インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

インドネシア中銀、ルピア安再燃を警戒も利上げ局面の終了を維持

~中国のゼロコロナ終了を好感、インフレ低下を見込む一方、ルピア安定へ難しいかじ取りを迫られよう~

西濵 徹

要旨
  • インドネシア経済は昨年9年ぶりの高成長となったが、物価高と金利高の共存や世界経済の減速懸念などを理由に景気実態は頭打ちの様相をみせる。他方、昨年は商品高やルピア安も重なりインフレは上振れし、中銀は断続的、且つ大幅利上げを余儀なくされた。しかし、昨年9月を境にインフレ率は頭打ちしている上、昨年末以降における米ドル高の一服も重なり、中銀は先月の定例会合で半年強に亘り続いた利上げ局面の終了を決定した。足下の金融市場では米国の銀行破たんをきっかけとする不透明感の高まりがルピア安の再燃に繋がる動きもみられる。こうした状況ながら、中銀は16日の定例会合で2会合連続の金利据え置きを決定した。先行きの景気について中国のゼロコロナ終了を好感するとともに、物価は想定以上のペースで鈍化するとの見通しを示している。他方、ルピア相場の安定に向けて為替介入も辞さない姿勢もみせる。足下の外貨準備高は適正水準を維持するが、相場安定に向けて中銀は難しいかじ取りを迫られるであろう。

インドネシア経済を巡っては、コロナ禍の影響を受けるも、昨年の経済成長率は+5.31%と9年ぶりの高成長となるなどその影響を克服している。ただし、足下の景気動向については、物価高と金利高の共存という悪材料にも拘らず家計消費は底堅く推移する一方、世界経済の減速懸念は外需に数量・価格の両面で下押し圧力が掛かり、国境再開により底入れした外国人観光客も頭打ちに転じる動きがみられる。さらに、金利上昇を受けて企業部門の設備投資意欲も後退するなど、景気実態は頭打ちの様相を強めていると捉えられる(注1)。同国においては、商品高による世界的なインフレの余波を受ける形で、食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレが顕在化しため、中銀は昨年8月に約4年ぶりとなる利上げ実施に舵を切った。さらに、その後は国際金融市場での米ドル高を受けた通貨ルピア安が輸入インフレ懸念を招く懸念も重なり、中銀は物価と為替の安定を目的に断続的、且つ大幅な利上げを余儀なくされるなど難しい対応に直面してきた。しかし、足下のインフレ率は依然として中銀の定める目標を上回る推移が続いているものの、昨年9月を境に頭打ちに転じているほか、昨年末にかけては米ドル高の動きに一服感が出てルピア相場は底打ちに転じるなど、輸入インフレの懸念が後退した。よって、中銀は断続利上げを決定するも、利上げ幅を段階的に縮小させるなどタカ派度合いを後退させるとともに、今年2月の定例会合では7会合ぶりに政策金利を据え置いており、半年強に及んだ利上げ局面の終了に舵を切っている(注2)。中銀がこうした決定に動いている背景には、上述のように足下において景気に対する不透明感が強まっていることも影響していると捉えられる一方、今年5月に任期満了を迎える中銀総裁人事を巡ってジョコ・ウィドド大統領は先月末に現職のペリー氏の留任に向けて再指名する決定を行うなど、同氏の下での安定した政策運営に期待していると考えられる(注3)。他方、足下の国際金融市場においては米国での銀行破たんをきっかけに不透明感が強まる動きがみられ、リスク回避姿勢が強まっていることを反映して、昨年末以降はルピア安の動きが一変したにも拘らず、ルピア安の動きが再燃するなど輸入インフレが再び意識されやすくなりつつある。なお、以前のインドネシアは財政赤字と経常赤字の『双子の赤字』を材料に、国際金融市場の動揺に際しては資金流出の動きが強まる動きがみられたものの、足下の貿易収支は商品高も追い風に黒字基調で推移しており、経常収支も黒字基調に転じるなど状況は変化している。ただし、足下では輸出が頭打ちの動きを強める一方、輸入は輸出を上回るペースで頭打ちの動きを強めたことで貿易黒字が維持されるなど、内需の弱さが意識されやすい状況にある。こうしたことから、中銀は16日の定例会合において政策金利である7日物リバースレポ金利を2会合連続で5.75%に据え置くなど、利上げ局面の終了を維持する決定を行っている。会合後に公表した声明文では、世界経済について「中国のゼロコロナ終了によりこれまでの想定を潜在的に上回ると見込まれる」との見方を示す一方、同国経済について「外需の改善に加え、とりわけ家計消費を中心とする内需の改善も追い風に力強い成長が続く」とした上で「今年の経済成長率は+4.5~5.3%の上限近傍になる」との見通しを示した。また、ルピア相場については「上昇が続いて景気の安定に資する」との見方を示すとともに、物価動向についても「想定以上の低下が見込まれ、年内にも目標域に収束する」との見通しを示している。なお、会合後に記者会見に臨んだ同行のペリー総裁は今回の決定について「インフレ期待の安定を目指すという政策スタンスに合致したものであり、現状の金利水準はインフレ率を目標域に収束させる観点で充分」とする考えを示している。他方、米FRB(連邦準備制度理事会)の政策運営について「メインシナリオでは追加利上げの実施を前提とするが、判断に当たっては銀行破たんの影響を考慮すると見込まれ、米国政府も信頼回復に向けた措置を講ずると考えている」と述べるなど、慎重な判断がなされるとの見方を示している。その上で、同国の金融セクターについて「ストレステストを行っている上、金利上昇の度合いを勘案すれば国債保有に伴う潜在的なリスクは低い」とした上で、「金融市場の動向やその影響を引き続き注視する」との考えを示した。また、ルピア相場については「相場安定に向けて必要に応じて為替介入を行う」との姿勢も改めて強調した。外貨準備高を巡っては、昨年末にかけての米ドル高一服の動きを受けたルピア相場の底打ちやその後の底入れに歩を併せる形で資金流入の動きが活発化しており、昨年後半には一時IMF(国際通貨基金)が示す国際金融市場の動揺への耐性の有無を示す基準であるARA(適正水準評価)に照らして『適正』とされる100~150%の下限を下回る水準に低下するも、足下では再び適正水準を回復している。ただし、国際金融市場におけるリスク回避姿勢が強まれば資金流出の動きが加速する可能性がくすぶるなか、中銀が為替安定に向けて難しいかじ取りを迫られることは避けられないであろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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