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2025.06.19
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AI(人工知能)
ジェンダーギャップ解消に不可欠な生成AIの活用
~ジェンダーギャップ指数118位からの脱却に向けて~
鄭 美沙
- 目次
1.2025年ジェンダーギャップ指数118位
2025年6月、世界経済フォーラム(WEF)が2025年版「ジェンダー・ギャップ報告書」を発表した。これは各国の男女格差を指数化し、順位付けしたものである。日本は148か国中118位で、2024年と同順位であった(図表1)。
指数は、経済参画・教育・健康・政治参画の4つの分野で、データに基づいた計14の指標を総合評価したものである。0が完全不平等、1が完全平等を表している。評価方法の詳細については、拙稿「教育格差が経済の男女格差を広げる?~ジェンダーギャップ指数に表れない日本の深刻な教育格差~」に記載している。

2025年は総合順位こそ変わっていないものの、経済分野に改善がみられた。報告書によると、女性の労働参加率が54.8%から55.6%になり、女性管理職の割合は14.6%から16.1%に上昇した。結果として、経済分野のスコアは0.568から0.613に上昇し、順位も120位から112位になった。依然として改善の余地は大きいが、女性閣僚の割合減少により後退した政治分野に比べて進展がみられる。
しかし、職場に急速に普及しつつある生成AIが、こうしたジェンダーギャップ解消の動きを阻害する可能性がある。本稿では、(1)生成AIの利用頻度の差異、(2)生成AIによる代替可能性が高い職種の分布、(3)AI開発分野におけるジェンダーの偏り、の3点から生成AIが与えるジェンダーギャップへの影響について考察する。
2.生成AIの利用頻度の差異
ハーバード・ビジネス・スクールのワーキングペーパー「Global Evidence on Gender Gaps and Generative AI」(2024年)は、世界各国の計14万人を対象とした18の調査および主要な生成AIの利用者データを分析した。その結果、女性は男性よりも生成AIを利用する割合が一貫して低い傾向がみられた。たとえば、米国の労働者や大学生、一般成人などを対象にした複数の調査は、いずれも女性の利用率は男性よりも10~20%低かった。調査は、地域や職種、利用機会を考慮してもなお、女性は男性より使う頻度が少ないと結論づけている。
当研究所が行った調査でも、「日常的にAI(人工知能)を使っている」に対して、あてはまる」と「どちらかといえばあてはまる」を回答した合計割合は、男性で26.2%、女性で20.9%であった(図表2)。こうした男女差は年代を問わず生じている。

3.利用頻度の差を生む自信と時間
なぜ女性の方が、利用頻度が低いのだろうか。テクノロジーに不慣れという単純な問題ではなく、社会構造に根ざした要因もあると考えられる。
1つ目の要因は、一般的にリスク回避的な傾向が女性に多くみられることだ。たとえば、金融広報中央委員会の「金融リテラシー調査」(2022年)では、「10万円を投資すると、半々の確率で2万円の値上がり益か、1万円の値下がり損のいずれかが発生するとします。あなたなら、どうしますか。」との問いに、投資しないと回答した、つまりリスク回避的であった女性は83.9%で、男性64.2%より高かった。これは投資に関するリスク選好だが、女性のこうしたリスク回避傾向は分野を問わず指摘されている。生成AIにおいても、そのリスクを過度に捉え、利用を躊躇している可能性がある。
実際、デロイトが公表した「Deloitte's 2024 Connected Consumer Survey」によると、利用前に生じる生成AIへの不安感は、利用経験を重ねることで軽減されるものの、タスクやプロジェクトで実践的に使う段階になっても、不安を感じる女性は男性より多い。また、生成AIを利用する分野として、個別最適化された金融アドバイスや医療チャットボットとの対話など、個人情報をより多く用いる分野において、女性は男性に比べて利用への関心が低い傾向がみられた。生成AIでは、入力された情報がAI自体の学習や機能強化に利用される。個人情報を含む入力した情報が自分の知らないところで再利用されることが、特に女性の利用を慎重にさせると考えられる。
要因の2つ目は、ITに関する知識についての自己評価の低さである。当研究所の調査では、「デジタルやITに関する知識について、同世代と比較して、あなたはどのようなレベルにあると感じているか」を聞いた結果、「とても低い」「どちらかといえば低い」の合計割合が女性63.8%、男性42.7%であった(注1)。実際の知識レベルにかかわらず、自信のなさが新技術の利用をためらう要因になっている可能性がある。
3つ目は、生成AIを試す時間や学ぶ時間の不足である。共働き世帯において、6歳未満の子供がいる世帯の家事関連時間は、夫が1時間55分、妻が6時間33分であった(総務省統計局(2023))。日常生活において、生成AIに関心を持ち実際に利用したり、それに向けて勉強する時間を、日常生活の中で女性は十分に確保しづらい。そうした勉強不足や経験不足が、上述の利用に対する不安感や自信のなさにつながると考えられる。
