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ドラギ首相辞任、秋に総選挙へ

~スーパーマリオでも救えなかったイタリアの政治危機~

田中 理

要旨
  • 先週の五つ星運動に加えて、同盟とフォルツァ・イタリアも20日の信任投票に参加せず、挙国一致政権は事実上崩壊。ドラギ首相は近く辞任する意向とみられる。議会の解散権を持つマッタッレラ大統領は、過去の首相退陣時や政権崩壊時には、前倒し・総選挙を回避してきた。今回は議会の過半数の支持を得られる政権発足が難しく、秋に総選挙が行われる可能性が高い。その場合、右派ポピュリストが率いる連立政権の誕生が濃厚で、構造改革の停滞やEUとの関係悪化が不安視される。ECBが21日にも発表予定の新たな市場分断化策は、改革履行を条件に国債を購入する仕組みが考えられる。ポピュリスト政権の誕生で市場分断化策の有効性が疑問視され、イタリアの国債利回りに再び上昇圧力が高まる恐れがある。

イタリアの挙国一致政権を率いるドラギ首相は20日、上院(定数321)で改めて内閣信任投票に臨み、賛成95・反対38で信任されたが、先週の信任投票を棄権した五つ星運動(左派ポピュリスト)に加えて、政権を支える同盟(右派ポピュリスト)とフォルツァ・イタリア(中道右派)の右派2党が投票に参加しなかった。ドラギ首相は投票に先駆けて議会で演説し、政権を支える主要政党が昨年2月の政権発足時の政府方針を支持し続けた場合に限り、首相にとどまる方針を示唆していた。同盟とフォルツァ・イタリアは総選挙を前倒しすることを視野に、ドラギ首相が受け入れないことを承知のうえで、五つ星運動抜きでの新たな政権発足を求めていた。ドラギ首相は21日の下院での信任投票の結果を待ったうえで、マッタレッラ大統領に改めて辞意を表明するとみられる。辞任の意向をいったんは拒否した大統領も、ドラギ首相が議会の過半数の支持を得られなくなった以上、辞任を受け入れざるを得ない。イタリアの政治危機を救ったドラギ首相は1年半足らずで退陣する。

議会の解散権を持つマッタレッラ大統領は、過去の政権崩壊時や首相辞任時には、連立組み換えや挙国一致政権の発足により、前倒しの総選挙を回避してきた。だが、ドラギ政権を支えてきた主要政党間に亀裂が入るなか、首相が交代しても上下両院で過半数の支持を得られる政権を発足することは難しい。イタリアの憲法規定では、議会の解散から70日以内に総選挙を行う必要がある。来年春の議会任期満了を待たずに、9~10月に総選挙が行われる可能性が高い。イタリアで年後半に総選挙が行われるのは、第二次世界大戦後で初となる。

最新の世論調査では、主要政党でドラギ政権に参加しなかったイタリアの同胞(右派ポピュリスト)が20%台前半でリードし、これを今回の信任投票でも政権を支持した民主党(中道左派)が僅差で追っている。イタリアの同胞が単独で政権を発足することは難しいが、同盟とフォルツァ・イタリアと右派の統一会派を結成すれば、議会の過半数確保が視野に入る(図表1)。右派3党の支持率の合計は50%に届かないが、投票態度を決めていない調査対象者や議席獲得に至らない小政党もいることから、選挙後の議席数では過半数に届く可能性が高い。対する左派は、今回の政権崩壊の引き金を引いた五つ星運動とドラギ政権を支え続けた民主党の間の亀裂が広がり、統一会派の結成が難しい。選挙後はEUに懐疑的な右派ポピュリストが率いる連立政権が誕生する可能性が高い。選挙後の次期首相の最有力候補と目されるのは、かつてベルルスコーニ政権でイタリア史上最年少の閣僚(青年相)に就いた経験を持つメローニ氏。同氏が率いるイタリアの同胞は、第二次世界大戦時のファシスト指導者ムッソリーニの側近や支持者が結成したイタリア社会運動の流れを汲む。2018年の前回総選挙では僅か4.4%の得票率にとどまったが、ドラギ政権支持に回った同盟の支持層を奪う形で党勢を拡大し、最近では同盟を上回る支持を獲得している。

(図表1)イタリア議会選挙の世論調査(会派別の合計)
(図表1)イタリア議会選挙の世論調査(会派別の合計)

ドラギ首相の下で束の間の政治安定を謳歌してきたイタリアだが、ポピュリスト政権の誕生で改革後退やEUとの関係悪化が懸念される。ドラギ政権発足後のイタリアは、復興基金の稼働に必要な復興計画をまとめ、コロナ禍克服やロシアへのガス依存解消に取り組み、ドイツやフランスとともにEUの中心国としての存在感を高めていた。ECBによる利上げ開始が近づくなか、先月には一時イタリアの10年物国債利回りが4%を突破し、ドイツ国債との利回りスプレッドも危険水域とされる250bpに接近した(図表2)。ECBが緊急理事会を開催し、市場分断化を抑制する方針を打ち出したことで、落ち着きを取り戻しているが、政治リスクの再燃で再び金利に上昇圧力が及び始めている。21日の理事会で発表が予定される新たな市場分断化への対応策は、改革履行などのコンディショナリティ達成を条件に、ECBが国債を購入する仕組みが考えられる。ポピュリスト政権誕生で改革履行が危ぶまれれば、市場分断化策の有効性が疑問視される恐れがある。

(図表2)イタリアの10年物国債利回りと対独スプレッド
(図表2)イタリアの10年物国債利回りと対独スプレッド

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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