インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中国政府・中銀が連名で内需喚起策発表も、大規模対策には距離

~中小・零細民間企業や家計への支援拡充も、大規模な景気刺激策には慎重姿勢~

西濵 徹

要旨
  • 中国経済は供給サイド主導の拡大が続く一方、内需は力強さを欠く。こうしたなか国務院は7月、初めて個人消費に焦点を当てた「消費拡大の5ヵ年計画」を発表した。2030年の小売売上高を2025年比2割増の「60兆元前後」とする目標を掲げ、消費構造の高度化と家計所得の引き上げを柱とし、サービス消費の拡大、デジタル・AI・環境配慮型・体験型・インバウンド消費の推進、雇用拡大・賃上げ・社会保障充実による購買力向上を打ち出した。ただし、財産所得拡大への過度な依存は資産バブルの再燃リスクを孕んでいる。

  • 7月末の中央政治局会議では景気減速を認め、下半期に歳出拡大余地があることを踏まえ、電力・水利・通信等の国家プロジェクト「六張網」を中心にインフラ投資関連の財政支出加速を表明した。内需拡大の重要性や過当競争(内巻)の是正、企業の代金未払い問題への対応にも言及したが、具体策には踏み込まず、依然として供給サイド重視の姿勢がうかがえる。

  • 財政部は8月21日、追加財政措置の適時実施と家計・消費への支出配分拡大の方針を表明した。さらに、財政部・中国人民銀行・国家金融監督管理委員会は17日付で、中小・零細民間企業向け融資と消費者向け融資の金利補助拡大を発表し、対象金融機関や補助上限額も拡充するとした。一方、中銀は緩和的スタンスを維持しつつも、原油高によるインフレ圧力の高まりを受けて大規模な追加緩和には慎重な姿勢を維持した。過去の大規模対策が招いた地方政府の隠れ債務問題も背景にあり、内需立て直しには長期的な取り組みが必要と見込まれる。

目次

【国務院は「消費拡大5ヵ年計画」で消費拡大を目指す方針を示す】

足元の中国経済は、供給サイドをけん引役にした拡大が続く一方、需要サイドは力強さを欠く推移をみせている。需要サイドについても、ハイテク関連を中心とする外需が堅調な動きをみせる一方、不動産不況の長期化や雇用回復の遅れが個人消費など内需の足を引っ張る展開が続く。こうしたなか、国務院は7月に同国で初めて個人消費に焦点を当てた「消費拡大の5ヵ年計画」を発表した。同計画では、2030年の小売売上高(社会消費品小売総額)の規模を2025年時点(50.1兆元)に比べて2割増の「60兆元前後」に引き上げる方針を掲げている。その実現に向けて、消費構造の高度化を図るとともに、家計所得の引き上げを目指すとした。

具体的には、サービス消費の質・国民生活の向上の推進、財消費の規模拡大・高度化の推進、新たな消費業態・ビジネスモデル・消費シーンの育成や創出、消費能力の向上、消費環境の大幅な改善、消費関連制度・メカニズムのさらなる整備を掲げた。セクターとしては、高齢者介護、育児、ヘルスケア、文化、観光、スポーツ、教育といったサービス分野の消費促進を目指すとしている。そのうえで、デジタル消費、AI(人工知能)を活用した消費、環境配慮型消費、体験型消費、インバウンド消費といった新たな消費モデルを推進する。インバウンド消費の拡大に向けては、ビザ(査証)免除対象国の拡大、欧州や米国、一帯一路参加国への直行便の増便を図るとした。

家計所得の引き上げには、雇用の拡大、賃金の引き上げ、財産所得の拡大、社会保障の充実、公共サービスの向上による家計部門の購買力向上の必要性を強調した。中国では長らく、労働分配率の低さが個人消費の足かせとなってきたものの、雇用機会の拡大や賃金の引き上げを通じてこうした課題の解決が進むことは望ましい。一方、財産所得の拡大については、資産価格の上昇に過度に依存する形となれば、過去に幾度も不動産や株式のバブルに直面したことを勘案すると、新たなバブルの発生を招くリスクには注意が必要となる。財政・金融政策についても、消費者に直接的な恩恵を与える支出、生活関連支出、消費関連インフラへの投資を重視すべきとの考えを示した。

