- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- 南アフリカ、スタグフレーションに陥るも政治・経済両面で苦難が続く
- World Trends
-
2023.06.07
新興国経済
新興国金融政策
南アフリカ経済
為替
国際的課題・国際問題
ウクライナ問題
南アフリカ、スタグフレーションに陥るも政治・経済両面で苦難が続く
~電力不足が経済の足かせとなるなか、ロシアへの対応が政治・経済の両面に影響を与える困難も~
西濵 徹
- 要旨
-
- 昨年来の南アフリカ経済は、感染一服による経済活動の正常化や世界経済の回復にも拘らず、電力不足の深刻化により計画停電を余儀なくされ、幅広く経済活動が制限される状況が続いている。さらに、商品高や通貨ランド安も重なりインフレが昂進し、中銀は断続的利上げを余儀なくされるなど、物価高と金利高の共存が内需の足かせとなる状況も続く。電力不足は輸出にも影響を与えるなど景気の重石となっている。
- 1-3 月の実質 GDP 成長率は前期比年率+1.44%と 2 四半期ぶりのプラス成長に転じるも、足下の景気は頭打ちの動きが続いている。中国向けを中心に輸出が拡大したほか、公的需要を中心に内需は堅調な動きをみせる一方、雇用悪化や物価高・金利高が重なり家計消費は力強さを欠く。政府は電力不足への対応を強化する動きをみせるが、国営電力公社は冬場の計画停電を前例のないレベルで実施する必要性を示しており、足下の企業マインドも幅広く下振れするなど実体経済を取り巻く状況は厳しさを増している。景気が頭打ちするなかで物価高が続くスタグフレーション状態が一段と深刻化する可能性は高まっている。
- 先月には米大使の発言を契機に通貨ランド相場は一時最安値を更新したが、歴史的な背景も影響して親ロ感情が根強いことから、同国はウクライナ問題を巡って「中間派」を取ってきた。今年 8 月には議長国として BRICS 首脳会議の開を予定しているが、ロシアのプーチン大統領の扱いに焦点が集まる。ただし、歴史的に親ロ感情が根強いなかで対応を間違えれば来年の次期総選挙に影響を与える可能性がある。一方、ランド安は金融政策の舵取りを難しくするため、同国は政治・経済の両面で難しい対応を迫られよう。
昨年来の南アフリカ経済を巡っては、感染一服を受けた経済活動の正常化や国境再開の動きに加え、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復の動きも重なり、コロナ禍からの景気回復が進むことが期待された。しかし、昨年来の商品高による世界的な石炭価格の高騰の動きは、火力発電所の故障が相次ぐなど発電能力が不足するなかで電力不足の深刻化を招いており、全土で計画停電が実施されるなど幅広い経済活動の足かせとなる状況が続いている。さらに、商品高を受けた生活必需品を中心とする物価上昇に加え、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ランド安による輸入インフレに加え、経済活動の正常化の動きも重なり、インフレ率は中銀(南ア準備銀行)の定める目標を上回るとともに一時は 13 年ぶりの水準に加速する事態に直面した。よって、中銀は一昨年 11 月に3年ぶりの利上げ実施に舵を切るとともに、その後は物価と為替の安定を目的に断続的、且つ大幅利上げを余儀なくされるなど難しい対応を迫られている。インフレ率は昨年半ばを境に頭打ちしているものの、依然として中銀目標の上限を回る推移が続くなか、中銀は先月末の定例会合で 10 会合連続の利上げ実施を決定して政策金利は 8.25%と 14 年ぶりの高水準となるなど、物価高と金利高の共存が家計消費をはじめとする内需の足かせとなることが懸念される。他方、同国は財輸出の約2割をEU(欧州連合)向けが占めており、EU景気の減速懸念の高まりは外需の重石となり得る一方、ここ数年は財輸出の1割強を中国(含、香港・マカオ)向けが占めるなど、昨年末以降の中国によるゼロコロナ終了を受けた経済活動の正常化の動きが外需の追い風になることが期待される。しかし、上述のように電力不足が深刻化するなかで、主力産業である鉱業部門は操業時間の短縮を迫られているほか、商品市況の動向に関係なく輸出に下押し圧力が掛かる展開が続くなど、内生的な要因が景気の足かせとなる状況が続いている。

