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2023.03.06
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習政権3期目・ゼロコロナ終了後初の全人代を経て中国経済は?
~今年の経済運営は「安定」重視、目標実現のハードルは低いが過度な期待を抱くことは禁物か~
西濵 徹
- 要旨
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- 昨年の中国を巡っては、当局によるゼロコロナ戦略に加えて、性急なゼロコロナ終了による経済の混乱も景気の足かせとなった。ただし、昨年末以降のゼロコロナ終了による経済活動の正常化に加え、感染収束が進むとともに春節連休も重なり、年明け以降の企業マインドは底入れしている。昨年末の中央経済工作会議では経済の安定と感染収束を目指す方針が示されたが、現時点では当局の思惑通りに事態は進んでいる。
- 今年の全人代は李克強氏にとり最後となるなか、5日の開幕初日に公表した政府活動報告では今年の成長率目標を「5%前後」に引き下げる一方、雇用拡大を目指しつつ物価安定を図る方針を改めて示した。経済運営面では「安定」が何よりも重視され、積極的な財政政策と穏健な金融政策を通じた景気下支えを図りつつ、不動産関連や地方財政のリスクを注視する姿勢をみせている。ただし、成長率目標のハードルは比較的低く設定されており、過度な政策支援に動くことはない一方、目標実現に向けた安定を重視したと捉えられる。
- 足下の世界経済は欧米などの景気頭打ちが懸念されるなか、中国のゼロコロナ終了による景気底入れ期待は追い風となることは間違いない。しかし、商品市況の底入れによる世界的なインフレ懸念のほか、中国国内では株式や一部の不動産でのバブル再燃などのリスクもくすぶる。雇用回復が遅れればペントアップ・ディマンドが抑えられる展開も予想されるなど、過度に期待を抱くことは難しいことに留意する必要があろう。
昨年の中国を巡っては、当局がコロナ禍対応に際して徹底した検査と隔離など行動制限を行う『ゼロコロナ』戦略が維持されたため、世界的にはワクチン接種の進展も追い風に経済活動の正常化を図る『ウィズコロナ』戦略への転換が進むなかで対照的な状況が続いた。結果、感染拡大が確認される度に行動制限により景気に下押し圧力が掛かる事態が繰り返されたほか、若年層を中心に雇用を取り巻く状況は一段と厳しさを増して家計消費の足かせとなるとともに、国民の間に当局のコロナ対応への不満が高まる事態となった。その後、昨年11月に全土で当局のコロナ禍対応への抗議運動が活発化し、一部が政権や体制への批判に発展する異例の事態となったことを受けて、一転して地方レベルでコロナ対応が緩和されたほか、12月初めには全土で行動制限が全面的に解除されるなどゼロコロナ戦略は事実上終了を迎えた。直後には急激な戦略転換を受けて感染爆発状態となったほか、それに伴い多くの国民が行動を萎縮させたことで当局の思惑に反して景気は下振れしたため、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率ベースでゼロ成長となるなど景気は踊り場状態となり、昨年通年の経済成長率も+3.0%と昨年の全人代(第13期全国人民代表大会第5回全体会議)で掲げた成長率目標(5.5%前後)を大きく下回る水準に留まった(注1)。なお、1月には国境再開により国内外で人の移動が自由になり名実ともにゼロコロナ戦略が終了するとともに、感染動向は落ち着きを取り戻したことで春節(旧正月)連休中の人の移動は依然コロナ禍前を大きく下回っているものの昨年を大きく上回るなど、景気の底入れを示唆する動きが確認されている。さらに、その後は散発的に感染者集団(クラスター)が確認されるも以前のような感染拡大に発展する事態は免れるなど感染収束が進んでいるほか、経済活動の正常化の動きを反映してサプライチェーンの回復も図られており、政府統計のみならず、民間統計においても企業マインドは製造業、サービス業問わず好不況の分かれ目となる水準を回復するなど、足下の景気は底入れの動きを強めている様子がうかがえる(注2)。昨年末に開催された共産党、及び政府関係者などが一堂に会する形で今年のマクロ経済運営の方針を討議する中央経済工作会議では、感染対策と経済の安定の両立を図ることが共有されたが(注3)、現時点においてはゼロコロナ終了により経済への足かせが外れる一方、感染収束も進むなど当局の思惑通りに事態が進んでいると捉えられる。

