インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

習近平政権3期目、中国経済はどこへ行く

~政策の失敗が経済の足を引っ張るなか、均一化された指導部による「集団思考」にも要注意~

西濵 徹

要旨
  • 中国では共産党大会とその直後に開催された1中全会を経て習近平指導部は3期目入りを果たした。中国経済はここ数年の米中摩擦に加え、当局の「ゼロ・コロナ」戦略への拘泥が景気の足かせとなる展開が続く。7-9月の景気は上海でのロックダウン解除で底打ちが確認されたが、足下では再び頭打ち感が強まり、不動産市況の低迷も重石となる状況が続く。今後もゼロ・コロナ戦略が続くと見込まれるなか、今年の経済成長率は+3.2%と目標を大きく下回り、来年も世界経済の減速も重石となる形で+4.1%程度に留まると予想する。
  • これまでの習政権の経済政策は劉鶴氏を中心に改革派官僚が担ってきたが、党大会を経て改革派官僚がすべて退くほか、党指導部から共青団出身者も放逐されており、習氏の「子飼い」のみが残る結果となった。ただし、政策手腕の面で未知数な面々が経済政策を担う可能性が高く、課題山積のなかで如何なる政策運営がなされるか不透明である。足下の中国経済は政策の失敗が足かせとなるなか、米中摩擦の激化などによる世界経済の分断が進むなか、均一化された指導部の下で「集団思考」に陥るリスクにも要注意と言える。

中国では、今月16日から22日までの期間で開催された共産党大会(中国共産党第20回全国代表大会)と直後に開催された1中全会(中国共産党第20期中央委員会第1回全体会議)を経て、習近平政権は異例の3期目入りを果たした(注1)。ここ数年の中国経済を巡っては、米中摩擦の激化の動きを反映して世界経済との連動性が希薄化する動きが広がり、足下では当局の『ゼロ・コロナ』戦略への拘泥を受ける形で幅広く経済活動が制限されるなど下押し圧力が掛かる展開が続いている。さらに、中国当局によるゼロ・コロナ戦略への拘泥はサプライチェーンの混乱を通じて世界経済にも様々な形で悪影響を与えており、ウクライナ情勢の悪化を受けた商品高による世界的なインフレが世界経済の足かせとなるなか、そうした動きが翻って中国経済の重石となる懸念もくすぶる。こうしたなか、直近7-9月の実質GDP成長率は前年同期比+3.9%と前期(同+0.4%)から加速し、前期比年率ベースの成長率も+16.5%と前期(同▲10.4%)から2四半期ぶりのプラス成長に転じたと試算されるなど、上海市などでのロックダウン(都市封鎖)解除を受けた経済活動再開の動きなどを反映している。しかし、9月単月の経済指標の動きをみるとインフラなど公共投資の進捗が景気を下支えしている一方、当局によるゼロ・コロナ戦略への拘泥が雇用回復の足かせとなっている上、世界的な商品高を受けた生活必需品を中心とするインフレも重なり家計消費は弱含む動きが続いている。事実、こうした動きを反映して足下の企業マインドは製造業、サービス業ともに好不況の分かれ目となる水準を下回るなど景気に急ブレーキが掛かる様相をみせている。さらに、世界的な商品高による生活必需品を中心とするインフレ昂進の動きがみられる一方、コアインフレ率は伸びが鈍化するなど家計消費の弱さを示唆する動きもみられる(注2)。また、不動産需要の低迷を反映して不動産価格に下押し圧力が掛かる動きも続いており、家計部門にとっては逆資産効果を通じた消費の足かせとなるほか、担保価値の低下は銀行セクターの貸出態度に影響を与えるとともに、不動産セクターを巡る資金繰り懸念が再燃する可能性も高まる。このように景気の不透明感が高まる背景には当局によるゼロ・コロナ戦略への拘泥が影響しているものの、党大会において習氏はゼロ・コロナ戦略の『貫徹』を改めて強調する姿勢をみせており(注3)、戦略転換が図られる可能性は極めて低いと判断出来る。党・政府は今春の全人代において今年の経済成長率目標を5.5%前後としたものの、9月までの時点で+3.0%となっているほか、足下の景気は再び下振れが意識される状況にあることを勘案すれば、今年通年の経済成長率は+3.2%と目標を大きく下回ると予想される。また、来年も当局によるゼロ・コロナ戦略への拘泥や世界経済の減速懸念が足かせとなる形で+4.1%程度に留まる可能性が高いと見込まれる。