こうした状況を反映して、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+1.44%と2四半期ぶりのプラス成長に転じているものの、前期(同▲4.30%(改定値))のマイナス幅を下回るプラス幅に留まるなど勢いを欠く展開が続いており、中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+0.2%と前期(同+0.8%)から伸びが鈍化するなど、足下の景気は頭打ちしている状況は変わっていない。昨年末にかけては電力不足が極めて深刻な状態に陥ったことに加え、EU景気が頭打ちの様相を強めたことも重なり輸出に大きく下押し圧力が掛かったものの、年明け以降は中国経済の底打ちの動きも追い風に一転して底入れの動きを強めている。さらに、インフラ関連をはじめとする公共投資の進捗を反映して固定資本投資が押し上げられているほか、政府消費も拡大している一方、経済活動の正常化が進んでいるにも拘らず、電力不足が足かせとなる形で雇用環境は厳しい展開が続いているほか、物価高と金利高の共存による実質購買力の下押しも重なり家計消費は力強さを欠くなど、足下の内需は公的需要に対する依存度を強めている。分野別の生産動向を巡っては、外需の底入れの動きを反映して鉱業部門や製造業の生産が底打ちしているほか、公共投資の進捗の動きは建設業の生産を後押ししている。さらに、国境再開を受けた外国人観光客数の底入れの動きや国際金融市場における取引が活発化していることも追い風に幅広くサービス業の生産が押し上げられる動きもみられる。他方、農林漁業関連の生産に大きく下押し圧力が掛かるなど供給力の低下が食料品価格の押し上げに繋がることが懸念されるほか、慢性的な電力不足の影響により公益関連の生産も下振れする展開が続いており、景気の足を引っ張る状況が続いている。なお、政府は電力不足の解消に向けて今年3月、内閣改造により電力担当相を新設するとともに、今年度予算では国営電力公社(ESKOM)が抱える債務の約6割を政府が引き受けて財務健全性の向上を図るとともに、電力の安定供給を目指す方針を示すなどの対応を明らかにしている(注1)。しかし、こうした政府の対応にも拘らずその後も電力不足は一向に改善の目途が立たない状況にある上、先月には国営電力公社が冬場に前例のないレベルでの計画停電を実施せざるを得なくなるとの見解を示すなど、経済を取り巻く状況は一段と困難さを増す懸念が高まっている。こうした状況を反映して足下の企業マインドは総じて弱含む動きが確認されるなど、景気に再び下押し圧力が掛かることは避けられない状況にある。さらに、中銀は先月末の利上げ決定に際して、先行きのインフレリスクについて上向きに傾いているとの見方を示すなど一段の金融引き締めに含みを持たせるとともに、その後も国内外双方の要因をきっかけに金融市場の安定が脅かされるリスクがあるとの認識を示している。その意味では、景気低迷が続くなかでの物価高というスタグフレーションに直面するなかで難しい対応を迫られる状況が続くと予想される。


同国を巡っては先月、同国に駐在する米国大使による発言をきっかけに通貨ランド相場が一時過去最安値を更新する事態に見舞われた。同大使は昨年末にロシアの船舶が同国の海軍基地で武器と弾薬を積み荷に載せてロシアに帰還したことを確信していると述べ、それに伴い米国が同国を対象に経済制裁に動くとの警戒感が強まったことがある。その後に同大使は南ア当局に謝罪するとともに、米国政府もブリンケン国務長官が同国のパンドール外相と電話会談を行うなど、事態収拾に向けた動きがみられた。他方、同国は長きに亘って英国の植民地であったため、歴史的に欧米に対する忌避感が根強く残る上、反アパルトヘイト(人種隔離政策)闘争を巡って旧ソ連がこれを支援した経緯があり、同国内にはロシアに親近感を持つ層が一定程度存在している。こうしたことから、ウクライナ問題についてインターネット上ではここ数年広がりをみせるナショナリズムと結び付く形で反欧米(親ロ)的な主張が流布される動きもみられ、結果的に同国政府が『中間派』の立場を採る一因になってきた。