他方、昨秋の共産党大会(中国共産党第20回全国代表大会)を経て習近平指導部は異例の3期目入りを果たしたが、共産党の最高指導部のみならず、指導部の大宗が習近平氏の側近で占められるとともに、その背後では様々な慣例もなし崩し的に破られるなどの動きもみられた(注4)。さらに、集団指導体制の下での共産党・政府人事は、党総書記(国家主席)が外交、国務院総理が経済(内政)を担う形で役割が分担されてきたが、習近平政権下では習氏の側近(劉鶴氏)が経済担当の副総理に就任して以降、習氏の意向を汲む形で劉氏がマクロ政策や米中摩擦対応で陣頭指揮を執り、総理である李克強氏の存在感は大きく低下した。さらに、共産党大会と直後の1中全会(第20期中央委員会第1回全体会議)を経て李氏は最高指導部人事から外れるとともに、今年の全人代(第14期全国人民代表大会第1回全体会議)を経て完全引退する格好となった。今回の全人代は李氏にとって最後となる一方、過去5ヶ年の実績や、今年度予算と国内外の経済、及び政治に関する運営方針を討議するなか、5日の開幕初日にこれらを総括する「政府活動報告」を公表した。なかでも最も注目を集める今年の経済運営方針を巡っては、経済成長率目標を「5.0%前後(昨年は5.5%前後)」と引き下げる一方、ここ数年は雇用政策を重視するなかで都市部の新規雇用を「1200万人以上(昨年は1100万人以上)」拡大させつつ、都市部の調査失業率を「5.5%前後(昨年は5.5%以下)」とするなど引き続き雇用拡大を目指す方針を強調している。他方、昨年はウクライナ情勢の悪化による商品高がインフレを招くことが懸念されたものの、当局が企業に対して商品価格への転嫁を事実上禁止したことで物価は低調な推移が続くなか、今年のインフレ目標は「3%前後(昨年と同じ)」とするなど雇用創出を図る一方で物価抑制に注力する考えを示す一方、所得の伸び率は経済成長率とほぼ同じペースに保つとしている。その上で、経済運営に当たっては『安定』を強調しつつ「安定を維持しつつ進歩を求め、政策の継続性と妥当性の維持を図りつつ、様々な政策調整を強化して質の高い経済成長を推進する」方針を掲げるとともに、財政運営面では積極的な財政政策の強化を図りつつ効率性の改善を図ることで財政赤字を「GDP比▲3.0%前後(昨年は同▲2.8%前後)」とし、具体的に「税・手数料など優遇措置の見直しに加え、現行の減税などの措置は延長すべきものは延長する一方、見直しが必要なものは見直しを行う」との考えを示した。その上で、消費の回復による内需拡大を重視するとともに、地方政府による特別債(専項債)の発行枠を「3.80億元(昨年は3.65億元)」と過去最大にすることで投資の進捗・拡充による景気下支えを図る考えを示している。一方、金融政策については穏健な金融政策を維持する一方で「的確且つ強力である必要がある」とした上で、具体的にはマネーサプライや社会融資総量の伸びを名目成長率並に一致させるほか、人民元レートを基本的に安定且つ合理的でバランスの取れた水準に維持することで実体経済の下支えを重視する考えを示した。他方、金融面ではここ数年不動産関連におけるリスクが意識されていることに対応して、監督管理を強化するとともに、負債比率の改善や無計画な拡大の抑制により安定成長を促すほか、地方政府の債務リスクにも目配りする方針を改めて強調している。そして、雇用政策についてもここ数年同様に就業支援を強化する考えを示すとともに、足下で厳しい状況が続く若年層、なかでも大卒者に対する支援を優先する考えを強調している。なお、今年の経済成長率を巡っては+1.3ptのプラスのゲタが生じていることを勘案すれば、目標を引き下げたことは過度に高い成長率を求めるのではなく、ゼロコロナ終了により自然体でも実現しやすい目標を掲げる一方、その目標実現に向けて安定を重視したと捉えることが出来る。

他方、今年の政策運営の方針を巡っては、習近平氏を核心とする党中央による力強い指導の下で「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」の指導による『中国式現代化』を着実に推進する考えを示すとともに、質の高い経済成長を図りつつ、国内外情勢や感染対策を統一的に考慮した形での政策運営を図る考えを示している。その上で、外需が成長のけん引役となる状況が難しくなる一方で内需も力強さを欠くなか、中小・零細企業が困難に直面している上、地方財政を巡る問題や不動産市場を巡るリスクもくすぶり、科学技術を巡るイノベーションも伸び悩むなど経済成長の足かせとなる動きが顕在化していることを警戒している。こうした困難に対応する観点から産業政策と安全保障の歩調を併せるべく、技術開発面では戦略的な新興産業の育成を図るとともに、サプライチェーンの脆弱な部分を重点補強して『自立自強』を実現するほか、産業政策面では国を挙げて重要な核心技術を巡るサプライチェーンの困難を克服しつつ、先端技術の研究開発・応用促進の加速によりプラットフォーマーを後押しする考えを改めて強調している。