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2021.04.21
新興国経済
金融市場
新型コロナ(経済)
南アフリカ経済
南アフリカ・ランド、新興国通貨が弱含むなかでも堅調な推移が続く
~ワクチン接種は遅いが感染鈍化や企業マインド改善を好感、一変するリスクをはらむ展開は変わらず~
西濵 徹
- 要旨
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- 昨年半ば以降の国際金融市場は「カネ余り」の様相を強めるなか、世界経済の回復期待も追い風に活況を呈してきたが、米長期金利の上昇をきっかけに新興国を取り巻く状況は変化しつつある。ただし、国際商品市況の堅調さが続くなか、世界有数の資源国である南アフリカの通貨ランド相場は堅調であり、株価も同様に底堅い展開が続いており、多くの新興国で資金流入の動きが弱まるなかでは対照的な動きをみせている。
- 新興国を中心に変異種が感染再拡大を招く動きがみられるが、南アでは年明け直後をピークに新規感染者数は鈍化しており、死亡者数も鈍化している。ワクチン接種率は極めて低水準であるなど事態収束に時間を要するとみられるが、感染鈍化を受けて企業マインドは改善するなど景気回復期待の高まりが資金流入に繋がっているとみられる。ただし、財政状況や景気見通しは他の新興国と比較して見劣りし、取引の大宗を短期資金が占めることを勘案すれば、感染動向如何では状況が一変するリスクを抱える状況は変わらない。
昨年半ば以降の国際金融市場を巡っては、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパンデミック(世界的大流行)を受けた世界経済の減速に対応すべく、全世界的に財政及び金融緩和による景気下支えが図られたことも追い風に『カネ余り』の様相を一段と強めている。こうした状況に加え、当初の感染拡大の中心地となった中国での感染収束による経済活動の正常化に加え、欧米など主要国でも感染拡大が一服したことで経済活動の再開が図られるなど世界経済の回復が進んでおり、上述のように『カネ余り』が続いていることも相俟って国際金融市場は活況を呈している。世界経済の回復の動きは経済構造面で輸出依存度が相対的に高い新興国経済の追い風となりやすく、全世界的な低金利環境を受けて投資家の間ではより高い収益を求める動きが活発化するなど、新興国への資金流入が活発化する動きもみられた。しかし、感染拡大の中心地となってきた米国では感染一服やワクチン接種の進展を受けて経済活動の正常化が進んでいる上、バイデン政権による巨額の財政出動も追い風に急速に景気回復の動きが進んでいる。こうした状況を受けて米長期金利は上昇傾向を強めており、それに伴い新興国への資金流入の動きに変化の兆しが出ている上 1、足下では新興国において感染力の強い変異株による感染再拡大の動きが広がるなど感染拡大の中心地となっていることもあり、新興国を取り巻く状況は急速に厳しさを増している。他方、国際金融市場はカネ余りや世界経済の回復期待を背景に活況を呈する展開が続いており、OPECプラスによる協調減産の段階的縮小にも拘らず2 、その後も原油をはじめとする国際商品市況は堅調な推移をみせるなど『資源国』経済にとっては追い風となる状況もみられる。こうしたなかで国際金融市場を取り巻く環境の影響を受けやすい展開が続いてきた南アフリカについては、足下で通貨ランド相場(対ドル)は昨年初めの水準を回復するなど堅調な動きをみせているほか、主要株価指数についても鉱業関連での業績改善期待を追い風に堅調な推移が続くなど、多くの新興国が厳しい状況に直面するなかで対照的な状況にある。
南アフリカを巡っては、変異株のひとつに『南アフリカ型』と称されるものが存在するなど、一見すると他の多くの新興国と同様に感染の再拡大が直撃しているようにみえるものの、現実には年明け直後にかけて顕在化した感染拡大の『第2波』は頭打ちしている上、足下の新規感染者数は1000人程度で推移している上、死亡者数も鈍化するなど徐々に事態は沈静化に向かっている。世界的にワクチン接種の動きが広がりをみせるなか、同国においても2月初めにワクチンが到着しに、医療関係者を対象とするワクチン接種が実施されており、政府は製薬会社との個別契約に加えて国際的な供給スキーム(COVAX)を通じた確保に取り組んでいる。なお、政府は年内に全国民の3分の2に当たる4000万人を対象にワクチン接種を行う計画を立てている。しかし、今月19日時点におけるワクチン接種率は0.49%と他の新興国などと比較しても極めて低水準に留まっている。一方で低水準のワクチン接種率にも拘らず、足下の新規感染者数は落ち着いた推移が続いている。足下においてはアフリカ諸国のみならず、多くの新興国で変異株による感染再拡大の動きが広がりをみせている一方、ワクチン接種が進んでおらず集団免疫の獲得に時間を要する状況を勘案すれば、このまま事態の沈静化が進むか否かは見通しが立たないと判断出来るものの、金融市場は足下の状況を好感しているものと捉えられる。さらに、新規感染者数の鈍化を受けた経済活動が再開されていることを反映して企業マインドは改善する動きをみせており、他の新興国と比較して景気回復が進むとの期待の高まりも金融市場における資金流入の堅調さを促す一助になっているとみられる。今年度予算案で示された中期財政計画では中期的な公的債務残高のGDP比の水準はわずかに下方修正されているものの 、他の新興国と比較して高水準であることは変わらない一方、景気見通しは他の新興国に比べて見劣りする水準に留まっており中長期的な観点でみた魅力は乏しい。その上で、主要格付機関がいずれも「投資不適格」としている上に格上げが見通しにくく、取引の大宗を短期資金が占めているとみられるなか、足下の動きは国際金融市場を取り巻く環境や同国の経済状況が他の新興国と比較して良好であることが追い風になっているとみられる。そうした状況を勘案すれば、先行きについては新型コロナウイルスの感染動向や国際金融市場を取り巻く環境に左右される状況が続くことは避けられないと言えよう。
1 3月11日付レポート「新興国金融市場に変化の兆し、米国など主要国の動向がカギに」
2 4月2日付レポート「OPECプラス、5月以降は予想外の協調減産の段階的縮小へ」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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