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マレーシア中銀、次期総裁にダトゥク・シャイク・アブドゥル氏の昇格決定

~現体制の慎重スタンスが続く一方、景気の不透明要因山積のなかで困難に直面することは不可避~

西濵 徹

要旨
  • マレーシアでは今月末に中銀のノル・シャムシア総裁が任期満了を迎えるなか、後任人事が注目された。というのも、同行は商品高やリンギ安に対抗して昨年 5 月以降断続利上げに動いたが、今年 1 月に利上げ局面の休止に動いた。しかし、サービス物価の上昇やリンギ安再燃によるコアインフレの高止まりを理由に、中銀は先月再利上げに動くなど難しい対応を迫られている。他方、足下の景気は世界経済の減速が足かせとなる動きがみられるなか、金融政策のかじ取りはこれまで以上に難しさが増すと予想される。こうしたなか、同行は後任総裁に副総裁を務めるダトゥク・シャイク・アブドゥル氏の昇格を決定しており、現体制のスタンスが維持される可能性が高い。ただし、外貨準備高は国際金融市場の動揺への耐性が乏しく、商品市況の調整がリンギ安を招いており、次期総裁は就任早々から難しい対応を迫られる状況に直面するであろう。

マレーシアにおいては、今月末に中銀のノル・シャムシア・モハド・ユヌス総裁が任期満了を迎えるなか、金融市場では後任人事の行方に注目が集まってきた。同国においては、昨年来の商品高による生活必需品を中心とする物価上昇に加え、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨リンギ安に伴う輸入インフレも重なり、同行は昨年5月に物価抑制を目的に利上げに舵を切るとともに、その後も物価と為替の安定を目的に断続的な利上げ実施に動く対応を迫られてきた。こうした中銀による金融引き締めの動きに加え、商品市況の上振れの動きが一巡しているほか、昨年末以降は米ドル高の動きに一服感が出ていることも重なり、インフレ率は昨年8月をピークに頭打ちに転じている。よって、中銀は今年1月の定例会合において5会合ぶりに政策金利を据え置く決定を行うなど半年強に及んだ利上げ局面の休止を決定し、3月の定例会合でも2会合連続の金利据え置きを決定するなど、利上げ局面を終了させたかにみられた。しかし、その後は商品市況が調整の動きを強めていることを反映してインフレ率は鈍化しているものの、経済活動の正常化に伴いサービス物価が押し上げられる展開が続いているほか、足下の通貨リンギ相場が再び調整の動きを強めるなど輸入インフレ圧力が掛かりやすい状況も重なり、コアインフレ率はインフレ率を上回る推移が続いている。こうした事態を受けて、中銀は先月の定例会合において3会合ぶりとなる利上げ実施を決定するなど、利上げ局面の再開を余儀なくされる事態に直面している(注1)。他方、昨年末にかけては欧米など主要国を中心とする世界経済の減速に加え、物価高と金利高の共存が家計消費など内需に冷や水を浴びせる懸念が高まったことも重なり景気は頭打ちの動きを強めたものの、今年1-3月の実質GDP成長率は中国によるゼロコロナ終了の動きも追い風に2四半期ぶりのプラス成長に転じるなど景気の底打ちが確認されている(注2)。しかし、足下の中国景気に早くも『息切れ』の兆しがうかがえるほか、欧米など主要国も物価高と金利高の共存が長期化するなかで一段と頭打ちの様相を強めており、アジア新興国のなかでも構造面で外需依存度が相対的に高い同国経済を取り巻く状況は厳しさを増している。こうした状況を反映して、年明け以降は底打ちの動きが確認された製造業の企業マインドは足下で再び頭打ちの様相を強めるなど景気を取り巻く環境に不透明感が高まっている。こうしたなか、同国政府は9日にノル・シャムシア氏の後任総裁に、現在は副総裁を務めるダトゥク・アブドゥル・ラシード・ガフォール氏を指名することを決定し、これに伴い7月1日付で昇格する。ダトゥク・アブドゥル・ラシード氏は 1988 年に中銀に入行した後、2016 年から副総裁を務めており、現在は金融政策委員会や金融安定委員会などの委員を務めるなど、2018 年に総裁に就任したノル・シャムシア氏の下で金融政策の実務を担ってきた経緯がある。よって、次期体制の下でも現体制による政策運営スタンスが維持される可能性は極めて高いと見込まれる一方、上述のようにインフレ懸念がくすぶるにも拘らず、景気に対する不透明感が強まるなかで難しいかじ取りを迫られることは避けられない。同国の外貨準備高は国際金融市場の動揺への耐性が充分ではない水準に留まると試算されるほか、商品市況の調整の動きは交易条件の悪化を通じて景気の足を引っ張るとともに、対外収支の悪化を通じて耐性低下を招くことが懸念され、結果的にリンギ相場の調整に繋がっていると考えられる。その意味においては、今回の決定は同行が今後も慎重な政策運営を志向するとのシグナルを金融市場に発したものと捉えられるものの、その道のりは極めて厳しいものとなることは避けられないであろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

図表4
図表4

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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