インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

トルコでは政治の季節を前に「何でもあり」の様相が強まる予感

~インフレ鈍化で利下げ圧力が強まる可能性、選挙前倒しや野党への嫌がらせなど何でもありの様相~

西濵 徹

要旨
  • 足下では米ドル高に一服感が出るなかで多くの新興国通貨が底打ちする動きをみせるが、トルコではインフレにも拘らず中銀が利下げを実施するなど、経済学の定石で考えられない政策も影響してじり安の展開が続く。昨年末にかけての商品高の一服を受けてインフレ率は鈍化したが、政府は選挙対策を目的に最低賃金の大幅引き上げや年金受給前倒しに動くなど、インフレに繋がる材料が山積する状況は変わっていない。
  • こうしたなか、中銀は19日の定例会合で政策金利を2会合連続で据え置いている。ただし、インフレ鈍化を理由に先行きは追加利下げに動く可能性も考えられる。さらに、エルドアン政権は財政出動を受けた支持率底入れを好感して選挙の前倒しを示唆する一方、野党に対する嫌がらせの動きを強めるなど政権延命に向けて「何でもあり」の様相を強めている。短期的には選挙対策が景気を押し上げる可能性はあるが、その後はインフレが内需の足かせとなる上、外需の不透明感も強まるなど景気は厳しさを増すことが予想される。

昨年の国際金融市場においては、商品高による世界的なインフレを受けて米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀が物価抑制を目的にタカ派傾斜を強めた結果、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な新興国を中心に資金流出に見舞われるとともに、米ドル高が進んだことで多くの新興国通貨に調整圧力が掛かった。しかし、足下では米FRBのタカ派姿勢が後退していることを受けて米ドル高の動きに一服感が出ており、そうした動きを反映する形で新興国からの資金流出の流れが一巡するとともに、新興国通貨も落ち着きを取り戻す動きがみられる。トルコの通貨リラ相場を巡ってはここ数年に亘って調整局面が続いてきたほか、昨年も調整の動きが加速する動きがみられたが、上述のように外部環境が変化しているにも拘らず、足下においても『じり安』が続くなど調整圧力がくすぶる展開をみせている。この背景には、商品高に伴いトルコでも食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレの動きが顕在化しているにも拘らず、中銀は『金利の敵』を自任するエルドアン大統領の圧力を受ける形で昨年8月以降、4会合連続で利下げを実施するなど経済学の定石では考えられない政策運営を行ったことが影響している(注1)。なお、中銀は先月の定例会合において5会合ぶりに政策金利を据え置くなど、事前に予告した通りに利下げ局面の打ち止めを決定しており、先行きについては物価動向に応じて対応する考えを示している(注2)。他方、昨年末にかけては世界経済の減速懸念が意識される形で商品高の動きに一服感が出たこともあり、昨年12月のインフレ率は前年比+64.3%、コアインフレ率も同+51.9%と加速が続いた流れから一転して鈍化している。しかし、インフレ率、コアインフレ率ともに依然として中銀の定めるインフレ目標(5%)を大きく上回る推移が続いている上、前月比では引き続き上昇の動きが続くなどインフレ圧力が後退している状況にはない。さらに、今年は大統領選、及び総選挙が予定されるなど『政治の季節』が近付くなか、政府はインフレ対応を目的に今年の最低賃金を55%と大幅に引き上げるとともに、年金受給開始年齢に関する最低年齢規定を廃止するなど政策的なアピールを加速させているが、こうした動きは労働需給のひっ迫を招くとともに、賃金上昇を通じてインフレに繋がることが懸念される。足下では中国によるゼロコロナ終了を追い風に商品市況が再び底入れするなどインフレ圧力に繋がる動きもみられるなか、先行きのインフレ率が鈍化の動きを一段と強めるか否かは見通しが立ちにくい状況にあると判断出来る。

図表1
図表1

図表2
図表2

こうしたなか、中銀は19日に開催した定例会合において政策金利である1週間物レポ金利を2会合連続で9.00%に据え置く決定を行っている。会合後に公表した声明文では、世界経済について「地政学リスクと利上げによって景気後退懸念が続いている」とする一方、同国経済について「外需が景気の足を引っ張るも、内需は比較的堅調に推移している」、物価動向についても「持続可能な物価安定と金融安定の強化に向けた施策により改善している」との認識を示した。その上で、今回の決定について「世界経済の不確実性が高まるなかで、生産や雇用拡大の維持により供給、及び投資の構造的拡大を継続させる金融環境を維持することが非常に重要である」として、緩和的な金融政策を維持することを肯定している。先行きの政策運営を巡っては「恒久的な物価安定と中期目標の実現が示唆される経済指標が確認されるまで、リラ化戦略の枠組のなかで利用可能な手段をすべて行使する」とのこれまでの文言を維持する一方、上述のように足下のインフレ率が鈍化していることを理由に一段の金融緩和に動く可能性も高まっていると判断出来る。なお、エルドアン大統領派これまで、大統領選と総選挙を今年6月に行う考えを繰り返し述べてきたものの、18日に突如5月14日に実施する可能性を示唆するなど、仮にそうなれば1ヶ月ほど前倒しで行われることとなる。この背景には、現時点において想定される6月18日は夏休みシーズンと重なるとともに、イスラム教の祝祭である犠牲祭が近いことを理由に、エルドアン政権を支える与党AKP(公正発展党)内で前倒しを求める動きがあったとされる。他方、足下の景気を巡っては、インフレが高止まりするなかで金融緩和が実施されたことに伴う実質金利の低下も追い風に家計消費は底堅い動きが続く一方、輸出の半分を占める欧州景気が減速感を強めるなど外需に不透明感が高まるなかで頭打ちする動きが確認されている上(注3)、企業、家計部門ともにマインドは力強さを欠く展開が続いているほか、先行きは一段と下振れする可能性もくすぶる。昨年末にかけてはエルドアン政権が主導する財政出動も追い風に、低迷が続いた政権支持率が底入れする動きもみられる。こうした状況も上述のようにエルドアン政権が政策的なアピールを加速させる一因になっているほか、先行きの景気に不透明感が強まることが懸念されるなかで選挙そのものを前倒しで実施することにより、政権の延命を図りたいとの思惑も透けてみえる。さらに、次期大統領選を大きく左右する問題としては、最大野党CHP(共和人民党)の所属で最大都市であるイスタンブールの市長を務めるイマモール氏が有力な野党候補になると取り沙汰される一方、2019年の選挙後に行った演説を巡って公務員侮辱罪に問われるなか、先月に裁判所が禁錮2年7ヶ月、及び政治活動を禁止する旨の判決を下すなど『司法の政治化』とも呼べる動きも顕在化している(注4)。その後、イマモール氏は判決を不服として上訴するとともに市長職を続けているが、トルコ検察は今月11日に入札を巡る談合に関与したとしてイマモール氏を起訴しており、初公判は6月15日に行われるなど選挙戦に悪影響を与える可能性も出るなど、野党勢力に対する『嫌がらせ』の動きを活発化させている。短期的には選挙に関連する政府消費の拡大の動きも景気を押し上げることが期待されるものの、その後はインフレの高止まりが家計消費など内需に悪影響を与えることに加え、外需の不透明感も重なり、実体経済を取り巻く状況は厳しい展開が続く可能性に留意する必要がある。

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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