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ルペンの野望を打ち砕くフランス地域圏選挙

~歴史的な低投票率、反マクロン票の取り込みに失敗~

田中 理

要旨

来年春のフランス大統領選挙での勝利を目指すルペン候補が率いる極右政党・国民連合は、歴史的な低投票率となった20日の地域圏選挙で、反マクロン票の取り込みに失敗した。今回の地域圏選挙で悲願の首長ポストを獲得し、政権遂行能力を訴えて大統領選挙に臨む戦略の練り直しが求められる。その国民連合の候補に大差をつけたベルトラン氏が共和党の有力な大統領候補となる。今回の選挙結果を追い風に、大統領選挙での支持を伸ばせば、マクロン大統領にとっても脅威となる。左派は環境政党との間で票が割れ、大統領選挙に向けて候補者一本化の行方が注目される。

20日に行われたフランス地域圏(州に相当)選挙の初回投票では、マクロン大統領が率いる共和国前進を中心とした中道会派やルペン党首が率いる極右政党・国民連合(かつての国民戦線)の票が伸び悩んだ一方、伝統的な二大勢力である共和党を中心とした右派会派と社会党を中心とした左派会派が強さをみせた。地方基盤が脆弱な共和国前進の苦戦は予想通りだが、事前の世論調査で複数の地域圏の初回投票を制するとみられていた国民連合は、南東部のプロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール以外で最多票を獲得することに失敗した(表)。出口調査が発表されている残り13地域圏のうち、7つで右派連合が、5つで左派連合が、1つ(コルシカ島)で地域政党が初回投票を制した模様だ。初回投票で10%以上の票を獲得した会派の候補が27日の決選投票に進出し、5%以上の票を獲得した候補同士で候補者名簿を統一することができる。決選投票で最多票を獲得した候補が首長となる。

同国では来年4・5月に5年に一度の大統領選挙を控え、前回同様にマクロン大統領とルペン候補の一騎打ちになると見られている(詳しくは6月15日付けレポート「フランス大統領選を展望する」を参照されたい)。選挙制度や争点の違いから、今回の地域圏選挙の結果が直接、大統領選挙の行方を占うものではないが、マクロン大統領の人気低迷がどの会派を利するのか、有権者の極右アレルギーに変化が見られるか、右派会派内の大統領候補争いへの影響、左派会派の候補者一本化が成功するかなどに注目が集まった。コロナ感染が完全に収束していない中での選挙となったことや、国民連合が反マクロン票の受け皿とならなかったことから、初回投票の投票率は30%に届かず、同国史上最低を更新した模様だ(前回2015年の地域圏選挙の初回投票は49.9%)。

国民連合はユーロ離脱などの極端な主張を封印し、支持基盤の拡大を目指したが、全体の各得票率は20%前後にとどまった模様で、前回2015年の27.7%を下回った。大統領選挙(決選投票)の世論調査でマクロン大統領とルペン候補の差は縮まってきているものの、今回の地域圏選挙の結果からは、反マクロン票は国民連合に流れるのではなく、投票率低下という形で現れる可能性が示唆される。国民連合がプロヴァンス=アルプ=コート・ダジュールの決選投票を落とせば、悲願の首長ポスト獲得で政権遂行能力を訴え、来年の大統領選挙に臨む戦略の軌道修正を迫られる。

全体では右派会派が3割前後で最多票を獲得した。一部有権者が前回選挙時に結党前だった共和国前進(10%強の票を獲得)に流れたものの、概ね前回(31.7%)並みの支持を確保した模様だ。ベルトラン現オ=ド=フランス首長、ぺクレス現イル=ド=フランス首長、ヴォキエ現オーヴェルニ=ローヌ=アルプ首長、ルタイロー現ペイ・ド・ラロワール首長など、来年の大統領選挙の有力候補は揃って初回投票を制し、首長の座を維持する可能性が高い。事前の世論調査で国民連合の候補と接戦が予想されたベルトラン氏が大差をつけ、大統領候補レースで一歩リードした形。一部の地域圏で候補を一本化した左派は、全体では右派会派に匹敵する支持を獲得した模様だが、左派会派と環境政党の間で票が割れた。来年の大統領選挙での初回投票突破には候補者一本化が必要とみられ、今後こうした動きが本格化するかどうかに注目が集まる。

表
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田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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