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2021.04.07
アジア経済
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インド経済
インド中銀、感染再拡大による不透明感を警戒して緩和姿勢維持
~中銀は景気下支えを重視も、外部環境如何では正常化を迫られる可能性にも要留意~
西濵 徹
- 要旨
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- インドでは昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて都市封鎖が図られた。しかし、感染抑制は進まず景気への悪影響が顕在化したため、一転して経済活動の再開に舵が切られた。他方、昨年末以降は新規感染者数が鈍化したほか、ワクチン開発が進むなど事態収束が期待された。ただ、足下では変異株による感染再拡大で行動制限が再強化されているほか、ワクチン接種を巡っても迷走状態に陥る事態となっている。
- 国際金融市場を巡る環境変化を受けて足下のルピー相場は頭打ちしており、原油相場の動向と相俟って物価への悪影響が懸念される。こうしたなか、中銀は7日の定例会合で政策金利に加え、「必要な限り緩和的なスタンスを維持する」方針も据え置いた。同行は今年度の成長率見通しを据え置く一方、足下で感染再拡大の動きが不確実性に繋がることを懸念しており、景気下支えを優先した格好である。ただし、外部環境如何では先行きは一部の新興国のように政策の正常化を求める圧力が強まる可能性に留意する必要があろう。
インドでは昨年、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大を受けて、感染封じ込めに向けて全土を対象とする外出禁止令が出されるなど事実上の都市封鎖(ロックダウン)が採られたものの、その後も感染拡大の動きが一段と強まる一方で景気に深刻な悪影響が出る事態となったため、感染収束にほど遠い状況にも拘らず、段階的に行動規制が緩和されて経済活動が再開される難しい対応が迫られた。ただし、昨年9月中旬を境に新規感染者数は頭打ちの動きを強めたことで、経済活動の正常化に向けた取り組みが進められたほか、世界経済の回復により外需を取り巻く状況が改善したことも追い風に昨年後半以降の景気は底入れの動きを強めてきた 。さらに、近年のインドはジェネリック医薬品(後発医薬品)の世界的な生産拠点の一角として存在感を示しており、新型コロナウイルスの感染拡大の中心地となったことも重なり、様々なワクチンの臨床試験が実施されるとともに生産が行われている。年明け以降はワクチン接種も開始され、政府は今年8月までに3億人を対象に無償でワクチン接種を行う『世界最大』のワクチン接種計画を発表するなど、事態収束が大きく進むと期待された。事実、ワクチン接種では景気刺激策の一環として実施された低所得者を対象とする現金給付策で活用されたマイナンバー制度(アーダール)が用いられるなど、政権が推進する政策の柱のひとつ(デジタル・インディア)を通じた円滑な進捗が期待された。しかし、足下では感染力の強い変異株により感染が再拡大している上、新規感染者数は昨年の『第1波』を上回る水準となっている上、この動きに併せて死亡者数も拡大するなど事態は急速に悪化している。なお、上述のように同国は世界有数のワクチン生産国ではあるものの、国内における接種回数の人口比は他の国々と比較して低水準に留まる一方、国内における接種回数を上回る回数分のワクチンが輸出に回っており、この背景には国内でのワクチン生産に関する契約が影響しているとされる 。ただし、政府は先月末に同国製ワクチンを購入している国々に対して国内向けの供給を優先させるとの考えを示したほか、今月からはワクチン接種の対象年齢を引き下げる(60歳以上→45歳以上)などワクチン接種を加速化させる姿勢をみせている。他方、足下における感染再拡大を受けて、その中心地のひとつであるマハラシュトラ州(州都は最大都市ムンバイ)では夜間の外出禁止に加え、週末には都市封鎖が行われるほか、首都ニューデリーにおいても夜間の外出禁止措置が再導入されるなど、底入れの動きを強めてきた景気に冷や水を浴びせることは避けられそうにない。
他方、国際金融市場においては米長期金利の上昇をきっかけに新興国への資金流入の動きが変調するなど、とりわけ経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な国々では資金流出に転じることが懸念されている。インドについては、慢性的に経常赤字と財政赤字の『双子の赤字』を抱えるなど構造的な問題を有するなか、国際金融市場を取り巻く環境の変化に加え、足下では新型コロナウイルスの感染再拡大による実体経済への悪影響を嫌気する向きが強まり、ルピー相場に調整圧力が掛かる動きがみられるほか、主要株式指数(SENSEX指数)も上値が重い展開となっている。さらに、国際金融市場を取り巻く状況の変化や主要産油国であるOPECプラスによる協調減産の段階的縮小の決定を受けて 、昨年半ば以降底入れしてきた国際原油価格は足下で頭打ちしているものの、原油価格の底入れは対外収支の悪化や物価上昇を通じて経済のファンダメンタルズの脆弱さに繋がりやすい。事実、昨年末以降鈍化傾向を強めてきたインフレ率は、原油価格の底入れに伴うエネルギー価格の上昇を反映して足下で加速に転じており、通貨ルピー安の進展は輸入物価の押し上げを通じてさらなるインフレ圧力に繋がることが懸念される。こうしたことから、中銀は7日に開催した定例会合において政策金利(レポ金利及びリバースレポ金利)に加え、現金準備率(預金準備率)をすべて据え置いたほか、政策スタンスについても「必要な限り緩和的なスタンスを継続する」との方針を維持した。会合後に公表された声明文では、足下の世界経済について「不均衡ながら緩やかな回復が続いており、ワクチン接種の拡大に対する期待の一方で感染再拡大による悪影響が懸念される」との見方を示した。一方、同国経済については「足下では堅調な動きが続いており、財政支援を通じた生産活動や投資の下支えが期待される一方、消費者マインドは感染再拡大による不確実性の高まりが重石になる」との見方を示した上で、経済成長率について「今年度の経済成長率は+10.5%になる」と2月の定例会合で示した見通しを据え置いている 。他方、物価動向については「上下双方に振れるリスクがある」とし、「供給要因に拠る上振れリスクの一方で、感染再拡大による行動制限の再強化が需要を弱める可能性もくすぶる」との認識を示した上で、先行きの政策運営について「将来に亘ってインフレを目標域に抑制しつつ、景気の下支えや新型コロナウイルスの感染再拡大に伴う悪影響の最小化を図るべく必要な限り長期に亘って緩和的なスタンスを維持することが必要」との考えを改めて強調した。足下のインフレ率は引き続き目標域に収まるなど、早くも金融政策の正常化に向けた動きをみせる一部の新興国とは状況は異なるものの、財政及び金融政策の総動員による景気下支え策を受けて財政状況は急速に悪化するなど国際金融市場の動揺に対して脆弱な状況にあることを勘案すれば、先行きは外部環境如何の状況ながら政策の正常化を迫られる可能性もあるなど、難しい対応に直面することも予想される。
[1] 3月1日付レポート「インド、2020年10-12月は3四半期ぶりのプラス成長に転じる」
[2] 3月23日付レポート「インド、世界有数の「ワクチン生産国」の背後にある不都合な真実」
[3] 4月2日付レポート「OPECプラス、5月以降は予想外の協調減産の段階的縮小へ」
[4] 2月5日付レポート「インド中銀は景気回復期待も、政策支援を維持(Asia Weekly(1/29~2/5))」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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