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2022.12.22
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インドネシア中銀、5会合連続の利上げも利上げ幅は 25bp に縮小
~金融市場は法改正による不透明感を嫌気するなか、政策対応は引き続き困難な展開が続くであろう~
西濵 徹
- 要旨
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- 国際金融市場では米ドル高に一服感が出るなかで資金流出が続いた新興国に一転回帰する動きがみられる。インドネシアは伝統的に経済のファンダメンタルズの脆弱さを理由に、過去には国際金融市場の動揺に際して資金流出に見舞われてきた。なお、足下ではファンダメンタルズが改善する動きがみられるものの、ルピア相場は上値が重い展開が続いており、刑法及び中銀法の改正などが問題視されている可能性がある。中銀は8月以降断続利上げの動くとともにタカ派傾斜を強めてきたが、22日の定例会合では5会合連続の利上げを決定するも、利上げ幅を25bpに縮小させた。先行きの金融政策は物価安定を重視する一方、財政政策などは景気を重視すべく調整を図る模様だが、外貨準備高は金融市場の動揺への耐性に充分ではないなか、ルピア相場も上値が重い展開が続くなかで中銀は難しい政策対応を迫られると予想される。
このところの国際金融市場においては、米ドル高の動きに一服感が出ていることを受けて、それまで資金流出に直面してきた経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な国をはじめとする新興国を取り巻く状況は大きく変化している。インドネシアは慢性的に経常赤字と財政赤字の『双子の赤字』に加え、インフレも常態化するなど脆弱なファンダメンタルズを抱え、過去には国際金融市場が動揺する度に資金流出に見舞われてきた。さらに、コロナ禍対応を目的に同国政府、及び中銀は財政ファイナンスに動くなど財政状況は一段と悪化する事態となったものの、足下ではコロナ禍を克服するなど景気の底入れが進み歳入が想定を上回る推移をみせるなかで財政赤字幅は縮小している。また、商品市況の上振れによる交易条件の改善や輸出額の押し上げが進んだことで貿易収支は黒字基調で推移していることも追い風に、足下の経常収支は黒字となるなど対外収支も改善している。そして、年明け以降は原油や天然ガスなどエネルギー資源に加え、穀物などの国際価格の上振れを受けて食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレ圧力が強まり、インフレ率は中銀の定めるインフレ目標を上回る推移が続いているほか、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ルピア安は輸入物価を押し上げて一段のインフレ昂進を招く事態に直面してきた。足下のインフレ率は商品高の動きに一服感が出ていることを受けて頭打ちの兆しがうかがえるほか、上述のように国際金融市場における米ドル高に一服感が出ていることもルピア安圧力の後退を通じてインフレ鈍化に資することが期待される。


このように足下のインドネシア経済のファンダメンタルズは改善する動きがみられるものの、米ドル高に一服感が出ているにも拘らずルピアの対ドル相場は上値の重い推移が続いており、周辺のアジア新興国通貨は比較的強含みする動きをみせているのと対照的な状況が続いている。なお、中銀は物価、及び為替の安定を目的に8月に約4年ぶりの利上げ実施に動くとともに、先月の定例会合でも4会合連続の利上げ、且つ3会合連続の大幅利上げを決定するなどタカ派傾斜を強めてきた(注1)。一方、同国では相次いで法改正が実施されており、改正刑法では言論の自由やプライバシー、人権侵害に繋がるほか、改正中銀法では中銀の独立性に対する懸念に加え、財政ファイナンス実施のハードルが低下するなどの懸念が高まっている(注2)。一連の動きは足下のルピア相場の足かせになっているほか、主要株価指数(ジャカルタ総合指数)の上値が同様に抑えられる一因になっているとみられるなど、2024年の次期大統領選、及び総選挙に向けて民族と宗教を意識した政治の動きに足を引っ張られている。こうしたなか、中銀は22日に開催した定例会合において政策金利である7日物リバースレポ金利を5会合連続で引き上げる一方、利上げ幅を4会合ぶりに25bpに縮小させて5.50%とする決定を行い、米FRB(連邦準備制度理事会)が直近のFOMC(連邦公開市場委員会)において利上げ幅を縮小させたことに歩を併せる対応をみせている。会合後に公表した声明文では、今回の決定について引き続き「コアインフレ率を目標域に収めるべく、慎重で前倒し、且つ先手を取った前向きな対応」とした上で、「輸入インフレ回避を目的にルピア相場の安定化策も強化する」との考えを示した。その上で、世界経済について「減速が見込まれる」としつつ、国際金融市場に関連して「米FRBは来年も利上げを続けると見込まれる」との見方を示した。一方、同国経済について「堅調さが続く」として「今年の経済成長率は+4.5~5.3%の上限近傍、来年は+4.5~5.3%の中央付近となる」との見通しを示した。また、足下で改善が続く経常収支について「今年はGDP比+0.4~1.2%の黒字となり、来年も同▲0.4~+0.4%に収まる」とした上で、通貨ルピア相場について「足下ではファンダメンタルズやインフレ抑制に向けた取り組みを反映して調整圧力が後退している」として「コアインフレ率を目標域に収めるべく政策調整の強化を維持する」との考えを示した。また、政策調整に関連して「これまで示唆してきたように金融政策は安定を重視。その一方、その他の政策は景気を重視した対応になる」とした上で、特定の分野に対する貸出促進を目的に銀行に対する預金準備率に関してインセンティブを設ける方針を明らかにするなど、金融引き締めを進める一方で景気下支えにも注力する姿勢を示している。なお、米ドル高の一服による資金回帰の動きを反映して減少基調が続いた外貨準備高は11月には増加に転じているものの、IMF(国際通貨基金)が示す国際金融市場の動揺への耐性の有無を示す適正水準評価(ARA:Assessing Reserve Adequacy)に照らすと11月末時点でも「適正水準(100~150%)」をわずかに下回るなど、依然として心許ない状況は変わらない。足下のルピア相場が上値の重い展開が続いていることを勘案すれば、外貨準備高は順調に増加しているとは見通しにくく、国際金融市場の動揺への耐性は充分とは言いがたい状況にある。中国におけるコロナ規制の転換による商品高への期待など同国経済の追い風になる材料はうかがえるものの、上述の法改正の動きなど不安材料もくすぶるなかで、先行きも引き続き難しい政策対応を迫られる局面が続くことが予想される。


注1 11月17日付レポート「インドネシア中銀、4会合連続の利上げ、且つ3会合連続の大幅利上げを決定」
注2 12月13日付レポート「インドネシアで進む法改正の動きに要注意」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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