生成AIは生産性向上をもたらすといわれている(柏村(2025))。同じ量の仕事であれば、生成AIを使いこなして仕事をより早くこなせる人の方が評価されるだろう。使用頻度の差が、人事評価の差につながり、結果として賃金格差を生む可能性がある。さらに、生成AIはユーザーの利用データをもとに学習し、機能を強化させる。女性ユーザーが少ないと女性のニーズや嗜好が十分に反映されず、ジェンダーバイアスを含んだアウトプットを生み出すリスクもある。
4. 生成AIによる代替可能性が高い職種の分布
国際労働機関(ILO)の報告書「Generative AI and Jobs: A Refined Global Index of Occupational Exposure」(2025年)によると、世界の労働者の4分の1が何らかの形で生成AIの影響を受ける可能性があるとされる。なかでも、高所得国において、AIによるタスク自動化のリスクが最も高い職業に就く割合は男性で3.5%である一方、女性は9.6%と約3倍にのぼると指摘されている。これは、データ入力やスケジュール管理など、生成AIが代替しやすい事務職に女性が多く従事しているためである。これらの職業が完全に消滅しないとしても、業務範囲の縮小や賃金低下、雇用の不安定化といった影響が生じる可能性がある。
さらに、LinkedInのレポート「Generative AI and Gender」(2024年)は、生成AIの各職業に与える影響を3つに分類した(図表3)。基本的に、「強化される」「影響を受けにくい」が生成AIによって代替される可能性が低い職業で、「混乱させられる」は代替される可能性が高い、あるいはより専門性を高めるなど職業スキルの強化が特に必要な職業と解釈できる。

74か国を対象にそれらの職種の男女比を調査した結果、約96%の国で女性は男性よりも「混乱させられる職業」に就いている割合が高いことが明らかになった。さらに、約96%の国で女性の方が「強化される職業」に就いている割合が低く、同様に約93%の国で「影響を受けにくい職業」に就いている割合が低かった。たとえば、アメリカでは、「混乱させられる職業」に就いている人は、男性で25.5%であるのに対し、女性は33.7%と男性より高い。一方、「強化される職業」に就いている男性は24.1%であるのに対し、女性は20.5%と低い。調査対象に日本は含まれていないが、ほとんどの国でこうした傾向がみられるなか、日本だけ例外とは考えづらい。
女性が就く割合が高い職種が生成AIによって代替されると、労働参加率の低下や賃金のジェンダーギャップが広がるリスクがある。
5.AI開発分野におけるジェンダーの偏り
生成AIの利用頻度や代替される職業に加え、開発分野においてもジェンダーギャップが生じている。日本における2023年のIT技術者の男女比率は、男性79%、女性21%と大きく開いている(内閣府男女共同参画局(2025))。さらに、情報通信業における女性比率は30.1%、うち情報サービス及びインターネット附随サービス業は27.7%と、全産業の平均よりも低い。
こうしたジェンダーギャップの原因の一つは、理工系の学部に進学する女性が少ないことにある。男性の学部進学者のうち、理工系(理学部+工学部)の割合は28%(約8.4万人)である一方、女性は約7%(約1.9万人)と、OECD平均の15%よりも大幅に低い(教育未来創造会議(2022))。低い進学率の背景には、「女性は数学が苦手」というステレオタイプやロールモデルの少なさがある。詳細は、拙稿「教育格差が経済の男女格差を広げる?~ジェンダーギャップ指数に表れない日本の深刻な教育格差~」に記載している。
デジタル分野は、労働需要の増加や賃金上昇が見込まれている。こうした分野のジェンダーの偏りは、女性の就業機会の減少のほか、商品・サービス開発における女性ユーザー視点の欠如やイノベーションの機会を逃す懸念がある。
6.生成AIをジェンダーギャップ解消のチャンスに
以上、(1)生成AIの利用頻度の差異、(2)生成AIによる代替可能性が高い職種の分布、(3)AI開発分野におけるジェンダーの偏り、の3点から、生成AIが女性の労働参加率低下や男女の賃金格差拡大など、経済分野のジェンダーギャップ解消を阻害する可能性についてみてきた。以下、望ましい対策を3点挙げる。
1つ目は、企業主導の人材の底上げである。企業は従業員のAI利用頻度やスキル習得状況を可視化し、利用が進んでいない層を特定して重点的な支援策を講じる必要がある。たとえば、業務時間内の実践的な研修など、生成AIに関する計画的なスキル底上げ策を実施することで、全体のスキルレベルの向上と格差の縮小を図ることが重要である。生成AIは生産性向上をもたらすとされているが、それは利用が広く浸透することが前提となる。利用者の偏りは想定した成果を得られない可能性があり、それを放置することは従業員・企業双方にとってマイナスの影響を生じさせうる。
職種が代替されることについても、まず企業には代替可能性の高い職種を特定し、その従業員に対する専門性の向上や、他の職種への転換支援が求められる。柏村(2025)が指摘するように、たとえば、定型的な事務処理を担当していた従業員が、その業務知識を活かして社内業務を効率化するツール開発に携わるなど、「AIエバンジェリスト」への転換を促すことも重要である。
