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2025.05.26
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子育て期に必要なキャリア形成支援とは
~およそ半数が子どもの誕生後、キャリアプランの変更・喪失を経験~
福澤 涼子
- 要旨
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- 人口減少社会の進行により、キャリア形成と子育ての両立支援が重要な課題となっている。かつては結婚や出産をきっかけに離職する女性正社員が多かったが、現在は働き続ける人が多数派となっており、ライフイベントに左右されずキャリア継続が可能な職場環境が整いつつある。一方、子育て中の社員が、子育てと両立しながらもいかにキャリア形成していくかが課題として残る。
- 当研究所の調査によれば、男女ともに、子どもを持つ前にキャリアプランを立てていた有職者の約半数が、子どもの誕生後にプランの変更や喪失を経験している。特に、子育てのために勤務時間を短縮したり、子どもの急病に対応している人ほどキャリアプランの変更を余儀なくされており、子育てに積極的に関わるほどキャリア形成への影響が大きいことが示唆される。したがって、両立支援のみならず、働き方の変化があってもキャリア形成が継続できる道筋を企業が示す必要がある。
- 具体的な有効支援策としては、両立支援に加え、「キャリアの目標となるようなロールモデルの存在」や「上司によるキャリア形成支援」が重要であることが、調査の結果から見えてきた。働き方に大きな変化があったとしても、上司やロールモデルといった身近な人からの支援を得られることが、キャリアを諦めることなく、前向きに形成していこうとする意識につながると考えられる。
- 目次
1.はじめに
人口減少社会において、キャリア形成と子育ての両立支援は喫緊の課題である。少子高齢化による労働力人口の減少に伴い、女性の労働力はこれまで以上に重要となる。かつては結婚や子どもの出産をきっかけに退職する女性正社員も多かったが、今では仕事を続ける選択をする人のほうが大半となっている。結婚や出産といったライフイベントに左右されずキャリアを続けられる労働環境が整いつつあることは好ましい反面、ワーキングマザーがキャリア展望のもちにくい業務だけを任される「マミートラック」といった問題も生じている(注1)。今後は、単なるキャリア継続だけでなく、どのようにキャリアを発展させていくかが重要な課題となる。
もちろん、キャリア形成支援だけではなく、引き続き両立支援の充実も必要である。これが不十分な場合、「もっと子どもが欲しいが自身のキャリア形成のために出産を控える」という選択につながりかねない。こうした課題は今や女性だけのものではない。男性も育児休業取得や子育てへの関与が増えており、子どもの誕生を機にキャリアの方向転換を迫られるケースは男女ともに見られる。企業はキャリア形成支援と子育て支援の両輪で取り組むことが重要だと考えられる。
2.子どもの誕生後、およそ半数がキャリアプランの変更・喪失を経験
当研究所が2025年3月に実施した「第13回ライフデザインに関する調査」によれば、高校生以下の子どもと同居する有職者のうち、「子どもをもつ前にキャリアプランを持っていた」人(366名)のうち、「子どもの誕生後にキャリアプランを変更した、もしくは描けなくなった」と回答した割合は、男性で46.9%、女性で58.8%に上る(「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」の合計、資料1)。今日においても、キャリアの方向転換を迫られるのは男性より女性で多いものの、男性でも約半数がキャリアプランを変更せざるを得ない現状がある。このことからも、子育て期のキャリア形成支援は男女共通の重要課題であるといえる。

3.子育てに積極的にかかわるほど、キャリアの方向転換が必要
なぜ、子どもの誕生をきっかけにキャリアプランを変更・喪失する人が多いのだろうか。資料2は、子どものために仕事を調整しているか否かによる「子どもの誕生後にキャリアプランを変更した、もしくはキャリアプランを描けなくなった」人の割合を示している(「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」の合計)。「子育てのために勤務時間を短縮したり、在宅勤務に切り替えるなど働き方を調整している(または調整していた)」人のうち、68.1%がキャリアプランを変更したと回答している。また「子どもが急病の際、自分が仕事を休む、または在宅に切り替えて対応することが多い(もしくは多かった)」人では、その割合が70.2%に達している。すなわち、子育てに積極的に関わる人ほど、キャリアの方向転換を迫られる傾向があるといえる。

