最高水準に加速する事態に見舞われた。よって、中銀は昨年5月に物価抑制を目的にコロナ禍後初の利上げに動き、その後も物価と為替の安定を目的に断続的な利上げを実施するなど対応を迫られた。なお、中銀による金融引き締めに加え、昨年末にかけては商品高の動きが一巡したほか、米ドル高の動きに一服感が出たことも重なり、インフレ率は昨年8月をピークに頭打ちに転じたため、中銀は今年1月に半年強に及んだ利上げ局面を休止させるなど『様子見』姿勢に転じる動きをみせた。この背景には、物価高と金利高の共存状態が長期化することにより家計消費など内需の足かせとなる懸念が高まっている上、同国経済はASEAN(東南アジア諸国連合)内でも外需依存度が高く、中国のゼロコロナ終了による景気底入れが期待される一方、欧米など主要国景気が頭打ちの様相を強めるなど世界経済の減速が意識され、外需に対する不透明感が高まっていることも影響している。事実、今年1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+3.72%と2四半期ぶりのプラス成長に転じるなど底打ちしたものの、内・外需双方に不透明要因が山積するなど勢いに陰りが出る兆しが強まる動きも確認されている(注1)。また、昨年末以降は米ドル高に一服感が出る動きがみられたものの、米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀が一段の金融引き締めに動く展開が続くなかで米ドル高の動きが再燃したほか、世界経済の減速懸念の高まりを受けた商品市況の調整も重なり、リンギ安の動きが再び加速する事態に直面した。結果、商品市況の調整を受けてインフレ率は頭打ちの動きを強めているにも拘らず、経済活動の正常化を受けたサービス物価の押し上げに加え、リンギ安に伴う輸入インフレも重なりコアインフレ率は高止まりするなどインフレの鎮静化にほど遠い状況が続いてきた。こうしたことから、中銀は5月の定例会合において、インフレリスクを警戒して政策金利を3会合ぶりに引き上げるなど利上げ局面を再開させており(注2)、政策対応の困難さが増している様子がうかがえる。その後も中銀はリンギ安の進行に対応して為替介入に動く方針を明らかにしているものの、外貨準備高はIMF(国際通貨基金)が国際金融市場の動揺への耐性の有無を示す適正水準評価(ARA:Assessing Reserve Adequacy)に照らして『適正水準(100~150%)』を下回る推移が続くなど耐性が乏しい状況にある。このように対応は困難の度合いを増している一方、中銀では先月末にノル・シャムシア前総裁が任期満了を迎えるとともに、副総裁であったアブドゥル・ラシード氏が総裁に昇格することが決定している(注3)。その上で、6日に新体制の下で初の定例会合を開催し、政策金利を2会合ぶりに 3.00%に据え置く決定を行った。会合後に公表した声明文では、世界経済について「底堅い内需をけん引役に拡大が続いているが、コアインフレの高止まりと金利上昇が重石になっている」とした上で、「主要国景気のモメンタムの低下、インフレ期待の上昇、地政学リスクの激化、引き締まった金融市場環境などの下振れリスクに晒されている」との見方を示している。一方、同国経済については「足下では想定通り外需の鈍化が重石になっている」としつつ、「年内は底堅い内需に支えられる」とした上で、先行きについて「世界経済の成長鈍化など下振れリスクはあるが、外国人観光客数の動向やインフラ投資の進捗などによる上振れも期待される」との見通しを示している。また、物価動向について「コアインフレは鈍化するも長期的にみれば依然高水準にある」との認識を示す一方、「今年後半にはインフレ率、コアインフレ率ともに予想の範囲内に収まる」としつつ、「補助金や統制価格を巡る政策動向や商品市況、国際金融市場の動向に大きく左右される」との見方を維持している。その上で、現在の政策スタンスについては「やや緩和的で依然として景気を下支えしている」としつつ「物価と景気の安定に資するものであり続けるべく対応する」との従来姿勢を維持するなど、先行きの政策運営について明確な姿勢は示していない。そして、「金融不均衡を巡るリスクは限定的」とする従来からの考えを改めて示したものの、同国では家計債務が急拡大する動きが確認されており、世界的な金融引き締め局面が長期化することに伴い脆弱性が高まる懸念はくすぶる。上述のように外貨準備高も国際金融市場の動揺への耐性が充分でないなか、中銀にとっては難しい政策対応を迫られる局面が続くであろう。



注1 5月 12 日付レポート「マレーシア景気は一旦底打ちも、外部環境を中心に不透明要因は多い」
注2 5月8日付レポート「マレーシア中銀、インフレリスクを警戒して3会合ぶりに利上げ局面再開」
注3 6月 13 日付レポート「マレーシア中銀、次期総裁にダトゥク・シャイク・アブドゥル氏の昇格決定」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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