夫婦間の家事・子育て分担とキャリア形成

~配偶者との分担の満足度が、女性のキャリア形成意識を高める~

福澤 涼子

目次

1.家事育児という「見えない労働(シャドウワーク)」がキャリア形成に及ぼす影響

前稿「子育て期に必要なキャリア形成支援とは~およそ半数が子どもの誕生後、キャリアプランの変更・喪失を経験~」では、子どもの誕生前にキャリアプランを描いていたキャリア形成意識の高い就労者であっても、子どもの誕生後にそのキャリアプランを変更・喪失を経験した人が男女ともに半数にのぼるということを指摘した。したがって、子育て期の社員を抱える職場は、そのような社員の子育てと仕事の「両立」を支援するのと同時に、子育て期のキャリア「形成」を支援することが求められる。そのためには、上司やロールモデルなど身近な人からの直接的な支援が有効であると述べた。

一方で、キャリアに関する身近な支援者は、職場の人間だけに限らず、ともに子育てを担う「配偶者」の存在も大きいと考えられる。家庭内での子育てや家事は、「見えない労働(シャドウワーク)」と呼ばれ、本来は「労働」であるのにもかかわらず、賃労働と比較して、その価値が過小評価されてきた(注1)。共働き家庭であっても、多くの場合、その負担は女性に偏りがちで、そのことが職業上のキャリア形成に影響を及ぼしてしまう可能性がある(注2)。

本稿では、2025年3月に実施したアンケート調査をもとに、夫婦間の家事・育児分担に対する満足度が、キャリア形成意識にどのような影響を与えるかについて考察する。

2.育児分担に「どちらともいえない」男性と、不満を持つ女性

図表1は、中高生以下の子どもと同居している有職かつ有配偶の親に対して、配偶者との家事や育児分担に満足しているかをたずねた結果である。まず家事(図表上①)については、男女差はそこまで大きくないが、「満足」(「あてはまる」と「どちらかといえばあてはまる」)とする割合は男性で、「不満」(「どちらかといえばあてはまらない」と「あてはまらない」)とする割合は女性で多いことがわかる。

次に育児(図表下②)についても同様な傾向がみられるが、特に男性において「どちらともいえない」とする割合が女性では3割であるのに対して、男性では4割近い。父親の子育て参加は増えているものの、「夫婦でちょうどよく分担している」とまでは父親本人たちも感じておらず、「あてはまるともあてはまらないともいえない」という回答が多く選ばれたのではないかと推察できる。また、育児分担の程度について不満を持つ女性が3人に1人程度(「どちらかといえばあてはまらない」と「あてはまらない」)にのぼり、男女差が大きい。妻が満足のいくような分担状況にはまだ至っていない家庭も多いことがうかがえる。

図表
図表

3.家事・育児の分担に満足している女性は、キャリアプランを描いている

拙稿「キャリアを決めるのは自分か、会社か~キャリアプランをもつ人の少なさから考える「キャリア自律」支援~」でも述べたように、現時点でキャリアプランを描いている人は少数派である。ゆえに、キャリアプランを有する人とは、キャリア形成意識の高い希少な層だと捉えることができる。

図表2は、そのようなキャリアプランを子どもの誕生前には持っていたというキャリア形成意識の高い男女のうち、現在「5年後のキャリアプランを描いている」人の割合を配偶者との育児分担・家事分担との満足度別に比較したものである。

まず男女ともに、家事・育児の分担に満足している人のほうが、5年後のキャリアプランを描けている傾向にあるが、とりわけ女性でその差が顕著である。

特に、配偶者との家事分担については(図表上)、男性の場合は、家事分担の満足度とキャリア形成意識に明確な関連はみられないが、女性の場合には、家事の分担の満足度によって、キャリア形成意識に大きな差が生じている。近年、男性の家事時間は増加しているものの、いまだ女性に偏りがあり、洗濯や食事づくりなどの日常的に欠かせない家事は妻が担っているケースが多い(注3)。男性の家事へのかかわりは、その時間や内容を踏まえても、依然として補助的な側面が強いと考えられる。

このような状況のなか、妻が満足する水準まで家事分担ができている場合、それは妻のキャリア形成を後押しする行為とも考えられ、こうした夫婦関係が妻のキャリア意識向上に寄与していると考えられる。

図表
図表

図表
図表

4.男性の育児休業を家事・育児スキルの向上の機会だととらえる

子どもの誕生などのライフコースの変化にかかわらず、それぞれがキャリアプランを描き続けるためには、家庭での協力が非常に重要であるということが見えてきた。

特に、女性側は、配偶者との家事・育児の分担の満足度に応じて、キャリア形成意識に大きな差が生じている。ただし、これはあくまで「満足度」であって、分担の平等さそのものではない。完璧な平等を目指すというよりも、夫婦双方が納得し合える形で役割を分担し、それぞれが家庭生活も職業キャリアも前向きに取り組めることが理想だろう。その際、妻自身が自ら引き受けたいなら問題はないものの、「夫に家事・育児のスキルがないから、やむを得ず妻が多く引き受けている」のであれば、本質的に納得した分担とはいえない。真の納得感を得るためには、夫婦ともに一定の家事・育児スキルを身につけたうえで、分担方法について話し合いを重ねるべきである。

