インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

トルコ中銀、予告通り利下げ局面打ち止めも、今後も「何でもあり」は続こう

~来年の大統領選、総選挙に向けて「何でもあり」の姿勢は変わらず、リラ相場はじり安の展開が続こう~

西濵 徹

要旨
  • 国際金融市場では米ドル高一服により新興国を取り巻く環境が変化しているが、トルコでは通貨リラ相場がじり安の展開をみせている。これは対外収支が悪化している上、インフレ昂進にも拘らず中銀が「金利の敵」を自任するエルドアン大統領の圧力を受けて断続利下げに動いたことも影響している。中銀は22日の定例会合で予告通り5会合ぶりの金利据え置きを決定したが、今後も緩和政策を維持する可能性は高い。
  • トルコでは来年、大統領選と総選挙が予定されるなど「政治の季節」が近付いている。一方で景気に不透明感が高まるなか、大統領は中銀に利下げ実施の圧力を強めるとともに、政府は最低賃金の大幅引き上げに動くなど、インフレの高止まりは避けられそうにない。これら以外にも司法の政治化や言論統制を強化するなど、大統領及び与党は「何でもあり」の対応を進めると見込まれる。地域情勢や外交関係を巡る不透明感もくすぶるなか、リラ相場の暴落が再燃するリスクは低いが、実需の低迷を受けたじり安が続く可能性は高い。

足下の国際金融市場においては、米ドル高の動きに一服感が出ており、マネーフローの変化を反映して資金流出に直面してきた経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な新興国などを取り巻く状況が変化する動きがみられる。ただし、トルコでは通貨リラの対ドル相場がじり安の展開をみせるなど、米ドル高の一服を受けて多くの新興国で通貨が底入れする動きをみせている状況と対照的な動きがみられる。こうした背景には、トルコでは2018年のいわゆる『トルコショック』による景気減速を受けた輸入減を反映して一時的に経常収支が黒字化する動きがみられたものの、足下においては商品高による輸入額の押し上げに伴い経常赤字が拡大するなど対外収支が悪化していることが影響している。さらに、商品高による食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレが顕在化しているにも拘らず、中銀は『金利の敵』を自任するエルドアン大統領による圧力を受けて8月以降4会合連続の利下げ実施に動くなど、経済学の定石では考えられない政策運営を行っていることもある(注1)。同国は上述のトルコショックのほか、昨年末のリラ相場の暴落を受けて金融機関などへの窓口規制を通じて事実上の資本規制を強化しているほか、格付も投資不適格となるなど中長期資金が流入しにくいなど、金融取引が縮小するなかでリラ相場は動意の乏しい展開が続いている。こうした状況にも拘らず足下のリラ相場がじり安の動きをみせていることは、金融取引以外の実需面でリラに対する売り圧力が掛かっていることが影響しているとみられ、事態は一段と深刻と捉えることが出来る。足下の動向を巡っては、商品市況の上振れの動きに一服感が出ていることを反映して11月のインフレ率は前年比+84.4%と前月(同+85.5%)から伸びが鈍化しているほか、コアインフレ率も同+68.9%と前月(同+70.5%)から鈍化するなど、ともに頭打ちの兆しがうかがえるものの、依然として中銀の定めるインフレ目標(5%)を大きく上回る推移が続いている。こうしたなか、中銀は22日に開催した定例会合において政策金利である1週間物レポ金利を5会合ぶりに9.00%に据え置いており、10月、及び11月の定例会合において予告した通り利下げ局面の打ち止めを決定した。会合後に公表した声明文では、世界経済について「地政学リスクに加え、金利高と物価高の共存により景気後退懸念が高まっている」とした上で、国際金融市場について「主要国中銀との対話を巡る乖離が不確実性を招いている」との認識を示している。一方、同国経済について「外需の鈍化が景気の足を引っ張る懸念が高まっているが現時点ではその影響は限定的」としつつ、「商品高と外需の低迷は経常収支を巡るリスクを高めており、物価安定を図るべく経常収支の持続可能性を高めることが重要」との見方を示している。また、物価動向について「地政学リスクによるエネルギー価格の上振れ、経済のファンダメンタルズに基づかない価格形成、世界的な供給制約に拠るもの」との従来からの考えを示した上で、先行きは「紛争解決プロセスの進展や持続可能な物価、及び金融安定化策の強化によりディスインフレプロセスが期待される」とのこれまでの見方を改めて強調している。その上で、今回の決定について「世界経済の不確実性や地政学リスクの高まりが一段と意識されるなか、成長のモメンタムと雇用拡大の維持のためには金融緩和環境を継続することが重要」とするこれまでと同じ理由を挙げた上で、「政策金利を据え置くことが適切」との考えを示した。先行きについては「恒久的な物価安定と中期目標の実現が示唆される経済指標が確認されるまで、リラ化戦略の枠組のなかで利用可能な手段をすべて行使する」との従来からの考えを改めて示したが、完全にポリシーミックスは破たんするとともに、10月末に終了したIMF(国際通貨基金)の4条協議ミッションが中銀に早期の利上げを提案したにも拘らず(注2)、これを完全に無視していると捉えられる。