他方、今年2月には同国東部において中国とロシアとの合同軍事演習を実施するなど、旧ソ連時代から関係が深いロシアとの連帯により割安なロシア産原油の受け入れを通じたインフレ鎮静化を目指したいとの思惑も透けてみえる。なお、今年は同国が中ロ両国も加盟するBRICSの議長国となるなか、今月初めには外相会議を開催するとともに、BRICS5ヶ国が世界のリーダーシップの発揮を目指すことで欧米などに対抗する姿勢を主張する動きをみせる一方、事前に予想された加盟国拡大に関する議論は結論に至らなかった。一方、8月にはBRICSの首脳会議が予定されるなか、南ア政府はロシアのプーチン大統領の訪問を招請しているが、ウクライナ問題を巡って国際刑事裁判所(ICC)がプーチン氏に対して逮捕状を発布しており、仮にプーチン氏がICCに加盟する南アに訪問すれば身柄を拘束される可能性がある。こうしたことから、ラマポーザ大統領は4月に突如ICCからの離脱を示唆する発言を行うも、直後に大統領府が訂正を余儀なくされるなど混乱が露呈する動きもみられる。この背景には、2015 年にICCが逮捕状を発布した当時のスーダンのバシル大統領が同国で開催されたアフリカ連合(AU)首脳会議に参加するために訪問するも、当時のズマ政権が同氏を拘束せず滞在や出国を認めたことで国際的に非難を浴びたことも影響している。他方、上述したような事情から国内には親ロ的な意見も根強くある上、来年には次期総選挙の実施が予定されるなど『政治の季節』も近付くなかでラマポーザ政権にとっては難しい選択を迫られることは間違いない。ランド安は輸入インフレを招くなど金融政策の舵取りを困難にすることも予想されるなか、国際政治面でも経済面でも極めて難しい対応を求められることになろう。

注1 3月7日付レポート「南ア・ラマポーザ政権、内閣改造で電力担当相新設により事態打開は進むか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
韓国中銀、政策委員は当面据え置き示唆も、新たなリスクの懸念 ~不動産高騰に加え、レバレッジ投資が株価急騰の一因に、家計債務やウォン相場にリスクは残る~
アジア経済
西濵 徹
-
タイ中銀が「背水の陣」で予想外の利下げ、構造問題に対応できるか ~バーツ高に加え、構造問題への対応で財政政策と協調も、余地が限られるなかで困難さが増すか~
アジア経済
西濵 徹
-
オーストラリアは1月もインフレ確認、RBAはタカ派傾斜を強めるか ~豪ドル高・NZドル安が続くなか、RBAのタカ派傾斜は豪ドル相場を支える展開も~
アジア経済
西濵 徹
-
中国商務部、日本の20企業・団体への軍民両用品の輸出禁止 ~中国は経済的威圧を着実に強化、日本として中国リスクの低減に向けた取り組みは不可避~
アジア経済
西濵 徹
-
米連邦最高裁が相互関税に違憲判決、新興国はどうなる? ~当面は追い風となり得るが、米国の「脅し」が通じにくくなるなか、日本としての立ち位置も重要に~
新興国経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
米連邦最高裁が相互関税に違憲判決、新興国はどうなる? ~当面は追い風となり得るが、米国の「脅し」が通じにくくなるなか、日本としての立ち位置も重要に~
新興国経済
西濵 徹
-
ペルー大統領3代連続で罷免、米中対立の新たな舞台の行方は ~大統領選へ政治混乱の深刻化に懸念も、選挙結果は米中双方の動向、重要鉱物の供給にも影響か~
新興国経済
西濵 徹
-
ロシアの戦時経済は丸4年、中銀に一層「圧力」が掛かる様相 ~インフレ鈍化に変化の兆しも追加利下げに言及、米印合意もあらたなリスク要因となる可能性~
新興国経済
西濵 徹
-
メキシコ中銀は13会合ぶりの利下げ局面休止、一進一退が続くか ~インフレの目標回帰時期は2027年半ばに後ズレ、ペソ相場は外部環境に左右される展開が続く~
新興国経済
西濵 徹
-
米・トランプ氏とコロンビア・ペトロ氏が初会談、関係改善は進むか ~雪解けに期待の一方、インフレ再燃で政府と中銀に対立懸念、政治動向も見通しが立ちにくい~
新興国経済
西濵 徹