【党中央政治局会議では、年後半の公共投資の進捗加速を表明】

さらに、中国共産党は7月末に開催した中央政治局会議において、足元の中国経済の「直面する困難と課題」を認め、景気減速を認識する姿勢を示した。そのうえで、景気減速に対応することを目的に、インフラ関連を中心とする財政支出の進捗を加速する方針を示した。なお、2026年上半期における国債発行額と歳出は当初計画を下回る水準にとどまるため、下半期には歳出拡大の余地がある。よって、2026年度予算に計上されているインフラ投資を対象とする財政支出を加速させることにより、景気下支えを図る方針が示された格好である。具体的には、2030年の完成に向けて総額26兆元を上回る投資計画が掲げられている国家プロジェクトの六張網(電力、水利、通信、コンピューティング、物流、地下配管)の「着実な推進」を表明した。

一方で、前述のように足元の中国経済は内需が力強さを欠くなか、内需拡大の重要性に対する認識が示された。内需拡大に向けて「重点層への雇用支援を強化し、柔軟な働き方や新たな雇用形態の労働者の権益を保障する」とする方向性を示した。中国ではここ数年、企業が利益を犠牲にして市場シェアを争う過当競争(内巻(ネイジュアン))が社会問題化しており、根強いディスインフレ圧力を招く一因となっている。この問題について「引き続き総合的な是正を進める」との姿勢を示した。加えて、不動産関連を中心に社会問題化している企業による代金未払い問題の解決、民間経済の発展環境の最適化といった問題にも取り組む方針を示した。しかし、一連の問題について言及するなど認識を共有する一方、具体的な方策には言及がなかった。こうした姿勢は、当局は内需拡大の必要性は認識しているものの、当局の関心が消費者向けの商品やサービスの改善など、供給サイドに引き続き重点があることを示唆している。

【政府・中銀が連名で内需喚起へ金利補助策拡大を発表も、大規模政策には距離】

こうしたなか、中国財政部は8月21日、足元の経済状況を踏まえて追加的な財政政策措置を適時実施する方針を明らかにした。方向性としては、マクロ経済政策の継続性と安定性を維持し、より長期的な視点で財源を計画・配分する方針を示した。そのうえで、低迷する内需を支えるべく、財政支出のうち家計と消費に振り分ける割合を高めつつ、状況に応じて財政・金融・産業政策の連携を強化して政策手段を一段と充実させるとした。

さらに、財政部・中銀(中国人民銀行)・国家金融監督管理委員会の連名により、17日付で内需促進を目的とする新たな財政・金融支援策を発表した。中小・零細民間企業や消費者向け融資に対する金利補助を拡大する方針を明らかにした。対象となる中小・零細民間企業向け融資については、最大2年間を対象に金利1%ポイント分を補助する。消費者向け融資については、補助の適用対象をクレジットカード、各種ローン、キャッシングの分割払いにも広げるとともに、同様に金利1%ポイントが補助対象となる。加えて、取り扱い金融機関を拡大するほか、中小・零細民間企業、消費者ともに補助の上限額を引き上げるとしている。一連の施策により、短期的に個人消費を幾分下支えすることは期待される。

一方で、中銀は今月、適度に緩和的な金融スタンスを維持し、必要に応じて実効性のある追加措置を打ち出す方針を明らかにした。しかし、イラン情勢の悪化を受けた原油をはじめとする商品市況の上昇を受けて、足元ではGDPデフレーターがプラスに転じるなど、マクロ的にはデフレ圧力が後退する兆しもみられる。こうしたなか、政策金利や預金準備率の引き下げなど追加的な金融緩和はインフレ圧力を強める可能性があり、イラン情勢の不透明さやエルニーニョ現象によるインフレ懸念も重なり、そのハードルは着実に高まっている。このため、中銀にとって大規模な金融緩和に踏み切る余地は狭まりつつあるとみられる。政府・中銀が大規模な景気刺激策に慎重な姿勢を維持する背景には、過去に実施された大規模対策の背後で、地方政府の隠れ債務をはじめとする「負の遺産」が膨張したことも影響している。低迷する内需の立て直しに向けては、引き続き長期にわたる取り組みが必要になると予想される。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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