では、どのようにして夫婦の家事・育児スキルのバランスを取ることができるのか。例えば北欧のノルウェーやスウェーデンでは、父親専用の有償の育児休業期間があり、両親が交代で取得することが基本である。これは、女性の育児休業期間を短くし、職業キャリアへの影響を少なくするだけではなく、男性が単独で育児休業を取得して家事・育児を一人で担うことで、家庭での役割の自立した担い手に変化するという効果も期待できる(注4)。

一方、日本では、育児休業を男女が交代で取得する事例は少なく、男性の育児休業取得により、夫の昼食づくりなど、妻の家事負担がかえって増したとの声も少なからず聞こえてくる。そのようななか、2025年4月から、子の出生後の一定期間内に夫婦の両方が14日以上の育児休業を取得した場合に、給付率が80%(手取りで10割相当)になる出生後休業支援給付の制度がスタートした。これにより、今後、男性の育児休業取得者はより増加していくと考えられる。このタイミングを活用し、夫婦で家事・育児スキルを均等にすることを目指すのも有効なのではないだろうか。男性が育児休業中にこれらのスキルを高めることができれば、復帰後も家事・育児分担が円滑になり、夫婦両者のキャリア形成にも良い影響をもたらすと考えられる。

加えて、家事・育児を外部化することで、負担の総量を減らし、分担しやすくすることも一つの改善策である。今回の当社アンケートによると、高校生以下の子どもと同居する就労者のうち、「家事代行サービスやベビーシッターなどの育児支援サービスを積極的に利用している、またはしていた」と回答した人は全体の約4人に1人である(「あてはまる」4.0%、「どちらかというとあてはまる」20.1%)。経済産業省の調査報告書(注5)によると、家事支援サービスを利用しない理由の最多は「所得に対し価格が高いと思われるため(20.01%)」、次いで「他人に家の中に入られることに抵抗があるため(15.56%)」であった。このような心理的抵抗感については、回数を重ねることで軽減できる可能性があるため、まずは期間や回数を限定してトライしてみることも一案である。加えて、外部化することで、従来無償で担われてきた家事・育児は、それなりの費用がかかる「労働」だということを夫婦で認識するきっかけにもなりうる。自治体や勤務先によっては、家事・育児支援サービスの補助制度を整備している場合もあるので情報を調べてみるのもよいだろう。

5.性別役割への無意識な期待に、一人ひとりが気づくことから

最後に、夫婦間の家事・育児分担は、当事者だけで解決できる問題ではないことを指摘しておきたい。日本においては、男性が家庭で家事・育児を担うことに対する職場の理解が十分とはいえない。たとえば、女性が子育てや家庭との両立のために勤務時間を短縮することは一般的に受け入れられているが、男性の場合にはこのような選択をする人は依然として少ない。そのため、男性が家事・育児に積極的に参加するためには、女性以上に強い意志と周囲の理解を得るための説明などが求められる現状がある。

本稿の読者のなかにも、「男女とも家事や子育てに参画すべき」と考えつつも、男性社員が「子育てのために勤務時間を短縮したい」と発言した場合、全く驚かない人は少ないのではないだろうか。反応してしまう背景には、男性に対して「フルタイムで仕事に専念すべきだ」という無意識の期待が存在していることがある。

社会学では、「社会的な役割が、人の行動やアイデンティティを方向づける」とする考え方があり、人は性別役割に期待される行動をとる傾向がある。つまり、私たちの無意識の期待や反応の積み重ねが、男性の家庭進出や女性のキャリア形成の妨げの一つともなりえる。今後、男女ともに家事・育児に責任を持つことが当然となる社会をつくるためには、私たち一人ひとりが性別に対する無意識の期待に気づき、それらを見直していく必要がある。


【注釈】

  1. シャドウワークは、イヴァン・イリイチの造語。落合恵美子『親密圏と公共圏の社会学』(2023年)によると、資本主義的分業のもとで女性たちの主婦化にともない「女性の家事労働やケアや、空気や水のように価値がなく、目に見えず、自由に際限なく消費できるものとされた」とある。

  2. 内閣府『男女共同参画白書 令和5年版』によると、共働き夫婦であっても家事関連時間の77.4%を妻が担っており、社会での女性活躍の妨げになっていることが指摘されている。

  3. 総務省統計局「我が国における家事関連時間の男女の差~生活時間からみたジェンダーギャップ~」(2023年)によると、食事作りや食事の片づけなど「食事の管理」に費やす時間の男女差が非常に大きい。

  4. 中里英樹『男性育休の社会学』(2023年)では、北欧の育児休業に関する調査に加えて、日本で単独育児休業を取得した男性にインタビュー調査を行った結果「単独で日中の子育てを継続的に担うという経験は、育児や家事を自分の責任と考えるようになる、さらに母親と父親の違いについての認識を見直すうえで大きな意味を与えているようである。この認識の変化は、家族関係や仕事にも影響し、実際に働き方を変えた人もいる。」と述べられ、父親が単独で家事・育児を担うことで、そのスキルだけではなく、考え方や家族関係、働き方にも影響があることがうかがえる。

  5. 経済産業省「家事支援サービスの活用にかかる取組について」(2024年)

 

【関連レポート】

福澤 涼子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

福澤 涼子

ふくざわ りょうこ

政策調査部 副主任研究員
専⾨分野: 資産形成

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