他方、企業改革面では国有企業の現代的なコーポレートガバナンスを整備する考えをみせているものの、足下では『国進民退』の動きが広がりをみせるなかで過去数年に比べて改革色が後退した印象が強い。また、昨年以降のウクライナ情勢の悪化による商品高は同国でも食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレに見舞われたことを受けて、食料安全保障の観点から作付面積の確保やアグリテックと関連する農機導入により生産性向上を図るほか、エネルギー確保の観点から環境政策面ではクリーンで高効率な石炭利用と関連技術の研究開発促進を図る考えを示すなど、習近平指導部が掲げた環境目標(2030年に二酸化炭素排出量のピークアウト、2060年のカーボンニュートラル)は些か後退した印象もうかがえる。その一方、対外開放路線では外資の積極的活用という従来方針を堅持した上で、一昨年に申請したCPTPP(包括的且つ先進的な環太平洋パートナーシップ)の加入交渉を推進するとともに、サービス業の一段の開放、制度面での開放拡大を通じて輸出入が経済を支える好循環を生むことに注力するとしている。なお、ここ数年は欧米との関係を巡って『火種』となっている香港、及び台湾問題については、香港は「『一国二制度』を貫徹し、愛国者による香港及びマカオの統治を徹底する」、台湾は「『九二共識』を堅持し、独立運動や外部勢力の干渉に断固反対する」など従来の姿勢を改めて強調する一方で慎重な姿勢を維持した格好である。その上で、外交面では自主独立した平和外交政策を追求して各国との友好協力を発展させるとの考えを示す一方、ウクライナ問題を巡って中国は立場を明確にしない一方、ロシア産原油の輸入を拡大するなど事実上側面支援する動きをみせているほか、グローバルサウス(南半球を中心とする新興国)への働きかけを強める動きもみられるなか、世界的な『分断』の動きが強まる可能性にも要注意と言える。
足下の世界経済を巡っては、コロナ禍からの景気回復をけん引してきた欧米など主要国景気に、物価高と金利高の共存を理由に不透明感が強まる動きがみられる。他方、景気の足かせとなってきた中国のゼロコロナ終了により一転して底入れの兆しがうかがえるほか、今回の全人代では全体的に経済の安定を重視する姿勢が示されたことは世界経済の追い風となることが期待される。上述のように今年の経済成長率目標はそのハードルが比較的低いと見込まれる上、その実現に向けた政策支援を重視する考えが示されたことを勘案すれば、その実現は充分に射程距離のなかにあると考えられる。ただし、中国の景気回復はウクライナ問題をはじめとする供給不安がくすぶるなかで商品市況の上振れを通じて世界的なインフレ要因となり得るなど、新たなリスクを招く可能性がある。さらに、中銀(中国人民銀行)は一昨年末以降に景気下支えの観点から様々なツールを通じて断続的な金融緩和を実施しており、同国金融市場においては『カネ余り』が意識されやすい環境にあると捉えられるなか、景気回復が進めば株式や不動産など資産価格の上昇に繋がる可能性がある一方、以前のようにすべての不動産価格が押し並べて上昇する展開は見通しにくく、結果的に富の偏在が一段と強まることも懸念される。政府活動報告では、住宅関連では住宅整備体系の強化を通じてマイホームの購入・買い替えを支援するとともに、市民や若年層が直面する住宅難の解消を図るとの考えを示す一方、不動産市場を冷やすことを警戒して不動産税の試験導入については今回言及はなされないなど難しい対応が迫られている。足下においては企業マインドの改善の動きに歩を併せる形で雇用を取り巻く環境にも改善の動きがみられるものの、こうした動きが若年層にも広がらない限りはゼロコロナ終了によるペントアップ・ディマンドの発現は高所得者や上位の中間層に留まり、すそ野の広い家計消費の回復に繋がりにくい状況が続く可能性も予想される。その意味では、世界経済は短期的に中国景気の回復期待に負うことが可能と見込まれるものの、冷静に『その後』を見据えた対応を取っていく必要があることは間違いない。

注1 1月17日付レポート「中国は人口減少局面入り、短期では景気底入れ期待も、中長期では課題山積」
注2 3月1日付レポート「全人代を前に中国の企業マインドは一段と改善の動きを強める」
注3 2022年12月20日付レポート「中央経済工作会議の動きで占う2023年の中国経済」
注4 2022年10月24日付レポート「中国・習近平政権3期目は「側近だらけ」、党大会閉幕で経済指標も一気に公表」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

