インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

習近平政権3期目の船出は景気減速のなかへ

~ゼロ・コロナ戦略に世界経済の減速懸念、中国経済のみならず世界経済にとっても厳しい環境が続く~

西濵 徹

要旨
  • 中国では今月、共産党大会と直後の1中全会を経て習近平政権は3期目入りを果たした。足下の中国経済は米中摩擦の激化に加え、当局のゼロ・コロナ戦略への拘泥が景気の足かせとなる展開が続く。7-9月の実質GDP成長率は景気の底打ちが確認されたが、月ごとの景気は再び頭打ちしている。中銀は金融緩和による景気下支えに動くも、米FRBなどのタカ派傾斜を受けて人民元安が進むなど、商品高によるインフレに直面するなかで難しい対応が続く。経済政策の行方も見通せないなど中国経済の不透明感は高まっている。
  • ゼロ・コロナ戦略は企業マインドの重石となるなか、10月の製造業PMIは49.2と2ヶ月ぶりに好不況の分かれ目となる水準を下回った。足下で減産の動きが強まっている上、国内外で受注も弱含むなど先行きの見通しも立ちにくい。非製造業PMIも10月は48.7と5ヶ月ぶりに50を下回り、公共投資の進捗が建設業を下支えするも、ゼロ・コロナ戦略による行動制限はサービス業のマインドを一段と悪化させている。製造業・非製造業ともに雇用調整圧力が強まるなど、生活必需品を中心とするインフレが続くなかで家計消費は弱含むことが懸念される。サプライチェーンの混乱の動きは国内外の景気の足を引っ張る可能性も高まっている。
  • 中国国内の感染動向は世界的にも極めて低いが、地方部の医療インフラの脆弱さに加え、過去の成功体験も影響して戦略変更の見通しは立たない。習近平政権3期目の船出はゼロ・コロナ戦略に加え、世界経済の不透明感もあり、先行きも見通しが立ちにくい状況にある。中国経済のみならず、世界経済全体にとっても厳しい状況に陥る可能性に注意する必要性は高まっていると判断出来る。

中国では今月、5年に一度となる共産党大会(中国共産党第20回全国代表大会)及びその直後の1中全会(中国共産党第20期中央委員会第1回全体会議)を経て習近平政権は異例の3期目入りを果たした(注1)。ここ数年の中国経済を巡っては、米中摩擦の激化を受けて世界経済との連動性が希薄化する動きが広がりをみせているほか、足下では中国当局による『ゼロ・コロナ』戦略への拘泥を受けた幅広い経済活動の制限も重なり、景気に下押し圧力が掛かりやすい展開が続いている。中国当局のゼロ・コロナ戦略への拘泥はサプライチェーンの混乱により世界経済にも様々な経路を通じて悪影響を与えている上、ウクライナ情勢の悪化による幅広い商品高を受けた世界的なインフレも世界経済の足かせとなるなか、翻って中国経済の重石となることが懸念される。なお、今年7-9月の実質GDP成長率は前年同期比+3.9%と前期(同+0.4%)から加速しており、前期比年率ベースでも+16.5%と前期(同▲10.4%)から2四半期ぶりのプラスに転じたと試算されるなど、上海市でのロックダウン(都市封鎖)の解除による経済活動の再開の動きを反映しているとみられる。しかし、企業マインドの動きをみるとロックダウンが解除された直後の7月をピークに頭打ちしている上、9月単月の経済指標はインフラなど公共投資の進捗が景気を下支えする一方、当局のゼロ・コロナ戦略への拘泥が雇用回復の足かせとなる上、世界的な商品高によるインフレも重なり家計消費は弱含むなど対照的な動きが確認出来る。また、足下では食料品やエネルギーなど生活必需品を中心にインフレが進む一方、家計消費の弱さを反映してコアインフレ率は低調な推移が続くなど対照的な動きをみせている(注2)。こうしたことから、中銀(中国人民銀行)は昨年12月に政策金利(LPR)を引き下げるとともに、年明け以降も1月、5月、8月と段階的にLPRを追加で引き下げるなど、金融緩和による景気下支えに動いている。国際金融市場においては米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀によるタカ派傾斜を反映して新興国で資金流出の動きが加速しており、資金流出による通貨安は輸入物価を通じたインフレ昂進を招くことが懸念されるなかでアジア新興国でも景気動向に関係なく金融引き締めを迫られる動きがみられる。ただし、IMF(国際通貨基金)の高官は「アジアの大半の国は米FRBの利上げに伴う通貨安や商品高を受けて金融引き締めが必要」との認識を示す一方、「中国と日本は例外であり、景気回復の勢いは弱い上に需給の緩みも依然大きく、他の国々と比べて物価は急上昇していない」との見方を示すなど、足下における金融緩和の動きを是認している。とはいえ、中国においても金融政策の方向性の違いを理由とする資金流出が人民元安を招く一因となるなか、国有銀行がオンショア及びオフショアの両市場においてドル売り介入を行うなどの動きがみられるものの、米ドル高が意識されやすいなかで方向感を大きく変える状況は見込みにくい。中国経済の足を引っ張る要因となっているゼロ・コロナ戦略についても、党大会を通じてその貫徹が改めて強調されたほか(注3)、政権3期目の指導部人事は習氏の『子飼い』だらけで習氏の意向のみが政権運営に反映されることが予想されるなかでは、経済政策が政権運営の中軸となるかは見通しが立たない状況にある(注4)。

