ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

自動運転の社会実装に向けた「需要」と「受容」

~人口減少社会におけるテクノロジーの社会受容に向けて~

宮木 由貴子

目次

1.進む移動の自動運転化

自動運転の開発と社会実装が、国内外で進められている。現在、国内の実証実験の多くは乗り合い型の自動運転バスである。高齢ドライバーの自家用車の運転継続が懸念される中、公共交通機関が少ない地方部などでは代替交通手段の1つとして自動運転バスへの期待が高まっている。日本政府は2027年度までに100か所以上で無人自動運転移動サービスの実現を行うとしている。

一方、アメリカや中国では自動運転タクシー(ロボタクシー)が積極的に展開されており、地域によっては既に商用化されている。日本国内でも、ロボタクシーの試験走行や実証が進められており、今後の展開が期待されている。乗降場所が決まっている乗り合い型のバスに比べて、タクシー型は乗降場所が柔軟である点への期待が高い。特に、自家用車依存度の高い地方部では「バス停まで歩く」習慣がないことが多く、ドアツードアでの移動ニーズが高い。この点から、商用化された際の運賃の差を考慮しなければ、タクシー型の代替移動手段は支持が高いと考えられる。

実際、2022年に筆者が経済産業省・国土交通省委託事業と内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)事業とのジョイント調査として実施した「自動車・自動運転に関するアンケート調査」(注1)によれば、「自分の地域で走るならどういう自動運転がよいか」という質問に対し、上位3位は自家用車の自動運転化があげられ、公共交通としては4位にあげられた自動運転タクシーがトップとなり、その次に自動運転バス(「ゆっくり走行する小型のカートやバス」)が続いている(図表1)。

なお、自家用車の自動運転化については、現状では自動運転技術を搭載した「先進安全自動車(ASV:Advanced Safety Vehicle)」という形での展開が進んでいる。ただし、これは「自動運転的なもの」(自動運転区分レベル2)であって、自動運転区分で「レベル3」以上とされる「自動運転」というカテゴリーには入らない(注2)。とはいえ、衝突被害軽減ブレーキやペダル踏み間違い時加速抑制装置、定速走行機能などの機能が高度化し、一部の機能の新車への標準搭載が進んでいることもあって、自家用車の安全性と利便性は大きく向上している。特に高齢ドライバーの安全性が社会課題となる中、ASVへの乗り換えによる運転寿命の延伸への期待も高い。

社会課題のソリューションとして自動運転化への期待が高まるなか、本稿では自動運転の社会実装の進展に向けたあり方について、社会受容性の観点から考察する。

図表
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2.自動運転の「社会受容」の重要性

ドライバー不足の解消に加え、事故軽減や渋滞解消等、様々な社会課題へのソリューションとして自動運転に対する期待が高まる中、導入に際して懸念されるのが安全性とコストである。これらの点については、全国各地で展開される自動運転の実証実験において、議会等で必ず議論になるといってよい。新規のモビリティ(移動手段)が公道を走行すれば、その利用の有無にかかわらず、誰もが交通の場面で遭遇する機会がある。一般車両と同様に、交通事故は人命にかかわるため、これらの導入には慎重を期す必要がある。実際に、実証実験段階でも事故やトラブルは生じている。

しかし、既存の交通においても事故はなかなかゼロにはならない。また、ヒューマンエラーが必然であるのと同様、システムエラーもまた必然である。これらの点に鑑みると、自動運転において今後事故が「絶対に起きない」ようにすることは不可能である。そうした前提のもと、一定の危険性や困難性があるものの実装にあたっては、「社会受容」の観点が不可欠となる。実際、政府も自動運転の社会実装を「技術開発」「法整備」「社会受容性醸成」の3本柱で捉えて推進している。

では、「社会に受容される」とは何か。筆者は社会受容性について「①社会に有用であるとの認識の普及」の上で、「②技術の理解」「③ルールの浸透」が進み、一定の「④信頼の獲得」がなされた上で、「⑤共生に向けた効果の最大化とリスクの最小化に個人(広義の消費者)を含む社会全体で関与」することと考えている(注3)。そしてその醸成に向けては、エリアや状況ごとに「今なぜ自動運転が当該地域で必要なのか」(WHY)と、自動運転で実施可能なことと不可能なことを含む「自動運転とはどのようなものか」(WHAT)の周知が不可欠であり、それらの認知・理解を踏まえた上で個々に創出される実装の方法(HOW)が重要であると主張してきた(注4)。

