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2023.03.01
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全人代を前に中国の企業マインドは一段と改善の動きを強める
~3期目入り後初の全人代に追い風も、過度な期待を抱くことには注意が必要と捉えられる~
西濵 徹
- 要旨
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- 中国では昨年末以降のゼロコロナ終了を受けて景気の底入れが期待されるほか、商品市況も底入れしている。ゼロコロナ終了に加えて春節連休の時期も重なり1月の企業マインドは改善したが、その後も感染動向は落ち着いており、政策支援も追い風に頭打ちが続いた不動産市況も底打ちしている。不動産需要の底入れはGDP比で1割強に上る不動産投資を押し上げるなど、中国景気の底入れを促すことも期待される。
- 2月の企業マインドは1月に大きく上振れした反動が出ることが懸念されたが、製造業、非製造業ともに改善が続くなど、生産活動の活発化を反映している。内・外需に幅広く改善する動きがみられるほか、業種を問わず雇用も改善するなど家計部門のマインド改善に繋がる動きもみられる。他方、原材料価格の上昇を製品価格に転嫁する動きもみられるなど、中国製品の価格上昇が世界的なインフレ高止まりを招く可能性もある。
- 今月5日に全人代の開幕を控える前に企業マインドの改善が確認されたことは、習近平政権3期目入り後初の予算発表を前に好材料となると期待される。他方、昨年来の金融緩和で金融市場は「カネ余り」が意識されやすい環境にあるなか、過度な景気刺激策は資産価格のバブル化など副作用に繋がるリスクもある。よって、今年の経済成長率は上振れしやすい環境にあるが、過度な期待を抱くことには注意が必要である。
中国では昨年末以降、経済活動の足かせとなるとともに、世界経済のリスク要因となってきた『ゼロコロナ』戦略の終了に舵を切る動きをみせており、国際金融市場においては調整の動きが続いた商品市況も中国景気の回復を織り込み底打ちする動きがみられる(注1)。1月初めには国境再開により国内のみならず、海外への移動も自由となるなど、名実ともにゼロコロナ戦略は完全に終了するとともに、今年は春節(旧正月)連休の時期が例年に比べて大きく前倒しされており、1月の企業マインドは製造業、サービス業問わず幅広く大きく改善する動きが確認された。他方、1月の企業マインドはサービス業を中心に大きく改善しており、これは春節連休における大規模移動を反映して観光関連産業を中心に改善が進んだとみられる一方、製造業については生産活動の回復が道半ばの状況が続いており、その行方に注目が集まってきた。なお、春節連休における大規模移動を受けて感染拡大の動きが再燃することが懸念されたものの、その後は散発的に感染者集団(クラスター)が発生する動きは確認される一方、以前のような感染拡大に発展する事態は免れており、感染の波は着実に終わりを迎えつつあると捉えられる。よって、春節連休の終了後は製造業においても生産活動の正常化が進んでいるとみられるほか、こうした動きに呼応するように景気も底入れの動きを強めることが期待される。さらに、1月の主要70都市における新築住宅価格は前月比+0.1%と1年ぶりに上昇に転じており、ゼロコロナの終了に加え、昨年末に実施された不動産市場の支援策のほか、追加的な景気刺激策に対する期待も追い風に需要が押し上げられる動きがみられる。民間調査では2月の不動産需要は2級都市や3級都市を中心に拡大する動きがみられるなど、持ち直しを示唆する動きが確認されており、足下の中国経済にとってGDP比で1割強に達する不動産投資の底入れは景気全体の行方を大きく左右することが期待される。

