ニュージーランド、戦略転換で景気底入れも、感染動向には懸念

~中銀は一段とタカ派姿勢を強める可能性も予想され、NZドル相場を下支えすると期待される~

西濵 徹

要旨
  • ニュージーランドは当初こそ「ゼロ・コロナ」戦略による封じ込めに成功したが、昨年はデルタ株による感染拡大に直面した。他方、ワクチン接種が進んだことで「ウィズ・コロナ」戦略への転換を図るとともに、昨年末にかけては感染収束が進むと期待された。しかし、足下ではオミクロン株による感染爆発が直撃している。政府は行動制限を課さず、国境再開の前倒しを模索するが、先行きは戦略の微調整を迫られる可能性もあろう。
  • 昨年末にかけての感染動向の改善や戦略転換による人の移動の底入れを反映して、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+12.57%とプラス成長に転じている。家計消費や企業の設備投資、政府支出など内需を中心に景気の底入れが促され、マクロ面でコロナ禍からの克服が進んでいる。他方、足下における感染動向の急激な悪化に加え、昨年来インフレの上振れが続くなか、ウクライナ情勢の悪化による国際商品市況の上昇による悪影響も懸念されるなど、景気の先行きに対する不透明感は徐々に高まりつつある。
  • 物価の高止まりに加え、異例の金融緩和によるカネ余りなどによる不動産価格の急騰を受け、中銀は昨年後半以降に政策の正常化を進めてきた。先月の定例会合では3会合連続の利上げに加え、量的引き締めを決定した。国際金融市場では米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜が意識される一方、中銀のタカ派姿勢に加え、国際商品市況の上昇が足下NZドルを下支えしており、当面はそうした傾向が続くと見込まれる。

ニュージーランドは、一昨年来のコロナ禍に際して、当初においては強力な感染対策による『ゼロ・コロナ』戦略を通じて封じ込めを図ることに成功してきた。なお、昨年には感染力の強いデルタ株が流入するとともに感染が広がり、政府は全土を対象とする都市封鎖(ロックダウン)など強力な対策による『短期決戦』を狙う動きをみせた(注1)。しかし、強力な感染対策にも拘らず感染拡大を抑えられない一方、欧米など主要国ではワクチン接種を前提に経済活動の正常化を図る『ウィズ・コロナ』戦略が進むなか、同国もワクチン接種の進展を受けて戦略転換に舵を切った(注2)。上述のように全土を対象とする都市封鎖を受けて人の移動に大きく下押し圧力が掛かり、昨年7-9月の実質GDP成長率は大幅マイナス成長となるなど景気に急ブレーキが掛かったものの、昨年末にかけては戦略転換を反映して人の移動は底入れするなど景気の底打ちが期待される動きが確認された(注3)。しかし、昨年末に南アフリカで確認された感染力の強いオミクロン株はその後に世界的に感染が広がり、年明け以降は同国にも流入するとともに、先月以降は感染が急拡大している。人口100万人当たりの新規陽性者数(7日間移動平均)は今月初めに4,000人を上回る事態となり、医療インフラに対する圧力が強まるとともに、死亡者数も拡大傾向を強めるなど感染動向は急速に悪化している。足下の新規陽性者数はわずかに頭打ちする兆しがみられるものの、依然高水準で推移するなど厳しい状況が続いている。なお、『ウィズ・コロナ』戦略への転換の前提であるワクチン接種については、その義務化を巡って首都ウェリントンなどで抗議デモが発生するなど混乱がみられたものの、足下のワクチン接種率は完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人の割合)が81.99%、部分接種率(少なくとも1回は接種を受けた人の割合)も88.02%に達するとともに、追加接種率も52.72%に達するなど着実に進んでいる(いずれも3月15日時点)。ワクチン接種の進展も理由に政府は行動制限を課していない上、国境再開の前倒しに動く方針を示しているものの、足下では人の移動に再び下押し圧力が掛かるなど外出を手控える動きが広がっている。オミクロン株は感染力が他の変異株に比べて極めて高い一方、重症化率は低いとされることもこうした判断に繋がっているとみられるものの、感染動向の急激な悪化を受けて戦略の微調整を迫られる可能性はくすぶる。

