- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- トルコはひたすらわが道を行くも、その足元はおぼつかない
- Asia Trends
-
2022.03.18
アジア経済
原油
アジア金融政策
トルコ経済
為替
ウクライナ問題
トルコはひたすらわが道を行くも、その足元はおぼつかない
~経済のファンダメンタルズは急速に悪化、ロシアのデフォルト懸念は一服もその余波には要注意~
西濵 徹
- 要旨
-
- 足下の国際金融市場では、米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜が進むなど、新興国を取り巻く状況が厳しさを増している。ウクライナ情勢の悪化を受けた国際商品市況の上昇は、輸入に依存する国々の経済のファンダメンタルズの悪化を招く。そうした懸念の強いトルコでは、昨年末のリラ暴落に際して導入した「奇策」により表面的には落ち着きを取り戻した。しかし、商品市況高騰や観光収入の激減で対外収支は悪化しており、リラ相場はじり安の展開が続く。今後は定期預金の満期到来に伴い財政負担が増大する可能性もくすぶる。
- 生活必需品を中心にインフレ圧力が強まるなか、足下のインフレ率は一段と加速しており、中銀が昨年の利下げ実施の根拠としたコアインフレ率も加速している。中銀は17日の定例会合で3会合連続の政策金利の据え置きを決定したが、先行きのインフレ見通しの楽観さを勘案すれば、金融引き締めに動く可能性は皆無と見込まれる。足下のリラ相場は表面的に安定する背後で外貨準備高は減少が続くなど、経済の体力は着実に低下している。ウクライナ問題では仲介を買って出る動きをみせるが、「当事国」となる可能性がある同国の仲介が機能するかは楽観しにくい。ロシアのデフォルト懸念は一旦回避されたが、今後も懸念はくすぶるなか、国際金融市場が動揺する度に圧力に晒されてきた同国は安穏と出来ない状況が続くと予想される。
足下の国際金融市場を巡っては、国際商品市況の上昇に伴う全世界的なインフレ圧力の高まりを理由に、米FRB(連邦準備制度理事会)をはじめとする主要国中銀が『タカ派』姿勢を強めており、コロナ禍を目的とする全世界的な金融緩和を追い風とする『カネ余り』の手仕舞いが意識されている。こうした動きを受けて、これまでカネ余りや全世界的な金利低下を背景に資金流入が活発化してきた新興国においては、資金流入の先細り、ないし流出に転じることが懸念されるなど、環境が一変する可能性が高まっている。さらに、このところのウクライナ情勢の悪化を受けて原油をはじめとする国際商品市況は上昇の動きを強めており、これらを輸入に依存する新興国では経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の悪化に繋がることが懸念される。なお、新興国のなかでファンダメンタルズが極めて脆弱な国のひとつであるトルコでは昨年、インフレが昂進するなかでも『金利の敵』を自認するエルドアン大統領の圧力も影響して中銀は利下げを繰り返し実施し、通貨リラ相場は下落の動きを強めるなど信認低下に拍車が掛かった(注1)。ただし、トルコ政府は昨年末にリラ相場の安定を図るべく、トルコ国民のリラ建定期預金のハードカレンシーに対する価値を政府が補償する事実上の米ドルペッグという『奇策』を発表した(注2)。その後のリラ相場は大きく混乱する動きがみられるも、1月半ば以降については上述した奇策も影響して昨年末にかけての急激な調整の動きは一服する動きがみられた。しかし、足下ではウクライナ問題の激化に加え、上述のように国際金融市場を取り巻く環境変化が意識されるなかでリラ相場はじり安の展開が続いている。トルコは国内で消費する原油及び天然ガスの大宗を中東からの輸入に依存しており、これらの国際価格上昇は物価上昇を招くとともに貿易赤字拡大に繋がるほか、ウクライナ情勢の悪化を受けて外国人観光客の4分の1をロシアとウクライナ両国が占めるなかで観光収入も激減するなど、経済のファンダメンタルズは急速に悪化している。なお、足下のリラ相場は上述の奇策を発表した時点に比べるとわずかに高値となっている一方、直後のリラ高局面と比較して割安な水準となっており、当面は3ヶ月物定期預金の満期到来が予定されるなかで損失補填に伴う財政負担が高まることが予想される。よって、対外収支に加えて財政動向にも圧迫感が強まることになろう。
注1 2021年12月17日付レポート「トルコ中銀の「逆走」はまだまだ続きそうだ...」
注2 2021年12月21日付レポート「トルコ、リラ建預金の「実質的な米ドルペッグ」という奇策を発表」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最新レポート
-
インドネシア・プラボウォ次期政権へ金融市場からの「洗礼」か ~外貨準備高は市場の動揺への耐性に乏しく為替介入には限界、財政規律を維持出来るかに注目~
アジア経済
西濵 徹
-
「最強通貨」メキシコペソでも「米ドル一強」の流れには勝てないか ~中東情勢の不安定化に加え、外貨準備高も金融市場の動揺への耐性に乏しいことに要注意~
新興国経済
西濵 徹
-
ニュージーランド、インフレの粘着度は中銀の抑制姿勢の長期化を示唆 ~NZドルの対米ドル相場は米FRBの動き如何の一方、日本円に対しては底堅い展開が続くであろう~
アジア経済
西濵 徹
-
シンガポールはいよいよ政権移譲、ウォン次期政権の行方は ~「Xデー」は5月15日、リー一族のいない政界は構造問題や与党PAP立て直しなど難題に直面しよう~
アジア経済
西濵 徹
-
内外経済ウォッチ『アジア・新興国~インド総選挙、モディ政権にとっての「ラスボス」は野党ではなく物価か~』(2024年5月号)
アジア経済
西濵 徹
関連レポート
-
インドネシア・プラボウォ次期政権へ金融市場からの「洗礼」か ~外貨準備高は市場の動揺への耐性に乏しく為替介入には限界、財政規律を維持出来るかに注目~
アジア経済
西濵 徹
-
ニュージーランド、インフレの粘着度は中銀の抑制姿勢の長期化を示唆 ~NZドルの対米ドル相場は米FRBの動き如何の一方、日本円に対しては底堅い展開が続くであろう~
アジア経済
西濵 徹
-
中国当局はいつまで「意味のない」成長率目標に拘泥するのか ~1-3月GDPは国進民退で前年比+5.3%に加速も、需要の乏しい生産拡大は世界経済を揺さぶるか~
アジア経済
西濵 徹
-
シンガポール通貨庁、景気鈍化もインフレリスクを警戒して現状維持 ~先行きの景気回復と物価安定を見込むも、物価を巡るリスクを警戒して様子見姿勢を維持の模様~
アジア経済
西濵 徹
-
韓国中銀、物価、家計債務、不動産価格、ウォン相場に悩みは尽きず ~先行きの政策運営は「米FRB次第」、利下げ後ズレ観測で自律的な調整は一段と困難な展開~
アジア経済
西濵 徹