なお、1日に国家統計局が公表した2月の製造業PMI(購買担当者景況感)は52.6と2ヶ月連続で好不況の分かれ目となる水準を上回るとともに、前月(50.1)から+2.5ptと大幅に上昇して2012年4月以来となる高水準となるなど、急速にマインドが改善している様子がうかがえる。足下の生産動向を示す「生産(56.7)」は前月比+6.9ptと大幅に上昇して5ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復しているほか、先行きの生産に影響を与える「新規受注(54.1)」も同+3.2pt、「輸出向け新規受注(52.4)」も同+6.3pt上昇してともに50を上回る水準を回復するなど、内・外需双方で改善に向けた動きが広がっている。生産拡大の動きを受けて素材や部材など原材料に対する需要が拡大していることを反映して、「購入量(53.5)」は前月比+3.1pt上昇するとともに、「輸入(51.3)」も同+4.6pt上昇して21ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復しており、中国向け輸出への依存度が高い国々にとって追い風になることが期待される。ただし、中国景気の回復期待を反映した商品市況の底打ちの動きを受けて「購買価格(54.4)」は前月比+2.2pt上昇しており、企業部門を中心に再びインフレ圧力が強まる可能性に注意する必要が高まるであろう。さらに、急激な生産拡大の動きを反映して「完成品在庫(50.6)」は前月比+3.4pt上昇して10ヶ月ぶりに50を上回る水準となるなど在庫の積み上がりを示唆する動きがみられるなど、先行きの生産活動に影響を与えることに留意する必要はある。その一方、生産活動の回復の動きを受けて「雇用(50.2)」は前月比+2.5pt上昇して23ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復するなど雇用の改善が確認されているほか、サプライチェーンの回復の動きを反映して「サプライヤー納期(52.0)」と同+4.4pt上昇して7ヶ月ぶりに50を上回る水準に回復する動きもみられる。企業規模別では「大企業(53.7)」が前月比+1.4pt上昇するのみならず、「中堅企業(52.0)」も同+3.4pt、「中小企業(51.2)」も同+4.0pt上昇していずれも50を上回る水準を回復しており、総じてマインドが改善していると捉えられる。なお、業種別では設備関連やハイテク関連、化学関連や金属・非鉄金属関連、消費財関連など幅広い分野で改善の動きが広がっており、総じて製造業を取り巻く状況は好転している。

さらに、民間統計であるS&Pグローバルが公表する2月の財新製造業PMIも51.6となり、前月(49.2)から+1.6pt上昇して7ヶ月ぶりに好不況の分かれ目となる水準を回復するなど、政府統計と比べて調査対象に占める民間企業の割合が高い同指標は回復の動きが道半ばの展開をみせてきたものの、こちらも着実に回復の動きを強めていることが確認された。足下の生産動向を示す「生産(53.3)」は前月比+4.3ptと大幅に上昇して6ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復するなど生産拡大の動きを強めているほか、先行きの生産動向に影響を与える「新規受注(52.9)」も同+3.6pt上昇している上、「輸出向け新規受注(52.2)」も同+3.5pt上昇してともに7ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復するなど、民間企業においても内・外需双方で幅広く改善の動きが広がっている様子がうかがえる。生産拡大による素材や部材などに対する需要底入れの動きを反映して「購入量(52.2)」も前月比+2.8pt上昇して4ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復しており、政府統計同様に中国向け輸出への依存度が高い国々にとって景気の追い風となることは間違いないと判断出来る。なお、商品市況の底入れによる影響が懸念されたものの「調達価格(51.7)」は前月比▲0.3pt低下するなど底入れの動きに一服感が出る動きがみられるなど、ロシア産原油の輸入拡大を追い風にガソリンをはじめとする燃料価格が抑えられていることが影響している可能性がある。他方、内需のみならず、外需の回復を追い風に原材料価格の上振れを受けた価格転嫁の動きが広がっていることを反映して「出荷価格(50.3)」は前月比+0.6pt上昇して10ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復しており、昨年来の商品高による世界的なインフレの動きは一巡する兆しがみられるものの、中国製品の価格上昇がインフレの高止まりを招くことも考えられる。また、生産拡大の動きを反映して「完成品在庫(49.3)」は前月比+0.9pt上昇するなど在庫積み上がりの動きも確認されているものの、依然として50を下回る水準で推移するなど在庫調整圧力が急激に強まる事態とはなっていない。そして、生産拡大の動きを受けて「雇用(50.6)」は前月比+2.2pt上昇して11ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復しており、回復の動きが遅れてきた雇用を取り巻く状況も改善しており、家計部門を取り巻く環境の改善に繋がることが期待される。とはいえ、政府統計に比べて民間統計の回復は緩やかなものに留まっており、足下の中国経済が『国進民退』感を強めている状況は変わっていないと捉えられる。

