インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

インドネシア中銀、5会合連続で金利据え置きも、ルピア相場の行方に要注意

~ルピア安定へ積極介入を示唆も、外貨準備の減少など外部環境の動向に晒されやすくなる懸念~

西濵 徹

要旨
  • インドネシア経済は昨年、経済活動の正常化や欧米を中心とする世界経済の回復も追い風に、景気の底入れが進んだ。一方、昨年は商品高とルピア安に加え、景気回復の動きも重なりインフレが上振れしたため、中銀は物価と為替の安定に向けて断続、且つ大幅利上げを余儀なくされた。なお、昨年 9 月を境にインフレは頭打ちに転じ、その後の商品高の一巡や米ドル高一服も重なりインフレは鈍化しており、中銀は 2 月に利上げ局面の休止に動いた。ただし、足下では世界経済の減速懸念や商品市況の調整など外需を中心に景気の不透明感がくすぶる一方、インフレ率は一段と頭打ちの動きを強めている。結果、中銀は 22 日の定例会合でも 5 会合連続で金利を据え置いている。中銀のペリー総裁は先行きの物価は安定が続く一方、景気も底堅く推移するとの見方を示しつつ、ルピア相場の安定に向けて為替介入を強化する考えをみせる。ただし、足下の外貨準備高は再び減少して国際金融市場への耐性が低下する動きもみられるなか、外部環境如何では楽観姿勢の見直しを余儀なくされるなど、難しい政策対応を迫られる可能性に要注意と言える。

インドネシア経済を巡っては、昨年は感染一服による経済活動の正常化が進むとともに、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復も追い風に、内・外需双方で景気は底入れの動きを強めたことで久々の高成長を実現したほか、コロナ禍による景気減速の影響を克服してきた。なお、昨年は商品高により生活必需品を中心に物価上昇が進んだほか、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ルピア安が輸入インフレ圧力を招くとともに、経済活動の正常化の動きも重なり幅広くインフレ圧力が強まる事態に直面した。よって、中銀は昨年8月に利上げ実施に舵を切るとともに、その後は物価と為替の安定を目的に断続、且つ大幅利上げを余儀なくされる難しい対応を迫られるなど、物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせることが懸念された。インフレ率は一時7年弱ぶりの水準に加速したものの、昨年9月をピークに頭打ちしており、その後は商品高の一巡や米ドル高の一服も重なり頭打ちの動きを強めている。よって、中銀は今年2月の定例会合において政策金利を据え置いており、半年ほどに及んだ利上げ局面の休止に動いた。その後も世界経済の減速懸念を受けた商品市況の調整や米ドル高によりインフレ率は一段と低下している。結果、5月のインフレ率は前年比+4.00%と中銀目標(3±1%)の上限に達しているほか、コアインフレ率は目標域で推移するなど落ち着きを取り戻している。今年1-3月の実質GDP成長率は前年比+5.03%と堅調に推移している上、当研究所が試算した季節調整値ベースでもプラス成長で推移するなど景気は底入れしており、家計消費や政府消費が景気を下支えする展開が続いている(注1)。なお、同国経済は財輸出の2割、コロナ禍前には外国人観光客の約 15%を中国(含、香港・マカオ)が占めるため、中国によるゼロコロナ終了は外需の追い風になることが期待されたものの、足下の中国景気は『息切れ』の様相をみせているほか、欧米など主要国も物価高と金利高の長期化を受けて頭打ちしており、外需の不透明感が増している。同国の経済は輸出のGDP比が2割程度とASEAN(東南アジア諸国連合)内では外需依存度が比較的低い一方、財輸出の約3割弱を鉱物資源が占めるなど商品市況の動向を受けやすい体質を有する。こうしたなか、同国政府は資源依存体質からの脱却に加え、関連するすそ野産業の拡充による高付加価値化と雇用拡大を目的に『資源ナショナリズム』の動きを強めており(注2)、こうした動きは昨年来の景気底入れを促す一助になった可能性がある。しかし、足下における商品市況の調整は輸出を下押しするとともに、交易条件の悪化を通じて景気の足を引っ張ることが懸念されるなか、昨年末以降は米ドル高の一服を受けて底入れしたルピア相場は再び頭打ちに転じるなど不透明な展開が続いている。このように外需を取り巻く環境は厳しさが増すなか、中銀は 22 日の定例会合において政策金利である7日物リバースレポ金利を5会合連続で5.75%に据え置いて利上げ局面の休止状態を維持する決定を行っている。会合後に公表した声明文では、世界経済について「景気減速リスクが高まるとともに不確実性も高まっている」との認識を示す一方、同国経済について「堅調に推移しており、通年の経済成長率も+4.5~5.3%になる」との従来見通しを据え置いている。また、ルピア相場についても「中銀の安定化策により制御された状況が続いている」とした上で、先行きも「対外収支の改善や資金流入を追い風に強含みが期待される」としつつ、「輸入インフレ抑制に向けて相場安定化策に注力する」と相場安定を重視する考えをみせている。物価動向については「想定より早く目標域に回帰した」とした上で、「足下のインフレ鈍化は金融政策の一貫性と政府との間の政策協調に拠るもの」としつつ、「年内は目標域での推移が続く」との見通しを示している。なお、会合後に記者会見に臨んだ同行のペリー総裁は、米FRBの政策見通しについて「前回のFOMC以降の記者会見の様子から7月会合での追加利上げを基本シナリオとしている」との見方を示した上で、ルピア相場について「外部環境に応じてルピア相場への介入を強化している」との考えを示した。その上で、今年の経済成長率について「レンジ(+4.5~5.3%)の中央値近傍で5%程度とみている」としている。また、記者からの潜在的な利下げの可能性に関する質問に対して「毎月方針を調整している」と答えるも具体的な方向性については明言を避けている。また、物価動向については「基本シナリオにエルニーニョ現象に伴う食料品価格の上昇を織り込んでいる」とした上で、インフレ収束を見込んでいる模様である。なお、このところのルピア相場の安定には当局による積極的な為替介入が影響している模様だが、その背後で足下の外貨準備高は再び減少しており、当研究所が試算した適正水準評価(ARA:Assessing Reserve Adequacy)に基づけば『適正水準』とされる 100~150%の下限をわずかに下回るなど、国際金融市場への耐性が低下している様子がうかがえる。仮に外部環境に再び不透明感が強まる事態に直面すれば、ルピア安圧力が再燃する一方、為替介入の原資となる外貨準備も充分ではないなかで対応に苦慮する事態も予想されるなど、当面の金融政策を巡っては過度に楽観出来ない状況に直面する可能性に注意が必要と考えられる。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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