確かに、子育てに積極的にかかわりながら従来と同じ働き方を続けることは難しい。これまで対応できていた急な残業や宿泊を伴う出張が難しくなり、子どもの急病などで重要な業務をやむなくキャンセルすることもたびたびおこる。一定期間の育児休業を取得すると、担当業務の変更や、長期間かけて築いた担当顧客やプロジェクトの引き継ぎが必要となったり、復帰後も時間的制約からサブ的な業務のみを任される場合もある。また、キャリア目標の達成に向けて時間外でスキルを習得したいと考えても、子育てのため時間の確保が難しいケースが多い。仕事が終わった後も子育てが控えているため、以前のように業務だけに気力・体力をフルで使う姿勢は取りにくくなる。こうした事情を踏まえれば、子どもを持つことを見据えてあらかじめ十分にキャリアプランを立てていない限り、子どもを持つ前に想定していたキャリアプランを維持するのは難しいと考えられる。
したがって、子育てに積極的に関わる社員が、同時にキャリア形成を諦めないためには、両立支援の充実のみでなく、働き方の変化があってもキャリア形成が可能となる道筋を企業がいかに示せるかが重要となるだろう。
4.上司の後押しやロールモデルの存在が、キャリア形成意識に重要
それでは、具体的にどのような支援が有効なのか。キャリアプランを描くことは、自ら主体的にキャリアを築こうとするキャリア行動の一つである。子どもの誕生前にキャリアプランを持っていた人のうち、現在も「5年後のキャリアプランを描いている」と回答した割合は53.3%である(「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」の合計)。つまり、キャリアプランを有していた人のおよそ半数は、当初のプランを維持したり修正したりしながら、現在も将来に向けてキャリアプランを描くことができているといえる。
では、どのような支援がある人が、キャリアプランを描くことができているのだろうか。資料3は、子どもの誕生前にキャリアプランを有していた人のうち、各種の就業環境や支援の有無ごとに、現在キャリアプランを描けているかどうかを見た割合である。これによると、4つの項目すべてがキャリアプラン形成に寄与している傾向が見られる。そのなかでも、「現在の上司が自分のキャリア形成を後押ししてくれる存在である」にあてはまると回答した人(「あてはまる」「どちらかというとあてはまる」の合計)のうち67.8%が5年後のキャリアプランを描くことができている。同様に、「キャリア目標となるようなロールモデルが社内外問わず身近にいる」人では、75.3%にまで上る。これらの支援は、その有無による差が大きく、キャリアプランを描くことに強く影響していると考えられる。


子育てによって働き方の大きな変更や制限を受けるなか、自ら挑戦的な職務に手を挙げることをためらう人は多い。そのため、上司からの挑戦の後押しなど、直接的なキャリア支援が子育て期の従業員のキャリア形成意識の向上につながると考えられる。また、制約がある状況ではキャリア形成は難しいと思い込みがちだが、同じように子育てをしながらキャリアを築くロールモデルが身近にいることで、その思い込みを見直すことができるといえる。
このように、子育て期のキャリア形成支援には、身近な人による支援が重要である。企業としては、子育て期の社員を部下に持つ上司が、その挑戦やスキルアップを後押しするよう促すことや、ロールモデルとの接点をつくる取り組みが有効となってくるだろう。
【注釈】
- 拙稿『ワーキングマザーの活躍支援~「両立」だけではなく、「活躍」もできる社会に向けて~』で指摘したように、2021年時点で子どものいる女性正社員の約半数がマミートラックに該当している。
福澤 涼子
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

