- 要旨
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4月の日銀会合では、発表文の中に、毎営業日、連続指値オペを実施すると書き込まれていたので、ドル円レートは20年ぶりの1ドル130円台の円安になった。日銀は円安が進むことにかなり前向きである。また、展望レポートでは、2022年度のコアCPIが前年比1.9%(中央値)となり、月次で2.0%超えになる可能性を示唆している。
指値の運用の明確化
4月28日の日銀決定会合では、政策変更自体はなかったが、公表文の中に「連続指値オペの運用の明確化」が書き込まれた。これを受けて、ドル円レートは1ドル130円を超えて円安が20年ぶりの水準に動いた。
政府は、4月26日に物価対策を発表したばかりであった。物価上昇に政府が慎重な姿勢を見せているのであれば、日銀もそれに呼応して、指値オペを手控えるのではないかという事前観測もあった。それが、結果は全くの反対であった。日銀は、政府に対してボールを投げ返した格好だ。
発表文では、「10年物国債金利について0.25%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する」と記述されている。「毎営業日」とまで言い切るのは、かなり強い緩和姿勢のアピールだ。総裁会見では、市場の一部では、指値オペがある場合と、指値オペがない場合で何か政策スタンスに差があると誤解されるといけないので、「応札が見込まれない場合を除き、指値オペを実施する」というルールにすると答えている。「これでは無制限介入ではないか?」と思う人もきっと多いと思う。
わかったことは、日銀が円安進行にかなり前向きだということだ。日銀は為替レートそのものをコントロールしている訳ではないとしても、指値オペで長期金利を0.25%に固定すれば、日米長期金利差が拡大することで円安になるのはわかり切っているはずだ。円安進行は、輸入物価上昇を後押ししているとしか見えない。
そうした政府と日銀の違いが明確なことが急速にに円安が進む背景になっている。これは、日銀が「過度に急速な円安は望ましくない」と並行して説明しても、否応なく円安予想を高めるものだろう。
展望レポートでは2022年度1.9%の物価上昇
4月の決定会合では、例年、経済・物価見通しが発表される。4月の物価上昇率が、コア指数でも前年比2.0%に到達しそうなので、今回の展望レポートは特に注目されていた。
2021年度は、コアCPIが前年比0.1%、2022年度は同1.9%、2023年度は同1.1%、2024年度は同1.1%となっている。この1.9%は少し驚きである。年度平均1.9%だから、2022年4月~2023年3月までの月次のコアCPIは、数か月間は2.0%を超えることも見越しているのだろう。
日銀は、月次での前年比2.0%超えが緩和の出口であると思われないように、発表文では消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー、コアコアCPI)の前年比も併記している。2021年度前年比▲0.8%、2022年度同0.9%、2023年度同1.2%、2024年度同1.5%である。この数字からは、2022年度前年比1.9%の物価上昇がエネルギー要因で+1.0%ポイント嵩上げされていることが明らかである。つまり、原油高騰が一服すれば、コアCPIがすぐに前年比2.0%未満に鈍化すると日銀が考えていることが示されている。
黒田総裁は、足元の物価上昇が一時的と言っているし、日銀はオーバーシュート・コミットメントを約束している。だから、一時的な物価上昇を持続的な物価上昇圧力に変えるために、円安は必要悪だと考えているのだろう。
日銀は「天の邪鬼」
筆者は、長く物価は2%の上昇率に達しないと考えていた。しかし、昔から日銀は物価は2%になると、孤高に主張してきた。最近は、物価2%に達しそうなので、見通しの外れた筆者たちは、日銀の言うとおりだったと日銀を再評価している。
ところが、日銀は物価2%が近づくと、今度は「2%の物価上昇は一時的だ」と火消しに回る。てっきり、日銀は2%の達成を喜んで、今からはインフレ時代になると前向きな展望を述べるのかと思っていたならば、正反対に物価を慎重にみている。天の邪鬼としか言いようがない。
常々、日銀はインフレ予想を上向かせることを期待してきた。それなのに、物価が上昇してくると、今度は物価上昇は一時的だと強調する。この点は、理解できない。本当のミッションは、デフレ予想の払拭ではなく、単に長期金利が上昇してほしくないから、継続的なインフレではないと言っているのかと思ってしまう。
黒田総裁は、自分の任期があと1年を切っている。残された短い任期中に「安定的に物価上昇率2%」を達成するために必要なアナウンスメントは何なのかを熟考してほしい。
熊野 英生
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- 熊野 英生
くまの ひでお
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経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計
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