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2022.04.15
アジア経済
新型コロナ(経済)
シンガポール経済
シンガポール、「ポスト・リー」はウォン財務相に決定
~経済政策は「ポスト・コロナ」を模索するなか、政治面でも「ポスト・リー」に向けた動きが前進~
西濵 徹
- 要旨
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- シンガポールでは今年2月、70歳までの政界引退を明言してきたリー首相が満70歳を迎えた。一昨年来のコロナ禍で経済が打撃を受けるなか、総選挙での与党の退潮を受けてポスト・リーの筆頭格であったヘン副首相が離脱を表明し、政権禅譲の動きは一旦ふりだしに戻った。ただし、その後は第4世代に対する聞き取りなどを経てウォン財務相が圧倒的な支持を集めた模様であり、リー首相は14日にウォン氏を次期指導者に選任した旨を公表した。今後は内閣改造を経てウォン氏を副首相に引き上げるとともに、2025年までに実施される次期総選挙を経て政権禅譲が行われる。足下の同国は経済政策面で「ポスト・コロナ」を見据えて金融・財政両面で引き締めシフトが進んでいるが、政治面でも「ポスト・リー」に向けた動きが進むであろう。
シンガポールでは、2004年に首相に就任したリー・シェンロン氏が今年2月に満70歳を迎えた。リー氏は予ねてより首相職について「70歳までに退任する」と公言するなど、ここ数年は禅譲に向けた取り組みを進めてきた。しかし、一昨年来のコロナ禍に際して同国経済は大幅に疲弊したほか、世界的にみてワクチン接種が進むなど『優等生』と称されたにも拘らず、度々感染拡大に見舞われるなど政府は難しい対応を余儀なくされた。そして、コロナ禍の最中である一昨年7月に実施された総選挙(国会議員選挙)においては、1965年の同国独立以来一貫して政権与党の座にある人民行動党(PAP)の得票率は過去3番目に低い水準に留まるなど苦戦を強いられた。改選後のPAPの議席数は83議席と改選前(83議席)と同じであるものの、当該選挙においては選挙区選出議員数が4議席増えたことを勘案すれば、PAPの退潮は間違いなく進んでいると捉えられる。こうした背景には、国民の間でPAPの特徴とされる権威主義的且つエリート主義的な色合いへの反発が広がるとともに、コロナ禍対応への失望が高まったことも影響したとされる。こうしたことから、昨年4月にはリー氏の後継者と目されたヘン・スイキャット副首相が兼務していた財務相を退任するとともに、自身の『高齢』を理由に次期首相候補の座を降りることを明らかにするなど、『ポスト・リー』を巡る取り組みはふりだしに戻った(注1)。その後も同国においては新型コロナウイルスの感染拡大の動きが広がったほか、その度に行動制限を余儀なくされるとともに、年明け以降は感染力の強いオミクロン株の流入を受けて感染拡大ペースは過去の波を大きく上回るなど難しい対応が続き、上述のように今年2月にはリー首相が政界引退を公言してきた満70歳を迎えた(注2)。なお、足下の新規陽性者数は依然高水準で推移しているものの、直近のピークの5分の1程度に低下するなど頭打ちが進んでおり、政府も『ウィズ・コロナ』戦略による経済活動の正常化を進めるなど、経済を取り巻く状況は最悪期を過ぎつつある。こうしたなか、リー首相は14日に声明を発表し、『第4世代』の閣僚の協議を経てローレンス・ウォン財務相を次期指導者に選任した旨を明らかにした。ウォン氏は貿易産業省の官僚出身で、リー首相の首席秘書官を務めた後の2011年に政界に転身し、文化・社会・青年相、国家開発相、教育相を務めた後、ヘン氏が上述のように財務相を退任するなど次期指導者レースから降りることを表明した後に後任の財務相に選出されたことでポスト・リーの一角として一気に名が挙がった。こうしたなか、次期指導者の選出に当たってはPAP内の政治家からの聞き取りなどが行われ、同世代の政治家の間でウォン氏に対する支持が圧倒的に高かったとされ、ウォン氏が財務相に加えて新型コロナウイルス対策チームの共同議長を担っており、そうした実績も後押ししたとみられる。リー氏はこの決定について、自身のSNSに「政治的リーダーシップの継続性及び安定性という統治システムの特徴が確保される」と書き込むとともに、ウォン氏も自身のSNSに「職責を果たすために全力を尽くす」とした上で「第4世代の仲間とともに国民のために奉仕し、信頼と支持を得られるよう努力する」と書き込むなど、チームによる統治を目指す考えを示した。今後は内閣改造を行うとともに、ウォン氏を副首相に引き上げるほか、2025年までに実施される次期総選挙を経て首相職を禅譲するとみられる一方、リー氏は首相交代の時期については明言していない。足下のシンガポールを巡っては、上述のようにコロナ禍を巡る状況は一巡しつつある一方、国際商品市況の上振れを理由にインフレが顕在化しており、国際金融市場を取り巻く環境の変化も追い風に金融政策は引き締めを余儀なくされるなか、財政政策面でもポスト・コロナを見据えた引き締め姿勢へのシフトを模索する動きがみられる(注3)。今後は経済政策面でポスト・コロナを見据えた動きに歩を併せる形で、政治面でもいよいよポスト・リーに向けた動きが着実に前進することになろう。
注1 2021年5月25日付レポート「シンガポール、「優等生」でも気が抜けない新型コロナ対策の難しさ」
注2 2月8日付レポート「シンガポール、リー首相はいよいよ70歳到達も「ポスト・リー」はみえず」
注3 4月14日付レポート「シンガポール通貨庁、半年で3度目の引き締め決定、引き締めペースも強化」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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