3.2つの視点でみる「需要」と「受容」

私たちは日常において、数々のリスクの存在を受容し、リスクを自ら回避する努力をしつつ、様々な技術やモノ・サービスの恩恵にあずかっている。この「自ら回避する努力」は、筆者の主張する社会受容性の定義の「⑤共生に向けた効果の最大化とリスクの最小化に個人(広義の消費者)を含む社会全体で関与」に該当するものである。

例えば、年間2,600人以上の交通事故死亡者(注5)がいながら、自動車等は社会に存在している。水難事故については救助も入れると年間1,700人以上(注6)が危険な目に遭っているが、遊泳自体が禁止されることはない。年間2,000人以上の食物の誤えんによる窒息死(注7)がありながら、原因となる餅などが禁止されることはない。もちろん、リスクの種類や数によっては法規制で管理されているものもあるが、多くのものは一定のリスクが付帯していても社会から排除されていない。ただし、リスクを所与のものとして扱うということではない。事業者等が物理的にリスクを軽減する工夫をしたり、行政等がルール策定や注意喚起をするとともに、消費者自身がリスクを理解して回避する形で、産官民がそれぞれの立場からリスクの最小化に向けた努力をする。自動運転についても、一定のリスクや限界があることを前提に、それらを上回る意義と必要性(需要)が認識され、産官民でリスクを最小化してその存在を支えることが、社会に受け入れられること(受容)であるといえる。

実際、全国各地での自動運転実証の際は、住民へのアンケート調査などで必要性の有無(需要)が問われるケースが多い。ただし、「需要」と「受容」には社会的観点と個人的観点の2つの側面があることを分けて捉える必要がある(図表2)。

図表
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たとえば住民は、「地域に自動運転バスは必要か(社会における需要)」「地域で自動運転バスが走行することに賛成か(社会としての受容)」という点については概ね肯定的である。しかし、「自家用車の代わりに自動運転バスを使うか(個人としての需要)」「自動運転バスに乗るためにバス停まで歩くか(個人としての受容)」といった点については慎重になる。特に当該地域で廃路線や公共交通の減便が続いていたり、高齢の親の運転継続に悩んでいたりすると、「移動手段として地域にあってほしいし、高齢者のために使われたらよいと思うが、自分自身は当面使わない」という考えを持つケースが散見される。このようなケースでは、調査で「需要がある」との回答を得て実装しても、利用者数が思うように伸びなかったり、個人として受容されていないことからクレームにつながったりという事態につながる。

筆者は国などによる自動運転に関する大規模アンケート調査に2018年から2022年まで5年にわたり携わったほか、全国各地の実証地でヒアリングや観察調査を重ねた知見から、こうした個人の需要と社会の受容とのギャップを多々体感してきた。このため、地域展開においては、既述した「WHY」「WHAT」がポイントとなるのである。すなわち、「なぜ」それが今その地域に必要なのか、それにより何がもたらされるのかという点の周知徹底である。この点については、今後自動運転の実証を考える各地域に対して訴えたい点であるとともに、AIのような新規テクノロジーの導入等、様々な局面でも重要な観点であると考える。

4.「需要」がもたらすテクノロジーの「受容」

第一生命経済研究所が実施した第13回ライフデザイン調査では、テクノロジーについて興味深い結果が得られている。一般に女性は男性に比べてテクノロジーに苦手意識や不安感があり、テクノロジーへの接触機会についても少ないなど、全体的に否定的で受容度が低いとの認識がある。実際に女性では「パソコンを暮らしや業務に取り入れるときに、基本的に自分で対応できた」「新しい技術は積極的に導入して、生活の利便性を高めたい」などの割合が男性より低く、不安感も高いなどの傾向が確認された(図表3)。

しかし、「携帯電話やスマートフォンを暮らしに取り入れるときに、基本的に自分で対応できた」に関しては、ほとんど男女差がない。携帯電話やスマートフォンは男女にかかわらず必需品となっており、個人的に明確な「需要」がある。つまり、利用者における携帯電話やスマートフォンの「WHY」(なぜそれが必要か)と「WHAT」(それは何をもたらし、何ができて何ができないのか)が明確なのである。これがテクノロジーに後ろ向きといわれる女性において、導入に際しての負荷やハードルを乗り越える要素となった可能性がある。つまり、強い需要があれば、テクノロジーの苦手意識や面倒な作業というマイナス側面を凌駕し、行動変容を含めて受容する余地があるということだ。加えて、安全な利用に向けて、個人がサイバーリスク等についても「自ら回避する努力」をするようになる。自動運転で考えれば、明確な需要は自家用車から公共交通利用へのシフトや、「バス停に行く」などの行動変容にもつながる可能性がある。こうして得られた受容と行動変容は新たな需要を生み、導入されたテクノロジーは日常のツールとして常態化していくと考えられる。

