小麦粉の危機

~ウクライナ・ショックが家計を直撃~

熊野 英生

要旨

小麦市況が高騰している。最近の価格上昇が、4月に予定される輸入小麦の政府売渡価格は、このままで行けば、2021年10月比で36%も押し上げそうだ。家計支出は、小麦関連製品の値上がりによって約3%程度、年間の負担額では+3,200円も増えると見込まれる。この負担増は、小麦だけを計算したものであり、大豆、とうもろこしなどを含めると、ウクライナ・ショックの影響はさらに大きくなる。

目次

消費者物価はもっと上がる

2月24日に始まったロシアのウクライナへの軍事侵攻によって、小麦市況が急騰している。シカゴ市場(CBOT)の2022年3月は、1ブッシェル当たり12.0ドルを超えている。1トン当たりでは441ドルにもなる。

市況高騰の影響は、4月以降の政府の輸入小麦の売渡価格を大幅に上昇させると予想される。この政府売渡価格は、半年ごとに行われるが、前回2021年10月のときは2021年4月よりも+19.0%も値上げされた(図表1)。

小麦粉の使用される範囲は広く、パン、麺類、ケーキ、カステラ、ドーナツ、まんじゅう、カレールウ、ぎょうざ皮、天麩羅衣など多岐に亘る。それらを使った弁当・調理食品、うどん・そば・ラーメンなど外食などの値上げにも波及するだろう。

2022年4月と言えば、消費者物価指数が前年比2%近くまで上昇することが警戒されている時期だ。前年4月の携帯電話料金プランの大幅値下げが一巡して、物価指数の前年比がジャンプする。すでに、原油高騰が石油製品や電気代・ガス代を大きく押し上げることが予想されているだけに、小麦価格の上昇はそこに追い打ちをかける格好になる。生活者への痛みは、原油高騰などと併せて、大きなインパクトをもたらすだろう。物価上昇率が2%近くになると、それを歓迎する人はほどんど居くなるだろう。

焦点は4月の政府売渡価格

日本への小麦供給は、海外からの輸入に依存している。2020年度の実績では、小麦の自給率は15%(カロリー・ベース)だ。生産額を基準にしても、自給率は19%と低い。8割以上を海外からの輸入に依存している図式だ。2020年度の小麦の輸入額は、1,628億円(537.4万トン)になる。

輸入相手国は、米国が46.9%、カナダが36.5%、オーストラリアが16.2%で100%近い(財務省「貿易統計」)。この中にはロシアは含まれていないが、海外でロシア産小麦が輸出できなくなるという思惑は、小麦の国際商品市況を高騰させて、日本にも影響してくるだろう。ロシアは、小麦の輸出国としては世界第1位である。また、ウクライナも広大な穀倉地帯を抱えていて、世界第5位の輸出国である。ロシアとウクライナで世界の輸出数量の1/4を占めている。だから、その取引が止まると、小麦の世界的な需給バランスが大きく崩れると警戒されている。

対する日本は世界第8位の大きな輸入国である。日本経済は、国際商品市況の高騰からは免れらそうにない。

次に、輸入小麦の政府売渡価格について詳しくみたい。前述の通り、その価格は2022年4月に2021年10月比(現状比)で36%の上昇率になりそうだ。この価格変動は、日銀の輸入物価(円建価格)から予測したものだ(図表2、3)。輸入小麦価格は、2022年1月に前年比60.9%も上昇している。これを半年間累計して、6か月前と比較すると、3割強の上昇率になる。この政府売渡価格が上昇すると、国内小売段階での小麦粉の価格もやはり値上がりする。36%もの上昇は、10月の改訂以上に、4月以降に幅広く小麦関連製品の値上がりへと波及することだろう。

家計負担を計算する

次に、輸入小麦価格から、国内の小麦関連製品の値上げを推計してみよう。まず、輸入小麦価格と連動性の高い消費品目を調べてみると、ウエイトの大きい順に、パン、麺類、中華そば(ラーメンなど、外食)、ケーキ、ぎょうざ(外食)、カレーライス(外食)などが挙げられる(図表4)。これらを「小麦関連製品」というカテゴリーでまとめると、消費者物価の食料品の中では、16%のウエイトを占めていた。その前年比上昇率を推計すると、1ブッシェル12.0ドルを前提にして、2022年3月の伸び率は3.1%となる。消費者物価全体に対しては、0.13%の寄与度になる。これを実額の負担増に引き直すとどのくらいになるのであろうか。総務省「家計調査」(2人以上世帯、2021年)を使って、家計支出の増加額を計算すると、年間3,200円になる。

注:農林水産省は、輸入小麦の政府売渡価格が上昇するインパクトを毎回発表している。2021年10月に半年間比で19.0%上昇したときは、消費者物価に対して+0.016%の押し上げになると発表していた。筆者の計算はそれよりも大きい。まず、2021年10月の19.0%に対して、2022年4月は36%である。さらに、筆者の推計は、農林水産省よりも影響範囲を広くみている。農林水産省の推計は、国内の小麦粉製品の値上げだけを対象にしていて、輸入品されるパスタなどの部分は含めていない。また、パンを使った調理食品、お菓子なども含めていないようだ。こうした影響範囲の違いが大きな差になっていると考えている。

家計への打撃は誰に大きいか?

小麦関連製品の支出は、高齢者よりも若者、特に単身世帯にはより影響が大きいと考えられる。コメ食よりも、パン食、麺類を好む人には、値上げのインパクトは大きい。しかも、外食は割に早く値上げの効果が表れる。ラーメンやぎょうざ、天丼、スパゲッティなどの馴染みが深い外食は、値上がりの影響が出やすいだろう。昼のご飯を調理パンやサンドイッチにする人も、値上がりを実感しやすいと考えられる。

このことは、物価上昇の痛みを感じる人が、2022年4月頃から急速に増える可能性を予想させる。小麦製品は、コメに並ぶ主食であるから、誰もその痛みからは逃げることが難しいのも特徴である。

最後に、本稿では、小麦関連製品に焦点を当てて、その値上がりのインパクトを考えた。しかし、ここでは大豆やとうもろこしなどの輸入穀物の価格上昇を対象にしなかった。大豆は、大豆食品だけではなく、油脂などにも使われる。とうもろこしは、飼料として使われて食肉価格の押し上げに波及していく。つまり、ウクライナ・ショックによって、小麦だけではなく、大豆・とうもろこしの上昇も含めて考えると、家計の負担増はもっと大きいと推察される。

ただし、そうした相互作用の効果は、計算することがかなり面倒である。少し時間をおいて、そうした範囲の広い負担増については計算してみたいと考えている。

熊野 英生

熊野 英生

くまの ひでお

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計

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