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2023.04.18
アジア経済
アジア金融政策
インドネシア経済
為替
インドネシア中銀、想定以上のインフレ鈍化を前提に3会合連続で金利据え置き
~中銀はインフレ鈍化に自信も、外部要因による不確実性はこれまで以上に高まっている~
西濵 徹
- 要旨
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- 18日、インドネシア中銀は3会合連続で政策金利を据え置く決定を行った。昨年の同国経済は、コロナ禍の克服に加えて外需拡大の動きも重なり9年ぶりの高成長を実現した。しかし、インフレの上振れに加え、物価・為替の抑制を目的とする断続利上げを余儀なくされるなど、物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる懸念が高まっている。中銀は2月の定例会合で利上げ局面を休止させたが、足下では家計消費に底堅さがうかがえる一方、外需に不透明感がくすぶる状況が続く。中銀はインフレ率が想定以上に早く目標域に鈍化するとの見通しを示すとともに、昨年末以降底入れしたルピア相場の安定を重視する考えを示す。米FRBが長期に亘って高金利政策を維持する見通しを示す上、OPECプラスによる自主追加減産に伴う原油価格の上振れなどを勘案すれば、インフレや対外収支の行方は一段と見通しにくくなりつつある。
昨年のインドネシア経済を巡っては、感染一服による経済活動の正常化に加え、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復やそれに伴う商品市況の上振れの動きも重なり、経済成長率は+5.31%と9年ぶりとなる高成長を実現するとともに、コロナ禍の影響を完全に克服した。他方、昨年来の商品高による世界的なインフレの動きは同国においても食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招いており、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ルピア安による輸入インフレも重なり、インフレ率は中銀の定めるインフレ目標(3±1%)の上限を大きく上回る水準に加速した。こうした事態を受けて、中銀は昨年8月に約4年ぶりの利上げに動くとともに、その後は断続的、且つ大幅な利上げを余儀なくされるなど難しい状況に直面した。しかし、インフレ率は昨年9月を境に頭打ちに転じており、足下においては依然として目標の上限を上回る推移が続いている一方、コアインフレ率は目標域で推移している上、足下では目標域の中央値を下回る水準に鈍化するなど頭打ちの動きを強めている。さらに、昨年末にかけては国際金融市場での米ドル高の動きに一服感が出るとともに、ルピア相場も底入れに転じるなど輸入インフレ懸念も後退している。こうしたことから、中銀は今年2月の定例会合において7会合ぶりに政策金利を据え置くなど半年強に及んだ利上げ局面の休止に舵を切ったほか、先月の定例会合でも2会合連続で政策金利を据え置いている(注1)。なお、物価高と金利高が共存することに伴う実質購買力の下押し圧力の高まりは、近年の同国経済成長のけん引役である家計消費をはじめとする内需の重石となることが懸念されるものの、足下の家計消費の水準は依然としてコロナ禍前を下回るなど勢いを欠く推移が続くも緩やかに底入れする動きが確認されている。他方、足下においては世界経済の減速懸念が高まっているほか、中国によるゼロコロナ終了は財・サービスの両面で外需の追い風になることが期待されたにも拘らず、商品市況の調整の動きに歯止めが掛からない展開が続いていることも影響して3月の輸出額は前年比▲11.3%と1年半弱ぶりに前年を下回る伸びに転じるなど頭打ちの動きを強めている。中銀は先月の定例会合において、先行きの景気について中国のゼロコロナ終了を肯定的に受け止める姿勢をみせていたものの、現時点においてはその目論見は外れる展開が続いていると捉えられる。ただし、足下のルピア相場は米ドル高圧力の後退を反映して底堅く推移するなか、中銀は18日の定例会合において3会合連続で政策金利である7日物リバースレポ金利を5.75%に据え置く決定を行っている。会合後に公表した声明文では、世界経済について「回復が続いており、中国のゼロコロナ終了を受けて事前想定を上回る可能性がある」との認識を示すとともに、同国経済について「内外需の拡大により力強い推移が続いている」とした上で「先行きも内外需双方で景気を押し上げる動きが続く」としつつ、声明文のなかで成長率見通しに関する具体的な言及は避けられている。他方、ルピア相場については「中銀による安定化策に歩調を併せる形で強含んでいる」とした上で、先行きも「高い経済成長やインフレ鈍化、魅力的な金利環境による資本流入を追い風に強含みする展開が見込まれる」として相場安定に注力する考えを示している。さらに、物価動向について「インフレ圧力の後退が進むことで想定より早く目標域に回帰すると見込まれる」とした上で、インフレ抑制に向けて政府との間で政策調整を引き続き強化するとの考えを示している。なお、同行では来月末にペリー総裁の任期が満了するなかで後任人事の行方に注目が集まったが、2月末にジョコ・ウィドド大統領はペリー氏を再指名することを決定しており(注2)、先月末に議会もペリー氏の再任を承認している。会合後に記者会見に臨んだペリー総裁は、今回の決定について「インフレ期待の安定を目指す政策スタンスに合致しており、現行の金利水準はインフレ率を目標域に収束させる観点でも充分な水準」とする従来の考えを繰り返した上で、「インフレ率は想定より早く目標域に収束する」との見通しを示した。また、今年の成長率見通しについて「+5.0~5.1%程度になる」との見方を示すとともに、ルピア相場について「輸入インフレ圧力軽減の観点から相場安定化策の強化を継続する必要がある」とする一方、「銀行部門に対して回復が遅れる中小企業やグリーン関連貸付の拡大に向けたインセンティブ付与の拡大を計画している」として景気下支えに注力する考えをみせた。また、米FRB(連邦準備制度理事会)の政策運営について「米国経済が想定を上回る堅調さをみせるなかで長期に亘って高水準で金利を据え置くと見込まれる」とするなど、高金利状態の長期化を前提にした政策運営が迫られる可能性を示唆している。昨年末以降のルピア相場は底入れの動きを強めているものの、世界経済や国際金融市場を巡る不透明感がくすぶる状況を勘案すれば、先行きについては底入れの余地は縮小していると予想される。さらに、OPECプラスの自主的な追加減産決定などを理由に原油価格は上振れするなど、インフレ率が想定通り鈍化するか、対外収支の行方を含めて見通しにくい展開が続く可能性は高いと考えられる。




注1 3月16日付レポート「インドネシア中銀、ルピア安再燃を警戒も利上げ局面の終了を維持」
注2 2月27日付レポート「インドネシア・ジョコ大統領、中銀総裁に現職のペリー氏を再指名」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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