インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ベトナム、景気底入れの動きに一服感、経済同様に政治の動きが重要に

~外需の低迷や金融市場の動揺が景気の足かせに、中長期的には政治の動きにも要注意~

西濵 徹

要旨
  • 足下の世界経済は、欧米など主要国の景気に不透明感が高まる一方、中国のゼロコロナ終了に期待する向きがある。ベトナム経済は外需面で中国への依存度が比較的高い一方、近年は米中摩擦の激化を受けて米国や欧州経済への依存度も高まっている。さらに、昨年は商品高によるインフレに加え、通貨ドン安を受けて利上げを余儀なくされる事態に直面した。足下のインフレは頭打ちしており、国際金融市場の動揺を受けて中銀は利下げに動いたが、外貨準備が過小状態であるなど外部環境に晒されやすいことに要注意である。
  • 昨年の経済成長率は15年ぶりの高成長となる一方、年明け以降は好悪双方の材料が混在するが、1-3月の実質GDP成長率は前年比+3.32%に鈍化しており、前期比年率ベースではマイナスに転じたと試算される。世界経済の減速懸念が外需を下押しする一方、物価高と金利高の共存にも拘らず家計消費は堅調さを維持している。ただし、企業部門の設備投資や不動産投資などが弱含むなど投資活動は停滞した模様である。さらに、すべての分野で生産に下押し圧力が掛かっている。金融市場の動揺やそれに伴う不動産市場の混乱は幅広い経済活動の足かせとなる可能性もあり、当面はその動向に留意する必要が高まっている。
  • 先行きは中国のゼロコロナが追い風となる一方、欧米など主要国の動向が外需の重石となることは避けられない。また、インフレの長期化による実質購買力の下押しが家計消費など内需の足かせとなる可能性もくすぶる。さらに、チョン党書記長を中心とする保守派が大宗を占めるなかで内政、外交政策の行方が対内直接投資を左右することも予想されるなど、これまで以上に政治の動きに注意を払う必要性も高まっている。

足下の世界経済を巡っては、商品高を受けたインフレ抑制を目的に米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀が断続的、且つ大幅利上げを実施したことで物価高と金利高が共存するなか、コロナ禍からの景気回復をけん引してきた欧米など主要国景気に不透明感が高まっている。他方、世界経済の足かせとなってきた中国によるゼロコロナは、昨年末にかけて戦略転換が図られるとともに、年明け以降は国境再開により国内外で人の移動も自由となっており、中国経済の底入れが期待される。ベトナム経済については、ここ数年激化する米中摩擦の『漁夫の利』を最も得る動きがみられるほか、ASEAN(東南アジア諸国内)でも外需依存度が比較的高い国である上、財輸出の約2割、コロナ禍前においては外国人観光客の3分の1を中国(含、香港・マカオ)が占めており、中国による戦略転換は景気の追い風になると見込まれる。他方、ここ数年の米中摩擦の激化を追い風に、米国が同国を同盟国や友好国とのサプライチェーンの再構築(フレンド・ショアリング)の『筆頭格』と目する動きがみられるなか、足下においては財輸出の3割強を米国向けが占めるとともに、1割強をEU(欧州連合)向けが占めるなど、欧米など主要国景気の影響を受けやすい構造も有する。さらに、商品高による世界的なインフレは同国でも食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招き、国際金融市場での米ドル高は多くの新興国で資金流出を引き起こすなか、同国においても資金流出に伴う通貨ドン安が輸入インフレに繋がる懸念が高まったため、中銀は昨年9月と10月と2ヶ月連続での利上げに追い込まれるなど厳しい状況に見舞われた(注1)。昨年末にかけては米ドル高に一服感が出たことを反映してドン相場は底打ちするなど資金流入に転じているとみられるほか、中銀はドン安に伴う為替介入に際して減少した外貨準備の補強を目的に米ドル買いを実施するなど余裕が生まれる様子もうかがわれた。なお、昨年以降に加速したインフレ率は足下において頭打ちに転じる動きがみられるものの、過度なドン安の動きは一服するも依然として外部環境に晒されやすい状況は変わっていない。こうした状況にも拘らず、足下の国際金融市場では米国での銀行破たんをきっかけに不透明感が強まる動きがみられるなか、中銀は14日に一転して政策金利の引き下げを決定するなど、その余波による金融市場、及び実体経済に対する悪影響の軽減を狙ったと考えられる。ただし、足下の外貨準備高は月平均輸入額の3ヶ月分を下回ると試算されるなど、国際金融市場の動揺への耐性が乏しいことを勘案すれば、こうした対応は状況を一段と厳しい方向に追い込むリスクを孕んでいる。