図表1
図表1

図表2
図表2

これまでの習近平政権の経済政策を巡っては、党内において財政及び金融面でマクロ経済政策の取りまとめを行う党中央財経領導小組主任、さらに2018年からは国務院副総理として経済政策を担うとともに、対米協議の窓口として米中摩擦の最前線で対応を担った劉鶴氏(70歳)が今回の党大会で党中央政治局員を外れるなど、政権3期目においては政策運営から離れることとなった。さらに、劉鶴氏の下でマクロ経済政策の取りまとめを二人三脚で担ったいわゆる『改革派官僚』として知られるとともに、中国人民銀行行長(総裁)を務める易鋼氏(64歳)も中央委員や中央委員候補から外れており、金融行政を離れることは必至とみられる。また、易氏同様に改革派官僚として知られ、中国人民銀行の党委書記及び副行長のほか、金融セクターの管理監督機関である中国銀行保険監督管理委員会の主席を務める郭樹清氏(66歳)もともに中央委員や中央委員候補名簿から外れるなど、いずれも金融行政を離れるとみられる。共産党人事を巡っては長年『七上八下(67歳以下は留任、68歳以上は退任)』とする慣例が採られてきたなか、劉鶴氏の退任はある意味で規定路線であったとみられる。一方、閣僚級人事を巡っては65歳が定年とされるなかで両氏はともに近付いていたことから、劉氏に近い易氏及び郭氏を政権中枢から外すことにより習氏の意向をより政策運営に反映させる傾向が強まると予想される。また、党大会では共青団(中国共産主義青年団)出身者である国務院総理の李克強氏(67歳)や人民政治協商会議主席の汪洋氏(67歳)が最高指導部から外れたほか、国務院副総理の胡春華氏(59歳)も中央政治局員を外されるなど、習氏の意に沿わない人材は政権3期目からすべて放逐された格好であり、来春の全人代を経て政府ポストも追われることは避けられないとみられる。代わりに李氏の後任総理には新指導部で序列2位となった李強氏(63歳)が就く見通しだが、上海市党委書記としてロックダウン実施を巡って政策運営に疑問符が付いたほか、筆頭副総理への就任が見込まれる序列6位の丁薛祥氏(60歳)は経済政策を担った経験がないなど、如何なる経済政策が採られるかは未知数である。また、劉氏の後任副総理には中央政治局員入りした国家発展改革委員会主任の何立峰氏(67歳)が就くとみられるが、習氏が主導する一帯一路の立案を担う一方、地方行政の担当した際には度々問題が発生するなど実務能力に疑問符が呈されることが少なくない。易氏の後任の中国人民銀行行長には、党大会において中央委員に選出された同行元副行長で北京市党委副書記の殷勇氏(53歳)が就くとの見方が出ており、殷氏は習氏の浙江省党委書記時代の部下だったという繋がりが影響しているとみられる。このように政権3期目の経済政策を担う面々はすべて習氏の『子飼い』のみとなる公算が強まっている上、習氏の意向を汲みながら政策運営を行う可能性が高まっている。上述のように足下の中国経済は『政策の失敗』が相次ぐ形で頭打ちの様相を強めているが、政権内に習氏を諫める人材が皆無となることで政策運営のかじ取りは習氏の思う通りの方向に進む可能性も高い。ただし、そうした経済合理性以上に政治思想が優先される政策運営は人口減少局面入りが間近に迫るなど潜在成長率の低下が避けられないなかで、経済成長そのものの妨げとなることも懸念される。米中摩擦のさらなる激化など世界経済の分断が意識される動きが強まるなか、中国の政策運営が均一化された指導部の下で『集団思考』に陥ることも考えられよう。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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