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2025.09.25
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生成AIは「仕事の道具」から「生活インフラ」へ
~大規模調査が示すAI利用実態の最前線~
柏村 祐
- 目次
1.AIは「仕事の効率化ツール」を超えた
2022年に登場して以来、生成AIは主に「仕事の効率化ツール」として注目を集めてきた。知的生産のあり方を根底から変え、働き方改革を加速させる切り札と見なされてきたのである。
しかし、その後の利用実態は当初の想定を大きく超えて変化している。全米経済研究所(NBER)が2025年9月に発表した論文『How People Use ChatGPT (No. 34255)』は、世界で最も普及している対話型AIの一つを対象に利用動向を分析し、その用途が業務領域から個人の学習や生活支援といったプライベートな領域へ急速に拡大していることをデータで明らかにした。
この変化は何を意味するのか。生成AIは単なる「仕事の効率化ツール」にとどまるのか、それとも検索エンジンやスマートフォンのように、社会に不可欠な「生活インフラ」として組み込まれていくのか。しかし、AIが生活インフラ化すれば、デジタル格差により高齢者をはじめとする一部の層が取り残されるリスクも生まれる。本稿では、論文の知見を整理し、誰もがAIの恩恵を受けられる社会に向けた企業や政策の対応について考察する。
2.用途は仕事か?仕事以外か?
本レポートが考察する論文は、全米経済研究所(NBER)が2025年9月に発表したワーキングペーパー『How People Use ChatGPT (No. 34255)』である。この調査は、ある代表的な対話型AIサービスがローンチされた2022年11月から2025年7月までの期間に収集された大規模な会話ログデータを分析対象とし、ユーザーの属性と利用目的の変遷を明らかにしている。プライバシーに配慮し、個人を特定しない形で自動分類されたデータが用いられている。
1) 爆発的な利用者数の増加
本論文によると、まず、利用者数が驚異的なペースで増加している点が傾向として挙げられる。2025年7月時点で週間アクティブユーザー数(WAU)は7億人を超え、世界の成人人口の約10%に達している。2022年11月のサービス開始からわずか2年半余りで、一部の先進的な層だけでなく、広く一般に浸透したことを示す数字である。

2) 主流の用途は仕事でない
つぎに、本論文の最も重要な発見は、このAIサービスの利用の重心が仕事から個人の生活へ大きくシフトしていることである。仕事関連の利用も増加しているものの、仕事用途でない利用の伸びがそれを圧倒し、今やAI利用の主流はプライベートな用途となっている。
図表2は、全メッセージ数に占める仕事関連と仕事関連でない利用割合を2024年6月と2025年6月で比較したものである。2024年6月時点では仕事関連でない利用が53%であったが、わずか1年後の2025年6月にはその割合が73%にまで急増し、利用の重心が大きく変化したことが示されている。

3) 仕事用途でないAI利用目的は3分野に集中
さらに、仕事用途でないAIの利用目的は多岐にわたるが、その大半は日常生活における課題解決や情報収集に関連する3つのカテゴリーに集約されている。専門的な用途よりも、より普遍的で実用的なニーズに応える形で利用が拡大していることがわかる。図表3は、2025年6月時点でのAIとの「会話」の目的別シェアを示したものである。「実用的なガイダンス」が28.8%、「情報検索」が24.4%、「文章作成・編集」が23.9%を占め、これら上位3分野で全体の77.1%に達している。

4) 利用者層の多様化
最後に、ユーザー層もまた当初の想定から大きく変化している。サービス開始当初に指摘された性別による偏りは解消された。図表4右は、利用者の名前から性別を推定した比率の推移を示したものである。サービス開始当初は男性と推定されるユーザーが約80%を占めていたが、その差は徐々に縮小した。2025年初頭に男女比が逆転し、2025年6月には女性と推定されるユーザーの比率(52.4%)が男性を上回った。