図表1
図表1

図表2
図表2

なお、昨年の経済成長率は+8.02%と1997年(+8.15%)以来25年ぶりの高成長になり、政府目標(7%)を上回り、10-12月の実質GDP成長率も当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースで二桁%のプラス成長となるなど、コロナ禍で疲弊した経済は完全に勢いを取り戻していると捉えられる(注2)。一方、年明け以降については、上述のように欧米など主要国の景気減速懸念が外需の足かせとなり得るものの、中国のゼロコロナ終了による景気回復期待はその影響をカバーして余りあることが期待される一方、物価高と金利高の共存により家計消費や企業部門による設備投資需要に悪影響が出ることが懸念されるなど、景気の行方に不透明感が高まることが懸念された。こうした状況を反映して1-3月の実質GDP成長率は前年同期比+3.32%と昨年10-12月(同+5.92%)から伸びが鈍化しており、前期比年率ベースの成長率も2四半期ぶりのマイナス成長に転じるなど頭打ちの動きを強めていることが確認された。分野ごとの生産の動きについても、前期に大きく生産が上振れした農林漁業関連の生産に下押し圧力が掛かるなど一服感が出ているほか、鉱業部門や製造業部門の生産も弱含んでいる上、サービス業の生産も減少に転じるなどすべての分野で生産が下振れしている。同国政府は需要項目別のGDPを公表していないものの、主力の輸出財であるスマートフォンをはじめとする電気機械関連や電子部品関連を中心に輸出に下押し圧力が掛かる展開が続くなど、欧米など主要国を中心とする世界経済の減速懸念が外需の足かせとなっている。一方、物価高と金利高の共存による実質購買力への下押し圧力の影響が懸念されたものの、雇用改善の動きに加え、国境再開による外国人観光客数の底入れの動きを反映して小売売上高は拡大基調で推移するなど、家計消費に底堅さがうかがえる。ただし、外需に不透明感が強まっている上、金利上昇も影響して企業部門による設備投資需要が後退しているほか、金融市場の混乱を反映して過剰債務を抱える不動産部門への融資条件が厳格化されたことで不動産投資も下振れするなど、幅広く固定資本投資に下押し圧力が掛かったことも景気の足を引っ張っているとみられる。なお、堅調な家計消費にも拘らずサービス業の生産が下振れしている背景には、金融市場の混乱や不動産関連の低迷が影響しているとみられ、中銀の利下げ実施はこうした影響を最小化する狙いがうかがえるものの、当面は景気の足かせとなり得る可能性に留意が必要と捉えられる。

図表3
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図表4
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図表5
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先行きについては、中国のゼロコロナ終了が外需の追い風となることが期待される一方、欧米など主要国を巡っては物価高と金利高の共存が景気の足かせとなる展開が続くと見込まれる上、米FRBなどが一段の金融引き締めに動く可能性もあり、外需を取り巻く状況には不透明感がくすぶると予想される。他方、国内においてはインフレ率に頭打ち感が出ているものの、中国景気の回復は商品市況を押し上げると見込まれる上、国際金融市場など外部環境の不透明さを理由とするドン安は輸入インフレを招く可能性もくすぶるなど、インフレ率が高止まりすることで実質購買力に下押し圧力が掛かりやすい展開も考えられる。さらに、ここ数年の同国政界においては、グエン・フー・チョン氏の党書記長就任以降にチョン氏への権力集中が進むとともに、2021年の党大会を経て『コロナ禍対応』を名目にチョン政権は異例の3期目入りを果たしている。そして、政権3期目入り後も反腐敗・反汚職を名目に共産党内における『急進派』を排除する動きが一段と活発化しており、1月には国家主席であったグエン・ズアン・フック氏がコロナ禍対応を巡る汚職疑惑の監督責任を理由に事実上更迭される事態となるなど、チョン氏への権力集中が一段と進む動きがみられる(注3)。今月には後任の国家主席にチョン氏の側近であるボー・バン・トゥオン氏が就任しており、世代交代を意識させることが出来る一方、トゥオン氏が党内において思想分野に精通した保守派(理論派)の筆頭格として知られることを勘案すれば、党、及び政府執行部は保守派が占める格好となっている(注4)。今後の内政、及び外交政策の行方については不透明ながら、ここ数年の同国では共産党内における『改革派』が主導する対外開放路線が対内直接投資の流入を促すとともに、米中摩擦を背景とする米国によるフレンド・ショアリングの動きもそうした流れを大きく後押ししてきたことを勘案すれば、仮に外交政策面で中国寄りに大きく傾く動きをみせればそうした流れが一変する可能性もくすぶる。そして、党内において保守派の影響力が強まることにより、幅広い経済活動に党・政府が関与を強めることも懸念されており、仮にそうした事態となれば対内直接投資に悪影響を与えることも避けられない。その意味では、今後は景気動向以上に政治の行方が同国経済に与える影響について注意を払う必要性が高まっていると考えられる。

図表6
図表6

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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