図表1
図表1

事実、党大会の開催を前にゼロ・コロナ戦略の貫徹が改めて強調されるとともに、幅広く行動制限が課される展開が続いたことも重なり、31日に国家統計局が発表した10月の製造業PMI(購買担当者景況感)は49.2と前月(50.1)から▲0.9pt低下して2ヶ月ぶりに好不況の分かれ目となる水準を下回るなど、再び景気減速が意識される状況に直面している。足下の生産動向を示す「生産(49.6)」は前月比▲0.9pt低下して2ヶ月ぶりに50を下回るなど減産の動きが強まっている上、先行きの生産に影響を与える「新規受注(48.1)」も同▲1.7pt低下する一方で「輸出向け新規受注(47.6)」は同+0.6pt上昇するも、ともに50を下回る推移が続くなど国内外双方で受注動向が弱含んでいる。なお、減産の動きが広がっているにも拘らず「完成品在庫(48.0)」は前月比+0.7pt上昇するなど、依然として在庫自体は低水準で推移するも在庫が積み上がる動きが確認されるなど、国内外の需要が急速に弱含んでいる様子がうかがえる。一方、商品市況の高止まりの動きを反映して「購買価格(53.3)」は前月比+2.0pt上昇している一方、国内外での需要の弱さを反映して「出荷価格(48.7)」は同+1.6pt上昇するも50を大きく下回る水準で推移しており、価格転嫁が難しい様子もうかがえるなど企業業績の圧迫要因となることが懸念される。そして、減産の動きが強まっていることを反映して「雇用(48.3)」も前月比▲0.7pt低下するなど雇用調整の動きが一段と強まる動きもみられるなど、生活必需品を中心とするインフレが続くなかで雇用の回復が遅れることは、家計消費など内需の足かせとなることは避けられないとみられる。

図表2
図表2

他方、製造業と比較して堅調な推移が続いてきた非製造業PMIも9月は48.7と前月(50.6)から▲0.9pt低下しており、5ヶ月ぶりに50を下回る水準となるなど幅広く景気減速が意識される状況に直面している。業種別では「建設業(58.2)」は前月比▲2.0pt低下するも引き続き50を大きく上回る水準を維持しており、インフラ関連など公共投資の進捗の動きがマインドを下支えする展開が続く一方、「サービス業(47.0)」は同▲1.9pt大幅に低下して6ヶ月ぶりの低水準となるなど大きく下振れしており、当局によるゼロ・コロナ戦略による行動制限がマインドの足かせとなっている。サービス業のなかでは、行動制限の影響を受けにくい通信関連や金融サービス関連などは堅調な動きが続いているほか、来月に迫る「双十一(11月11日:独身の日)」に実施される大手EC(電子商取引)サイトでのセールを前にしたプロモーション拡大の動きを反映して郵便関連やインターネットソフト関連、ITサービス関連は好調な推移をみせている。一方、行動制限の影響を受ける形で小売関連や陸運・空運関連、観光関連、外食関連、ビジネスサービス関連など対面型サービスで幅広くマインドが大きく悪化している。足下の経済活動が下振れしていることに加え、先行きの経済活動に影響する「新規受注(42.8)」は前月比▲0.3pt、「輸出向け新規受注(45.0)」も同▲1.0ptとともに低下するとともに50を大きく下回るなど、製造業と同様に国内外双方で需要動向が悪化している様子がうかがえる。さらに、商品高によるインフレを反映して「投入価格(51.0)」は前月比+1.0pt上昇しているものの、国内外での需要低迷を受けて「出荷価格(48.1)」は同▲0.1pt低下するなど価格転嫁が難しい状況もうかがえるなどサービス業においても業績圧迫の動きが強まっている。また、業績悪化懸念の高まりを反映して「雇用(46.1)」も前月比▲0.5pt低下するなど調整圧力が強まっており、製造業のみならずサービス業においても雇用環境が悪化していることは、家計消費の回復が一段と遅れる可能性を示唆している。そして、ゼロ・コロナ戦略によるサービス業のマインド悪化の動きは輸送関連などサプライチェーンの混乱を招いており、製造業、非製造業ともにサプライヤー納期を巡る数値が低下していることに現れている。

図表3
図表3

なお、中国国内における新型コロナウイルスの新規陽性者数は世界的にみれば低水準で推移している上、人口対比でみれば極めて低いと捉えることが出来る。こうした状況にも拘らず、当局は地方部などにおける医療インフラの脆弱さなどに加え、一昨年来のゼロ・コロナ戦略が当初において大きな成果を上げたことも重なり戦略転換には後ろ向きの姿勢をみせており、党大会においても戦略の貫徹が改めて強調されたことを勘案すれば早々に変更される可能性は皆無と捉えられる。また、足下では冬場にかけての感染再拡大を警戒して行動制限が再び強化される動きが広がりをみせており、一部の地域では再びロックダウンが実施されるなどの動きもみられる。よって、習政権3期目は船出を迎えたものの景気減速に突入することは避けられないほか、先行きもゼロ・コロナ戦略の継続によって景気に足かせが嵌められた状況が続くとともに、世界経済を巡る不透明感の高まりも景気の重石となることが予想されるなど中国経済のみならず、世界経済に全体とっても厳しい展開となるとみられる。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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