2つ目は、男性の家庭進出である。女性の労働参加率は上がっているものの、先述のとおり家事時間の男女差は大きい。女性が仕事も家事も担っている状態では、生成AIなど新しい技術を日常生活で試す余裕を持ちにくい。経済分野のジェンダーギャップ解消には、家庭におけるジェンダーギャップ解消が不可欠である。その実現には、働き方改革による労働時間の削減のほか、仕事と育児を両立する男性のロールモデル創出など、これまで女性の社会進出のために行ってきた取組みを、男性の家庭進出にも積極的に展開すべきであろう。
最後に、開発分野におけるジェンダーの偏りについては、一人ひとりが「デジタルやITは男性的なもの」という無意識の偏見がないか見直す必要がある。そうしたバイアスは、子どもの進路を歪ませるほか、仕事を任せる際に男性に特定の業務が偏ったり、女性自身が苦手意識を持つ原因となる。
これまでエンジニアが担ってきたシステム開発やプログラミングは、生成AIによって高度な専門知識がなくても取り組める範囲が広がり、より多くの人に門戸が広がりつつある。今後は技術力だけでなく、問いを立てる力や倫理的判断力など「人間力」がますます求められるだろう。その結果、多様な人材が技術開発に携わることが、より良いテクノロジー創出に寄与すると考えられる。そうした認識を社会全体で共有すべきである。
生成AIの活用は労働環境に大きな変革をもたらす。現状、生成AIはジェンダーギャップを広げるリスクをはらんでいるが、多くの人が使いこなすことで、こうした格差を解消し、多様な人材が活躍できるチャンスにもなる。仕事に限らず、まずは身近な場面から積極的にAIを活用し、性別や年齢問わず挑戦する姿勢が求められる。
【注釈】
- 第一生命経済研究所「第12回ライフデザインに関する調査」2023年3月
【参考文献】
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柏村祐(2025)「遅れたら致命傷、日本企業が今すぐ打つべきAI戦略~スタンフォード大学が警告する『AI活用格差』の現実~」
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教育未来創造会議(2022)「我が国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について(第一次提言)」
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金融広報中央委員会(2022)「金融リテラシー調査(2022年)」
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総務省統計局(2023)「我が国における家事関連時間の男女の差~生活時間からみたジェンダーギャップ~」統計 Today No.190
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内閣府男女共同参画局(2025)「新たな『女性デジタル人材育成プラン』の策定に向けて」計画実行- 監視専門調査会
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Deloitte(2024) " Deloitte's 2024 Connected Consumer Survey"
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International Labour Organization (2025) "Generative AI and Jobs: A Refined Global Index of Occupational Exposure" ILO Working Paper 140
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LinkedIn(2024)"Generative AI and Gender" LinkedIn's Economic Graph
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Otis, Nicholas G., Solène Delecourt, Katelynn Cranney, and Rembrand Koning.(2024) "Global Evidence on Gender Gaps and Generative AI." Harvard Business School Working Paper, No. 25-023, October 2024. (Revised January 2025.)
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The World Economic Forum(2025) "Global Gender Gap Report"
鄭 美沙
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

