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2022.11.01
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豪準備銀、景気に対する不確実性が増すなかで小幅利上げを継続
~豪ドルの対米ドル相場は米FRBの行方次第、対照的に対日本円相場は底堅い展開が続く模様~
西濵 徹
- 要旨
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- 豪州経済を巡っては、物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせることが懸念されるものの、4-6月の景気は堅調な雇用が家計消費を押し上げ、外需拡大の動きが景気を下支えする展開が続く。しかし、足下のインフレは一段と上振れしているほか、雇用の回復ペースも頭打ちの兆候が出ているほか、利上げを受けて不動産市況も調整するなど景気への不透明要因が増している。中銀は10月の定例会合で6会合連続の利上げに動く一方で利上げ幅を縮小させるなどタカ派度合いを後退させたが、景気の不透明要因が増すなかで1日の定例会合でも追加利上げに動くも利上げ幅を2会合連続で25bpとした。先行きの政策運営について追加利上げに含みを持たせるも、慎重姿勢を強める可能性が高まっている。豪ドル相場は米FRBのタカ派後退期待を受けて底打ちしているが、先行きも対米ドルでは米FRBの政策運営に左右される展開が続くとみられるが、日本円に対しては先行きも政策の方向性の違いが下支えする展開が続くであろう。
豪州経済を巡っては、世界的な商品高に伴う生活必需品を中心とするインフレに加え、国際金融市場での米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀のタカ派傾斜による豪ドル相場の調整が輸入物価を通じて一段のインフレ昂進を招くなか、中銀(豪州準備銀行)は5月以降に連続の利上げに動いており、物価高と金利高の共存が家計消費など内需の足かせとなることが懸念される。また、中国による『ゼロ・コロナ』戦略への拘泥は中国経済のみならず、サプライチェーンの混乱を通じて世界経済の足を引っ張る懸念に加え、世界的なインフレと中銀のタカ派傾斜は欧米など主要国景気の頭打ちを招いて世界経済の減速が意識されるなど、外需を取り巻く状況に不透明感が高まっている。こうした状況ながら、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率+3.62%と3四半期連続のプラス成長で推移し、上述のように物価高と金利高の共存にも拘らず雇用改善を追い風に家計消費は堅調さを維持しているほか、資源輸出の堅調さや国境再開による外国人観光客数の底入れの動きが景気を下支えしている(注1)。ただし、その後は原油など国際商品市況の上振れに一服感が出ているにも拘らず、雇用の改善を追い風とするサービス物価の上昇などを理由に物価上昇が続いており、インフレ率は32年強ぶり、コアインフレ率も過去に遡って最も高い伸びとなるなどインフレは一段と昂進している(注2)。その一方、経済活動の正常化の動きも追い風に改善が続いた雇用環境は足下においても改善基調で推移しているものの、地域ごとに跛行色が強まっているほか、全体として改善のペースは頭打ちするなど『息切れ』を示唆する動きがみられる(注3)。さらに、同国の銀行セクターは資産の約3分の2を住宅ローンが占めるなど不動産市況の動向に左右されやすい傾向があるなか、中銀の連続の利上げ実施を受けて家計部門にとっては物価高と金利高の共存が実質購買力の重石となっている。足下ではシドニーやメルボルンといった大都市部のみならず幅広い地域で不動産価格は下落しており、10月の住宅価格は6ヶ月連続で前月比が下落している上、前年比も▲0.9%とマイナスに転じるなど調整の動きが進んでいる。このように景気の先行きに対する不透明要因が増していることを受けて、中銀は先月の定例会合において6会合連続の利上げ実施を決定するも利上げ幅を25bpに縮小させるなどタカ派度合いを後退させたが(注4)、1日の定例会合でも7会合連続の利上げ実施を決定するとともに、利上げ幅は前回会合と同じ25bpとする決定を行った。これを受けて政策金利(OCR)は2.85%と9年ぶりの高水準になるほか、為替決済残高の適用金利も2.75%となる。会合後に公表した声明文では、今回の決定について「多くの国と同様にインフレが高すぎるなかで、インフレ率を目標域に戻すべく需給バランスをより持続可能なものにするためのもの」との認識を示した。その上で、物価動向について「今後数ヶ月は一段と上振れして年後半には8%に達する」ものの、「その後は世界的な供給要因の解消や商品市況の鈍化を受けて低下する」として「メインシナリオでは来年は+4.75%前後、再来年は+3%強になる」との見通しを示した。また、景気動向は「足下では交易条件の改善が景気を押し上げている」ものの、「向こう1年は世界経済の減速、サービス支出の回復の動きの一巡、金融引き締めに伴う家計消費の下押しを受けて緩やかなものに留まる」として「メインシナリオでは今年は+3%程度、来年及び再来年は+1.5%程度の成長が続く」との見方を示した。他方、雇用環境については「需給は非常にタイトだが、余剰労働力の吸収に伴い雇用の伸びは鈍化しており、今後は成長率の鈍化に伴い失業率は上昇する」とした上で、賃金動向について「労働需給のひっ迫や物価上昇を受けて一段の上昇が見込まれる」としつつ「政策決定に際しては労働コストと価格動向の双方を注視する」との考えを示した。その上で、政策運営を巡っては「物価安定は力強い景気と持続可能な雇用環境の前提条件になる」としつつ、「物価安定と景気の安定の両立は極めて難しく不確実性だらけである」とした。また、その不確実性について「世界経済の悪化懸念と金融引き締めによる家計消費への影響」を挙げる一方で「金融政策の反映にはタイムラグがあり、金利上昇の効果は未だ住宅ローンの支払いに反映されておらず、金利高と物価高の共存が家計部門を圧迫して消費者信頼感の低下を招くとともに住宅価格も低下している」としつつ、「貯蓄率は依然コロナ禍前を上回る水準にある」との認識を示した。先行きの政策運営については「今後もさらなる利上げを期待している」と追加利上げに含みを持たせる一方、「世界経済や家計消費、賃金及び物価動向を注視しており、利上げ幅及びタイミングはデータと物価及び労働市場を巡る見通し次第」とする考えを改めて強調した。足下の豪ドル相場を巡っては、金融市場における米FRBのタカ派後退を期待した米ドル高圧力の弱まりを受けて米ドルに対して底打ちする動きがみられるものの、先行きもあくまで米FRBの政策運営に揺さぶられる展開が続くことは避けられない。他方、日本円に対しては金融政策の方向性の違いが底堅さに繋がるなか、日本銀行は先行きも金融緩和を継続する一方で豪準備銀は追加引き締めに含みを持たせるなど方向性の違いが続くと見込まれるなかで比較的堅調に推移すると予想される。



注1 9月7日付レポート「豪州、家計消費と資源輸出、外国人観光客が景気を下支えする展開」
注2 10月28日付レポート「豪州、7-9月のインフレ率は32年強ぶりの水準に加速(Asia Weekly (10/21~10/28))」
注3 10月21日付レポート「豪州の雇用環境は緩やかながら改善が続く(Asia Weekly (10/14~10/21))」
注4 10月4日付レポート「豪準備銀、6会合連続の利上げも、景気の不確実性に配慮し利上げ幅を縮小」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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