また、1月は春節連休の時期が重なったことも影響して製造業以上に非製造業において回復の動きが強まる動きがみられたものの、国家統計局が公表した2月の非製造業PMIは56.3と2ヶ月連続で50を上回るとともに、前月(54.4)から+1.9pt上昇して一昨年3月以来の水準となるなど、一段と回復の動きを強めていることが確認されている。分野別では、経済活動の正常化の動きを反映して建設事業の進捗促進が図られていることを反映して「建設業(60.2)」が前月比+3.8pt上昇して5ヶ月ぶりの高水準となっているほか、引き続き「サービス業(55.6)」も同+1.6pt上昇するなど、総じて企業マインドが改善している様子がうかがえる。サービス業のなかでは陸運関連や空輸関連のほか、郵便関連、宿泊関連、リース関連、ビジネスサービス関連などを中心に大幅に改善の動きが続くなど、経済活動の活発化の動きを反映している。足下の商業活動が改善する動きをみせているほか、先行きの商業活動に影響を与える「新規受注(55.8)」も前月比+3.3pt、「輸出向け新規受注(51.9)」も同+6.0ptと大幅に上昇しており、内需のみならず外需もともに改善している。なお、商品市況の底入れの動きにも拘らず「投入価格(51.1)」は前月比▲0.4pt低下するなど底入れの動きに一服感が出ている一方、「販売価格(50.8)」は同+2.5pt上昇して11ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復しており、早くも輸出財を中心に価格転嫁の動きが広がりをみせる動きもみられるなど、今後は中国製品の上昇が世界的なインフレの高止まりを招く一因となる可能性がある。さらに、経済活動の活発化の動きを反映して「雇用(50.2)」は前月比+3.5pt上昇して2018年8月以来となる50を上回る水準を回復するなど、非製造業においても雇用拡大の動きが広がりをみせているほか、「サプライヤー納期(55.2)」も同+5.5pt上昇して7ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復するなど、サプライチェーンの回復が進んでいる様子もうかがえる。

中国では今月5日に全人代(第14期全国人民代表大会第1回全体会議)の開幕が予定されており、昨年秋の共産党大会(中国共産党第20回全国代表大会)を経て船出を迎えた習近平政権3期目にとって初めての全人代になるとともに、政権3期目初の予算や国内外の政治、及び政治に関する運営方針が討議される重要なタイミングにある。こうした状況を前に昨年末以降のゼロコロナ終了により下振れした景気が早くも底入れしていることが確認されたことは、昨年末の中央経済工作会議において今年の経済運営に当たって経済の安定を重視する方針を示した党、及び政府にとって追い風になると期待される(注2)。先月中旬には、国家発展改革委員会と財政部が共同でコロナ禍における『強制貯蓄』対策として景気支援策を立案する方針を示しているほか、全人代で発表される今年度予算においても財政、及び金融政策を通じた景気下支えに向けた取り組みが示される見通しである。他方、中国金融市場においては昨年以降における中銀(中国人民銀行)による断続的な金融緩和を追い風にマネーの伸びは底入れの動きを強めるなど『カネ余り』が意識されやすい状況にあり、商品市況の底入れによるインフレ懸念に加え、需要喚起策を追い風に不動産や株式など資産価格の急騰の動きが再燃するリスクもあることを勘案すれば、当局は『アクセル』を踏むことに躊躇することも予想される。その意味では、今年の経済成長率にはプラスのゲタが生じるなど上振れしやすい環境にある上、ゼロコロナ終了により景気の底入れが期待される状況でもあり(注3)、比較的堅調な推移が期待される。ただし、過度な政策支援はその後の『副作用』を招くことも考えられるため、当局は比較的穏当な政策支援に留めると予想されるなど、中国経済の大幅な上振れを期待することには注意が必要と考えられる。

注1 2月10日付レポート「中国、ゼロコロナ終了による景気回復は道半ばも、期待先行は続く」
注2 2022年12月20日付レポート「中央経済工作会議の動きで占う2023年の中国経済」
注3 1月17日付レポート「中国は人口減少局面入り、短期では景気底入れ期待も、中長期では課題山積」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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