インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

パキスタン、経済も不安定ななかで政情の不安定化も不可避

~経済の先行きも見通せないなか、政情不安も重なるなど極めて厳しい状況が続く可能性は高まる~

西濵 徹

要旨
  • パキスタンでは今年4月にカーン前政権が崩壊し、その後にシャリフ政権が誕生した。ただし、カーン首相の失職を受けて同氏に近い多数の議員が辞職し、議会下院は4割近くが空席という異常状態にある。カーン氏は早期の議会解散と総選挙の実施を求めてデモを展開してきた。こうしたなか、警察当局はカーン氏が今月20日に開催したデモを巡って反テロ法違反の容疑で起訴した。逮捕に際してカーン氏の支持者が自宅周辺に大挙するなど混乱が広がった。カーン氏は3日間保釈されたが、今後も混乱が広がる可能性は高い。政府は今後もカーン氏への圧力を強めると見込まれ、政情の不安定が長引く可能性に注意が必要と考えられる。

パキスタンにおいては今年4月、国民議会(下院)でカーン前政権に対する内閣不信任案が可決されてカーン前首相は即日失職したほか、その後に実施された首相選出選挙を経てシャバズ・シャリフ首相が就任して同政権が発足した(注1)。ただし、この結果を受けてカーン前首相に近い多数の議員が一斉に辞職したため、その後の議会下院においては4割弱もの議席が空白となる異常状態となるなか、カーン氏は早期の議会解散と総選挙の実施を訴えるデモを展開した。なお、当初は2ヶ月以内に空白の議席を巡る補欠選挙が実施される予定であったものの、シャリフ政権は非常事態を理由に補欠選挙を事実上先延ばししており、カーン氏は反政府デモを活発化させるなど政治的に不安定な状況が続いている。他方、シャリフ政権は外貨不足をきっかけに危機的状況に陥る懸念が高まっている同国経済の立て直しを図るべく、IMF(国際通貨基金)からの支援受け入れ再開に向けて燃料補助金の廃止を決定するなどの動きを進めている。結果、先月13日にはIMFが実務者レベルで同国に対する追加支援の供与の実施で合意した旨が公表されるなど、事態打開に向けた道筋が立ちつつある兆候も出ている。ただし、ウクライナ情勢の悪化を受けた幅広い商品市況の上振れに加え、国際金融市場における通貨ルピー安の進展による輸入物価を通じたインフレ昂進の動きも重なり、7月のインフレ率は前年同月比+24.9%と一段と加速している上、コアインフレ率も同+12.0%とともに中銀の定めるインフレ目標(9%)を上回る推移が続くなど、国民生活は厳しい状況に直面している。中銀は物価及び通貨の安定を目的に4月(250bp)、5月(150bp)、7月(125bp)と立て続けに大幅な利上げに動いているものの、米FRB(連邦準備制度理事会)のタカ派傾斜を理由に国際金融市場において米ドル高圧力が強まる動きがみられるなかで見通しが立ちにくい状況にある。また、6月末時点における外貨準備高は77.63億ドルと前月末(69.26億ドル)からわずかに上昇しているものの、依然として月平均輸入額の1.2ヶ月分と外貨が極めて少ないなど危機的状況が意識されやすい状況は変わっていない(注2)。こうしたなか、断続的に反政府デモを展開したカーン前首相は今月20日にイスラマバードで開催した支援者集会において、自らが率いる野党PTI(パキスタン正義運動)の幹部が拘束された際に当局から拷問を受けたと述べるとともに、捜査に関わった警察幹部や拘束を許可した判事を名指しで批判した。この行為に対して、警察当局はカーン氏に対して警察幹部と判事を脅迫して職務を妨害したことを理由に反テロ法違反の容疑で起訴、逮捕する事態に発展したほか、これを受けて22日にカーン氏の支持者は同氏の自宅前に集結して逮捕を阻止すべく抗議運動を展開するなど混乱が広がった。その後、イスラマバードの裁判所はカーン氏の身柄を25日まで保全することを認める決定を行うなど3日間の保釈が認められ、カーン氏の支持者はいったん解散しているものの、今後も混乱が続く可能性は極めて高い。他方、今月初めに選挙管理委員会はカーン氏が米国、英国、豪州、UAE(アラブ首長国連邦)などに拠点がある外国企業から違法に献金を受領していたとして、これらの資金の差し押さえを勧告する告発を行い、PTIはこれに反論するとともに裁判を行う方針を示している。ただし、警察当局による一連の捜査、起訴は次期総選挙に向けてカーン氏の逮捕、議員資格のはく奪を狙ったものとの見方もあるなか、今後も様々な形でカーン氏への圧力を強めることが予想される。今月に入って以降の通貨ルピー相場は調整局面が一服する動きがみられたものの、政情の不安定化が避けられないなかで再び調整圧力が強まる可能性にも要注意と言える。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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