インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

トルコ中銀は復旧・復興の側面支援維持も、道のりは平たんではない

~対外収支の悪化に国際金融市場を巡る不透明感、次期政権の政策運営は極めて困難なものに~

西濵 徹

要旨
  • トルコは過去数年に亘ってインフレ率が中銀目標を上回る推移が続き、昨年以降は商品高やリラ安も重なり大きく上振れした。他方、政府は財政出動や中銀に利下げ実施に向けて圧力を掛けるなど景気下支えに動いた。家計消費は堅調な推移が続く一方、昨年末にかけては外需が鈍化するなど景気は踊り場状態にあった上、1月の大地震ではGDP比1割を上回る被害が発生するなど景気への悪影響は必至となっている。
  • インフレ率は昨年10月を境に頭打ちに転じるも、依然高止まりしている。ただし、中銀は先月の定例会合で地震からの復旧・復興を側面支援すべく利下げに動き、23日の定例会合では緩和姿勢を維持する考えを改めて示すなど、当面はインフレ高止まりにも拘らず現行の緩和政策を維持する可能性が高いと見込まれる。
  • 5月に予定される次期大統領選・総選挙に向けては、野党が共闘してエルドアン大統領や与党AKPを猛追しており、選挙情勢に変化の兆しもみられる。他方、復旧・復興の本格化で対外収支は悪化が見込まれ、国際金融市場の不透明感が強まるなかで次期政権には極めて難しい政策運営が迫られることは避けられない。

トルコでは、過去数年に亘ってインフレ率が中銀の定めるインフレ目標を上回る推移が続くとともに、昨年以降はウクライナ情勢の悪化による商品高に加え、国際金融市場での米ドル高を受けた通貨リラ安による輸入インフレも重なり、インフレが大きく上振れする事態に直面してきた。さらに、インフレ昂進にも拘らず、中銀は『金利の敵』を自任するエルドアン大統領の圧力を受ける形で利下げ実施を余儀なくされており、結果的にインフレに歯止めが掛からない状況を招いたと捉えられる。こうした状況ながら、次期大統領選と総選挙が近付くなかでエルドアン政権は財政出動のほか、最低賃金の大幅引き上げなど景気下支えに向けた取り組みを強化しており、高インフレやリラ安により家計部門の貯蓄性向が低下している上、ウクライナ問題を受けて多くのロシア人が同国に避難して逃避資金の『受け皿』となったことも家計消費など内需を押し上げる動きに繋がっている。他方、財輸出の4割強、外国人観光客の5割弱をEU(欧州連合)が占めるなどEU景気への連動性が高いなか、リラ安による価格競争力の向上にも拘らずEU景気が頭打ちの動きを強めたことで外需に下押し圧力が掛かっている。こうした状況を反映して、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+3.80%と前期(同▲0.32%)から2四半期ぶりのプラス成長に転じるも、中期的な基調を示す前年同期比ベースでは+3.5%と前期(同+4.0%)から鈍化するなど、昨年末にかけての景気は『踊り場状態』にあると捉えられる。さらに、先月に同国南東部で発生した大地震では多数の死者や被災者に加え、被害額もGDP比で1割を上回る水準に達したと試算されるなど甚大な被害が発生したとみられるなど、短期的に景気に悪影響が出ることは避けられない。エルドアン政権は当面の復旧対策として仮設住宅の設置を急ぐとともに、早期の復興に向けた取り組みを図る姿勢をみせているほか、支援や復興に向けたEU主催の国際会議において各国・機関による拠出表明額は70億ユーロに達した模様であるが、被害額(UNDP(国連開発機関)試算では1,000億ドル)を大きく下回るなど復旧・復興の道のりは平たんではない。

図表1
図表1

図表2
図表2

一方、上述のように昨年のインフレ率は大きく上振れしたものの、商品市況の上昇の動きに一服感が出たことに加え、エルドアン政権が仲介役となる形で黒海を経由したウクライナ産穀物の輸出に関する協定締結を受けたサプライチェーンの混乱が落ち着きを取り戻していることも重なり、インフレ率は昨年10月をピークに頭打ちに転じている。しかし、エルドアン政権による景気下支え策も影響して足下のインフレ率、コアインフレ率はともに中銀目標(5%)を大きく上回る推移が続いているほか、前月比では上昇基調が続くなどインフレ収束の見通しが立たない状況にある。こうした状況ではあるものの、中銀は2月の定例会合において大地震発生を受けた需給バランスの悪化による短期的な景気への悪影響に対応すべく、3会合ぶりに政策金利(1週間物レポ金利)を50bp引き下げて8.50%とするなど復旧・復興を側面支援する決定を行っている(注1)。なお、中銀は23日の定例会合では政策金利を据え置いており、会合後に公表した声明文で同国について「大地震前は景気拡大トレンドが続いたが、短期的に経済活動への悪影響が懸念されるも、中長期的にみて恒久的な悪影響を与えるものではない」とした上で、「地震の影響を最小限に抑えるとともに、復旧・復興支援に向けて緩和的な金融環境を維持することが重要」とする考えを据え置いている。その上で「地震後の需給バランスの悪化が物価に与える影響を注視している」としつつ、「地震後の生産活動や雇用の拡大傾向を維持する観点から緩和的な金融環境を維持することの重要性が増している」として当面現行の緩和政策を継続する考えを改めて示した。

図表3
図表3

なお、同国では5月に次期大統領選と総選挙の実施が予定されているが、大地震から1ヶ月半が経過するも依然として復旧・復興の見通しが立たない状況にある上、過去数年に亘るインフレ昂進を受けて家計部門が疲弊するなかでエルドアン政権や与党AKP(公正発展党)に対する支持率が低下している。他方、次期大統領選に向けては最大野党CHP(共和人民党)のクルチダルオール党首が出馬するも、野党が一枚岩になることが出来るか不透明な動きがみられたものの、国民の間で知名度の高い最大都市イスタンブールのイマモール市長や首都アンカラのヤワシュ市長を副大統領に据える方針を示したことで野党6党が共闘するなど選挙情勢に変化の兆しがうかがえる(注2)。さらに、選挙動向を巡っては、議会内の第3勢力である少数民族のクルド人系野党のHDP(国民主主義党)は大統領選に独自候補を立てない方針を決定するなど、クルチダルオール氏を推す野党連合にとっては事実上の追い風となる動きもみられる。その意味では、大統領選・総選挙の行方は急速に不透明感が増しつつあると捉えられる。足下の商品市況は世界経済の減速懸念の高まりを受けて頭打ちの動きを強めており、原油などエネルギー資源を輸入に依存する同国には追い風となり得るものの、EU景気の不透明感など外需を取り巻く環境は厳しい一方で復旧・復興による輸入拡大が見込まれるなか、対外収支は一段と悪化することが予想される。足下の国際金融市場は米国での銀行破たんをきっかけに不透明感が強まっており、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が脆弱な同国は元々資金流出圧力が掛かりやすく、中銀の独立性を巡る懸念が通貨リラへの信認低下を招いていることも重なり、インフレ収束にほど遠い展開が続くことも懸念される。よって、次期政権が如何なる形になろうとも極めて難しい政策運営を迫られることは避けられそうにない。

図表4
図表4

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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