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2026.06.18
アジア経済
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フィリピン中銀、ペソ安一服もインフレ高止まりを警戒して追加利上げ
~レモロナ総裁は緊急利上げの可能性に言及、引き締め姿勢を一段と強めている~
西濵 徹
- 要旨
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フィリピン中銀は、6月定例会合で政策金利を25bp引き上げ4.75%とすることを決定した。4月に続く2会合連続の利上げとなる。背景には、中東情勢の緊迫化による原油価格高騰がある。エネルギーの輸入依存度が高いフィリピンでは、燃料価格上昇がインフレを押し上げており、足元のインフレ率は中銀目標のレンジ(2~4%)を大きく上回っている。コアインフレ率も目標上限を超えており、物価上昇圧力の広がりが確認されている。また、原油高による輸入増加や中東諸国からの送金減少懸念を背景に、ペソ相場は対ドルで歴史的な安値圏にあり、中銀はインフレ抑制と通貨防衛の両面から追加利上げを実施したとみられる。
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会合後の声明では、中銀は「インフレ圧力は依然として強い」との認識を示し、原油・肥料価格の高止まりやインフレ期待の上昇を警戒した。物価見通しについても、2026~2027年は目標レンジ上限を上回ると予測している。レモロナ総裁は今回の利上げを「予防的措置」と説明し、今後も段階的な利上げを続ける可能性を示したほか、必要に応じて50bpの大幅利上げや緊急会合による追加利上げも排除しない姿勢を示した。さらに、ペソ安が続く場合には資本取引規制の強化など、為替安定策を講じる可能性も考えられる。
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【フィリピン中銀は2会合連続の利上げ実施を決定】
フィリピン中央銀行は、6月18日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利である翌日物リバースレポ金利を25bp引き上げ、4.75%とすることを決定した。同行は、4月の定例会合において2年半ぶりの利上げ実施を決定しており(注1)、今回は2会合連続の利上げとなる。
同国では3月、中東情勢の緊迫化を受けた原油や石油製品の供給懸念を背景に「国家エネルギー非常事態」宣言が発令された。同国はエネルギー資源を輸入に依存しているうえ、その9割以上をサウジアラビアなど湾岸産油国からの輸入が占めることから、中東情勢の緊迫化の影響を受けやすい。さらに、同国の2025年末時点の原油備蓄は60日分にとどまったほか、供給懸念を理由に備蓄の取り崩しが進んだことも非常事態宣言の発令を後押しした。米国とイランが停戦合意に至ったことを受けて、足元の原油価格は下落しているものの、依然としてイスラエルと米国による空爆開始前の水準を大きく上回っている。そのうえ、中東情勢には依然として不透明要因が多く残されており、供給懸念が早期に解消するとの見通しは立ちにくい。したがって、当面はエネルギー価格の高止まりが懸念される状況にある。
中銀は4月会合での利上げ決定に際して、インフレが一時的に上振れするとの見方を示した。4月のインフレ率は前年同月比+7.2%と2023年3月以来の高い伸びに加速したほか、5月は同+6.8%とわずかに伸びが鈍化したものの、中銀の目標レンジ(2~4%)を大幅に上回る伸びで推移している(図1)。さらに、食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率も5月は前年同月比+4.1%と目標レンジの上限を上回る伸びに加速しており、インフレ圧力が広がっている様子がうかがえる。

中東情勢の緊迫化以降の金融市場においては、「有事のドル買い」の動きが活発化した。さらに、同国では、原油高による輸入増に加え、中東情勢の緊迫化を受けてGDP比で2%に相当する中東諸国からの移民送金の減少も重なる形で対外収支の悪化が警戒され、通貨ペソの対ドル相場は過去最安値圏で推移する展開が続いた(図2)。こうしたことから、中銀のレモロナ総裁は5月末のテレビインタビューにおいて、通貨防衛を目的とする緊急利上げの可能性に言及した(注2)。足元では、米国とイランによる停戦合意を受けて、ペソ安圧力が幾分和らいでいるものの、依然として歴史的低水準で推移している。こうした事情も中銀による一段の利上げ実施を後押ししたと考えられる。

【中銀はインフレ継続を警戒して追加利上げに含みを持たせる】
会合後に公表した声明文では、足元の物価動向について「インフレ圧力は依然として強い」との認識を示している。そして、「世界の原油や肥料価格は高水準で推移しており、国内の燃料・食料価格を押し上げ続けている」としたほか、「コアインフレ率の上昇はインフレ圧力の広がりとインフレ期待の上振れを含めた二次的効果を反映している」との見方を示した。そのうえで、物価見通しについて「最新見通しではより高い経路が示唆される」とし、「2026年、2027年ともに目標レンジの上限(4%)を上回ると見込まれる」、「2028年は3%をやや上回る」とした。
今回の決定について「総合的にみて金融引き締めが妥当であると判断した」として、「本日の措置はインフレ期待の安定や二次的効果に関わるリスクの軽減に資する」、「慎重な金融政策は、財政政策と協調して安定した家計や企業のセンチメントの強化にも資する」との見方を示した。先行きの政策運営については「引き続き入手可能なデータに基づいて判断する」、「物価安定という主要任務に基づいて、インフレ率を3%に戻すべくあらゆる措置を講じる用意がある」と4月の前回会合と同じ主張を繰り返しており、追加利上げに含みを持たせる考えを示した。
会合後の記者会見に臨んだレモロナ総裁は、物価動向について「低下傾向にあるものの、その傾向が定着するまでには時間を要するだろう」、「2028年までに目標レンジ内に回帰することを目指している」との見方を示した。今回の決定について「予防的な措置である」としたうえで、「利上げ余地はある」、「50bpの大幅利上げは、二次的効果がどの程度生じているかによって決まる」として、当面は漸進的な利上げを継続する考えを示した。先行きの政策運営について「必要に応じて、より大幅な利上げを含めていつでも緊急会合を開催する用意がある」と述べるなど、状況に応じて緊急利上げを行う可能性に言及した。一方、中東情勢について「米国とイランは停戦合意に至ったものの、何が起こるかは分からない」としたうえで、「状況を分析することは極めて難しい」との認識を示した。また、ペソ相場について「インフレ圧力を緩和するため、相場の変動を抑制するよう努めている」とした。
アジア新興国の間には、NDF(ノンデリバラブルフォワード)取引の規制や監視強化など、事実上の資本取引規制により通貨安を抑える動きが広がりをみせている。同国では、元々資本取引に一定の制限がかかっているものの、ペソ安の進行を受けて規制強化の可能性を示唆した。したがって、同行は今後、物価と為替の安定に向けてより強力な政策対応に踏み切る可能性が高まっている。
注1 4月23日付レポート「フィリピン中銀、中東情勢による物価高で2年半ぶりの利上げ決定」
注2 5月22日付レポート「フィリピン中銀のレモロナ総裁、緊急利上げの可能性に言及」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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阿原 健一郎