図表1
図表1

図表2
図表2

なお、トルコでは来年6月に大統領選、及び大国民議会の総選挙が予定されるなど『政治の季節』が近付いている。しかし、足下の景気を巡ってはインフレが大きく上振れして推移するなど家計部門にとっては実質購買力に下押し圧力が掛かる展開が続いている上、輸出の半分を占めるEU(欧州連合)をはじめとする海外経済の減速懸念の高まりを受けて外需が下振れしており、頭打ちの様相を強める懸念が高まっている(注3)。こうした事情も大統領選での再選を目指すエルドアン大統領が中銀に対して一段の金融緩和実施に向けた圧力を強める一因になっているとみられ、エルドアン大統領が年内に政策金利は一桁になるとする目標を掲げてきたなかで、中銀はこれに従ったと捉えることが出来る。さらに、政府はインフレ対応を目的に今年は最低賃金を50%と大幅に引き上げる取り組みを進めてきたが、来年の最低賃金を巡っては労使間協議が難航してきたなか、政府の介入によりさらに55%引き上げることで合意に持ち込む強硬策に動いており、足下で頭打ちの兆しがうかがえるインフレ率は再び上振れする可能性も考えられる。このようにエルドアン政権、及び与党AKP(公正発展党)は大統領選、及び総選挙での政権、党勢の維持に向けて『何でもあり』の対応をみせている。さらに、今月14日には裁判所が大統領選においてエルドアン氏の有力な対抗馬と目されている最大野党CHP(共和人民党)所属で最大都市イスタンブール市長を務めるイマモール氏に対して、公務員侮辱罪を理由に禁錮2年7ヶ月とともに、政治活動を禁止する判決を下すなど『司法の政治化』とも取れる動きが顕在化している(注4)。この判決を受けて、イスタンブールを中心に抗議集会の動きが広がっているほか、政権への意向への疑念を理由に批判する向きもみられるなか、エルドアン大統領はこうした批判に反発するなど泥仕合の様相をみせているが、今後も大統領選、及び総選挙に向けてこうした動きが続く可能性は必至と見込まれる。なお、同国では10月にも大国民議会において与党AKPが提出した改正報道法案が賛成多数で可決されており、改正法では従来の刊行物のみならず、ニュースサイトなども対象に不安や恐怖、パニックを引き起こすことを目的に国家の安全や社会秩序に関する虚偽情報を流布した者に対して1年から最大3年の禁固刑を科すことが定められている。こうしたいわゆる『偽ニュース規制法』は多くの新興国で制定に向けた動きが広がりをみせているが、同国においては元々2016年のクーデター未遂事件以降に政府が新聞やテレビなどに対する言論統制を強化してきたが、今回の法改正は政府批判が多いインターネットメディアにその『投網』を広げる狙いが透けてみえる。こうした動きは表現の自由の侵害に繋がることは避けられないであろう。また、総選挙を意識した動きを巡っては、先月にイスタンブールで発生した爆発事故を巡って隣国シリア北部などでクルド人武装組織に対する攻撃を激化させる対応をみせており、その動向は地域情勢を揺さぶることも予想される。トルコはNATO(北大西洋条約機構)加盟国として北欧のフィンランドとスウェーデンによるNATO加盟申請に対して『キャスティングボート』を握っているが(注5)、今月19日にスウェーデンの最高裁判所は2016年のクーデター未遂事件に関わったとして訴えられているトルコ人の身柄引き渡しについて政治的信念を理由とする迫害懸念を理由に拒否する決定を下しており、トルコ政府はこの決定を非難する動きをみせるなど外交関係を揺さぶることも予想される。事実上の資本規制に伴い動意が乏しくなっているリラ相場が外交関係の悪化をきっかけに再び暴落する可能性は低いと見込まれるものの、慢性的に外貨準備は過小状態にある上、商品高による経常赤字の拡大など対外収支の悪化も懸念されるなかでリラ相場を取り巻く環境は厳しい展開が続くことは避けられそうにない。

図表3
図表3

図表4
図表4

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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