これらの数字が物語るのは、私たちが目の当たりにしている「AIの位置づけの根本的な変化」である。
当初、生成AIは「Excel作業を効率化する」「会議の議事録を自動作成する」といった、いわば「デジタル版のアシスタント」として注目された。しかし実際には、人々は全く違う使い方をしていた。「子どもの宿題を一緒に考える」「料理のレシピを相談する」「体調不良の対処法を聞く」など、AIは仕事の道具ではなく「身近な相談相手」として受け入れられているのだ。
この変化を象徴するのが、女性ユーザーの急増である。一般的に、新しいテクノロジーは男性の関心を先に引く傾向があるが、AIは逆のパターンを示した。これは、AIが「技術的な新奇性」よりも「日常生活での実用性」で評価されるようになったことを意味している。
3.AIが生活インフラ化する社会への課題と対応
1) 「仕事ツール」から「生活インフラ」への進化
論文が示すデータは、生成AIがもはや「ホワイトカラーの生産性向上ツール」という限定的な存在ではないことを明確に物語っている。むしろ、日々の疑問に答え、学習を助け、文章作成を支援する「生活課題の解決パートナー」へとその役割を進化させている。
この変化は、かつて携帯電話が単なる通信手段から、決済、情報収集、エンターテイメントなど多様な機能を担う「スマートフォン」という生活必需品へと変化した歴史的経緯と重なる。今後、人口減少に伴う労働力不足により各種サービスの人的対応が限定される中で、AIは単なる「情報検索の相手」を超え、健康相談、行政手続き支援、買い物支援など、従来は人が担っていた生活サービスを代替する真の「生活インフラ」として機能することが期待される。
2) 「AIリテラシー格差」の懸念
利用がすべての世代・層に拡大する一方で、新たな格差が生まれるリスクも浮上している。特に深刻なのは、高齢者層がAI活用から取り残される可能性である。電気・水道・ガスのような従来の生活インフラと同様に、AIが日常生活に不可欠となれば、デジタル機器を使いこなせない層との間に「生活格差」が生じかねない。
この格差は、企業内では生産性の二極化を招き、社会全体では高齢者や非デジタル人材が情報や機会から取り残される「社会的排除」につながる危険性をはらんでいる。
3) 企業・教育・政策が今すぐ取るべき行動
この「生活インフラ化するAI」という現実を踏まえ、各主体は以下の対応が求められる。 企業は業務マニュアルにAI活用を組み込むといったレベルを超え、従業員が公私にわたりAIを使いこなすための「生活リテラシー」向上の支援が不可欠となる。福利厚生の一環としてのAI研修や、AIを活用したメンタルヘルスサポートなども有効な一手となり得る。
教育については、論文では利用目的の約10%が「個別指導・教育」であったことが示されている。学生がAIを学習に組み込むことを前提とし、単に利用を禁止するのではなく、批判的思考を養いながらAIを「賢い補助輪」として活用する能力と、安易な依存を防ぐ倫理観を両立させる教育プログラムの設計が急務である。
政策においては、誤情報の拡散や個人情報漏洩、依存といったリスクへの規制やガイドラインの整備に加え、AIを誰もが安全に利用できる社会インフラとして位置づけるための制度設計が求められる。特に、AIリテラシー格差を是正するための公的教育プログラムの提供は、喫緊の課題といえるだろう。

NBERの論文は、生成AIが私たちの想像を上回るスピードで社会の基盤に浸透しつつある現実を浮き彫りにした。もはやAIは一部の専門家やビジネスパーソンのための道具ではない。
生成AIの真価は、単なる仕事の効率化にとどまらない。むしろ、少子高齢化が進む社会において、病院の受付でAIが問診を支援し、行政窓口でAIが手続きを案内し、独居高齢者の見守りをAIが担う、「人とAIが協働する生活インフラ」を実現できるかにかかっている。誰一人取り残さないAI社会に向けた環境整備こそが、今を生きる私たちに課せられた責務である。
今、私たちは「生活インフラ化するAI」を前提に、社会システム全体を再設計する岐路に立っている。企業、教育機関、そして政府は、この不可逆的な変化を直視し、リスクを制御しながらその便益をいかにして最大化するかという問いに答えを出さなければならない。
柏村 祐
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。
- 柏村 祐
かしわむら たすく
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ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション
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