さらに言えば、女性のテクノロジーに対する感覚においてはアンコンシャスバイアス(無意識による思い込みや偏見)も多々あり、実際は「やればできる」部分が多分に存在するといえる。自動運転を含む新規テクノロジー導入においては、そうしたバイアスの存在を前提に、体験やコミュニケーション機会を増やすことでハードルを下げて親和性を高めることも効果的であるといえよう。

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5.人の「安全に、うまく使う」意識が技術の可能性を最大限引き出す

人口減少と労働力不足が進む社会において、技術は「より暮らしを便利で快適にするもの」から、「暮らしに欠かせないもの」へとシフトしている。とりわけモビリティは、特に移動手段が不足する地方等において、喫緊の課題である。自動運転のような技術を安全かつ効果的に活用するには、技術開発と法整備に加えて、社会と個人における受け入れと協力体制が必要であるという点で、社会受容性の醸成が不可欠なのである。消費者自身による「効果的な技術活用」の意識は、技術の早期社会実装とリスク低減をもたらし、その結果として高齢化やマンパワー不足などの社会課題解決を早める一助となるだろう。

今後、社会課題を自分事として認識し、需要とリスクのバランスを自らが考え、自ら変わる意識を持てる人や地域が、技術の効用を最大限引き出し、人口減少社会におけるテクノロジーの恩恵を享受していかれるものと考える。そのためには、まず導入を目指す技術に期待される「用途」を地域や対象ごとに明確にし、個人需要を喚起することが最初の一歩となる。自動運転の社会実装に向けた需要と受容の相互作用においては、地域や人のニーズに合った適切な車両と技術の選択、走行ルート設定や車両デザイン等の視点も欠かせない。こうした総合的な戦略が、「暮らしに欠かせない新技術」の早期実装を実現するだろう。


【注釈】

  1. 2018年に第一生命経済研究所で「自動車・自動運転に関する意識調査」を実施したのち、2019年・2020年には経済産業省・国土交通省委託事業として、2021年・2022年には経済産業省・国土交通省委託事業と内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)事業とのジョイント調査として「自動車・自動運転に関するアンケート」を実施。

  2. 自動運転は以下の0-5レベルに分類されている。

  • レベル0(運転自動化なし)
  • レベル1(運転支援):システムが車両制御の一部(システムがアクセル・ブレーキまたはハンドル操作のいずれか)を実施。運転の監視や責任はドライバー。
  • レベル2(部分運転自動化):アクセル・ブレーキ、ハンドル操作など複数項目をシステムが制御。一定条件下でのみ作動。運転の監視や責任はドライバー。
  • レベル3(条件付運転自動化):特定の条件下で、全ての運転操作(加減速、操舵、監視)をシステムが実施。システムからの要請時には人間が運転を引き継ぐ必要。
  • レベル4(高度運転自動化):特定の条件下でのみ、システムが完全に運転を自動化。
  • レベル5(完全運転自動化):すべての状況・環境下で、システムが完全に自動運転。
  1. 宮木由貴子「自動運転移動サービスの『社会受容』とは何か」国際交通安全学会 IATSS Review Vol.48 No.2 Oct. p.42,2023
    「自動運転の社会的受容を『利便性向上や社会課題解決に向けた技術の導入が、①社会に有用とされるものの新たな課題やリスクを生じさせる可能性がある場合に、②技術の理解と③ルールの浸透による④信頼獲得の下、⑤共生に向けて課題やリスクを最小化し、それらを安全かつ効率的に作用させて期待される利益や効果を高めることに、個人(広義の消費者)を含む社会全体で 寄与できる土壌が生成された状態』とし(後略)」

  2. 宮木由貴子「社会的受容性の醸成に向けた調査と評価」SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)最終成果報告書p.165-171,2022

  3. 交通事故による死者数は、2,663人(警察庁調べ、2024年)

  4. 水難者は1,753人、うち死者・行方不明者数は816人(警察庁調べ、2024年)

  5. 家庭内における主な不慮の事故のうち、「気道閉塞を生じた食物の誤えん」による死者数は2,213人(厚生労働省「人口動態調査」、2023年)

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本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

宮木 由貴子

みやき ゆきこ

常務取締役・ライフデザイン研究部長・首席研究員
専⾨分野: ウェルビーイング、消費スタイル・消費者意識、コミュニケーション、モビリティ

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