図 1 COVID-19 コミュニティ・モビリティ・レポートの推移
図 1 COVID-19 コミュニティ・モビリティ・レポートの推移

図 2 ニュージーランド国内における感染動向の推移
図 2 ニュージーランド国内における感染動向の推移

なお、上述のように昨年末にかけては政府による戦略転換も追い風に人の移動も底入れしているほか、欧米を中心とする世界経済の回復も続いており、国内外双方で景気の追い風に繋がる動きがうかがわれた。事実、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+12.57%と前期(同▲13.48%)から2四半期ぶりのプラス成長に転じているほか、中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+3.0%と前期(同▲0.2%)から2四半期ぶりのプラス成長に転じるなど景気の底打ちが確認されている。分野別では、異常気象の頻発も影響して農林漁業関連の生産は弱含む展開が続く一方、戦略転換に伴う行動制限の緩和を反映して製造業や鉱業、建設業の生産が拡大に転じているほか、サービス業の生産も幅広く拡大している。需要項目別でも、行動制限の緩和や人の移動の底入れを反映して家計消費が押し上げられているほか、企業部門による設備投資の動きも活発化するとともに、政府による景気下支え策を反映して政府消費や公共投資も押し上げられるなど、幅広く内需が拡大する動きがみられる。一方、世界経済の回復が続いているにも拘らず輸出は引き続き弱含む展開が続いているほか、内需の回復を反映して輸入が押し上げられたことで純輸出の成長率寄与度は大幅マイナスで推移している上、企業部門による在庫調整の動きを受けて在庫投資の寄与度も大幅マイナスとなっている。こうした状況を勘案すれば、景気情勢はみた目の数字より良好と捉えることも出来る。昨年通年の経済成長率は+5.5%と前年(▲1.9%)から2年ぶりのプラス成長に転じており、プラス幅も1994年以来となる5%を上回る伸びとなっているものの、統計上のゲタが+3.6ptに上ることを勘案すれば『実力』ベースでは+2%程度と試算されるなど、本調子にはほど遠いと判断出来る。その一方、実質GDPの水準もコロナ禍の影響が同国に及ぶ直前である2019年末時点と比較して+3.5%上回るなど、マクロ面ではコロナ禍の影響を克服していると捉えることが出来る。政府の戦略転換の動きは景気回復を促すと期待される一方、上述のように足下においては感染動向の急激な悪化に伴い景気に不透明感が高まる動きがみられる。さらに、世界経済の回復を受けた原油をはじめとする国際商品市況の上昇に加え、コロナ禍からの景気回復も追い風に足下のインフレ率は中銀(NZ準備銀行)の定めるインフレ目標を上回る水準で推移している上、足下ではウクライナ情勢の悪化に伴い国際商品市況の一段の上振れも見込まれるなど物価の高止まりが懸念される。よって、先行きの景気についてはコロナ禍からの回復局面が一巡する一方、『ポスト・コロナ』に向けた取り組みに左右される展開が予想される。

図 3 実質 GDP 成長率(前期比年率)の推移
図 3 実質 GDP 成長率(前期比年率)の推移

図 4 インフレ率の推移
図 4 インフレ率の推移

なお、上述のように足下の物価は上振れするなか、中銀によるコロナ禍対応を目的とする異例の金融緩和やコロナ禍を経た生活様式の変化も重なり、不動産市況は上昇の動きを強めるなど『副作用』が顕在化しており、中銀は昨年後半以降に政策の『正常化』を模索する動きを前進させてきた。中銀は先月の定例会合で3会合連続の利上げ実施に加え、大規模資産購入プログラム(LSAP)の資産規模を段階的に縮小させる量的引き締めに動く方針も決定している(注4)。先行きの景気を巡っては、感染動向の急激な悪化に対する懸念がある一方、国際商品市況の上振れに伴うインフレ懸念もくすぶるなかで一段の金融引き締めが必要になるとの見方も強まっている。昨年末以降の国際金融市場においては、米FRB(連邦準備制度理事会)をはじめとする主要国中銀が『タカ派』姿勢を強めるなど、コロナ禍対応を目的とする全世界的な金融緩和による『カネ余り』の手仕舞いが意識されるなか、通貨NZドルは米ドルに対して調整する展開が続いてきた。しかし、NZ中銀が『タカ派』姿勢を強める動きをみせているほか、足下ではウクライナ情勢の悪化に伴う国際商品市況の上昇による交易条件の改善期待も重なり底入れしており、先行きについても底堅い展開が見込まれる。

図 5 NZ ドル相場(対米ドル、日本円)の推移
図 5 NZ ドル相場(対米ドル、日本円)の推移

以 上

西濵 徹

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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