ヘルシンキ中央図書館の2階を訪ねて

~オープンでわくわくして役に立つ公共施設を~

重原 正明

要旨
  • 縁あってヘルシンキに行った際に、観光名所ともなっているヘルシンキ中央図書館に立ち寄った。様々な面に感動したが、このレポートでは社会教育の機能を持つ2階部分について紹介したい。
  • 2階部分の廊下には3Dプリンターなどの様々なモノづくりの機械が説明書付きで並んでいて、材料費のみで誰でも無料で使うことができる。オープンなスペースに工具が並んでいる姿は、使おうとする人との敷居を低くする効果を持つと考えられる。
  • ワーキングスペースとして1人用を含む様々な部屋が用意されているが、音楽スタジオなどを除き、すべてガラス張りになっている。通りがかりの人が他の人の仕事を見る機会が生まれ、創作の動機づけになると考えられる。
  • 廊下の端は広場になっていて、休憩時にくつろぐ場所として使われる。利用者の交流を通じて新たな仲間づくり、エコシステムの創造に役立っていると考えられる。
  • 図書館全体が「すべての人のためのもの」という思想に基づいて作られている。多くのものが無料で使えるだけではなく、高齢者や移民・外国人への配慮も感じる。
  • ヘルシンキ中央図書館の2階は「オープンで、わくわくして、役に立つ」場所であることで、訪れることが楽しく、訪れた人が何かを作りたくなる施設を実現している。日本の社会教育施設にはこのような場所は少ない。日本にも小さくてもこういう公共の社会教育施設が増えることを願う。
目次

1. ヘルシンキ中央図書館(Oodi)の2階とは

今年(2024年)の9月に国際会議に出席する途中で、フィンランドのヘルシンキを訪れた。その際に ‟Oodi”の愛称で呼ばれるヘルシンキ中央図書館(資料1)に入ってみた。

Oodiはヘルシンキ中央駅のすぐ脇、広場を挟んで国会議事堂と向き合うように立っている。ヘルシンキ市の施設ではあるが、国の援助も受けたフィンランド独立100周年記念プロジェクトとして、2018年12月5日のフィンランド独立記念日に開館したものである。その個性的な建物は観光名所ともなっており、筆者が訪れた際も校外学習と思われる子供たちが集団で通るのを多く目にした。

図表
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建物は3階建てで、1階は受付・観光案内所・映像ホール・多目的ホールなどがある。2階はワーキングスペースや音楽スタジオ、3Dプリンターなどの工作機械がある社会教育施設的なフロア。3階が開架の図書室となっている。

Oodiはその外観だけでなく、中身も個性的である。3階の両端にある大きなスロープや、書棚の間を自動運転で賢くゆっくり動く書籍運搬ロボット、さらにはユニセックスの個室式トイレ(注1)など、驚く楽しい体験はいくつもあったが、本レポートでは社会教育施設としての視点から、Oodiの2階について記すこととする。

2. 3Dプリンターなどが無造作に並べられた廊下

2階の中央は広めの廊下になっており、両側に3Dプリンターや大判プリンターなど様々なモノづくりのマシンが説明書付きで並んでいる。傍らにはミシン類が並ぶ大机もあったりする。そして利用者が思い思いにそれらを使い、自分の望むものを作っているようであった。OodiはこのスペースをKaupunkiverstas(Urban Workshop、都市の工作室)と呼んでいる。

Oodiのホームページによると、Oodiでは資料2にあるものが使用可能である。

図表
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Oodi公式サイトには記されていないが、例えば子ども用を含む多様なマネキンがあるなど、モノを作りたいときに必要なものが揃っている印象を受けた。別の言い方をすると、あると便利だけれども個人では揃えられないものがここに来ればある、という感じだろうか。

そしてそれらの多くが廊下のオープンスペースに並んでいる。レーザーカッターなど騒音やにおいが問題になるものなどは区切られた室内にあるようであったが、多くのマシンが廊下に並んでいて、ここに来る人は嫌でもそれらを見ることになる。来場者が自然に最新技術に親しむような作りになっている。

また目に付くのは、各マシンにそれぞれ取扱説明書がぶら下がっていることである。困ったときには図書館スタッフが相談に乗ってくれるだろうが、基本的には自己責任で使用することになる。見方を変えれば自由に使うことができるわけで、急にアイデアが湧いて何か作りたいなと思った際に、すぐ作れる場所があるのは、新しいものを生み出すという意味では便利以上のものがある。

3. 作業室はほとんどすべてがガラス張り

廊下の周りには大小の会議室や個人用ワークスペース、静かな作業用にも使える読書室などがある。それらはキッチンや音楽スタジオといった一部の部屋を除いて、すべてガラス張りである(資料3)。

図表
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Oodiに作業室などをガラス張りにしている理由を聞いたところ、「透明性(transparency)」と「開放性(openness)」が大きな2つの理由とのことであった。公共施設として業務の透明性および施設内の透明性を確保することが理由の一つ。そしてもう一つの開放性については、一般の人に施設を見やすくすることで、これにより施設を使おうとする人の敷居が下がる効果がある、とのことであった。

回答の中にあった、「自分と同じような人が施設を使っている姿を見ることにより、自身でもよりそれを使ってみたくなるであろう」(訳:筆者)という内容は、その場で筆者が感じたことと同じである。言い換えると、他の人が何かを作ろうとするところ、何かにチャレンジしている姿を見ることは社会教育施設として大きな教育的効果があるものと思う。ガラス張りのインキュベーション施設はケープタウンのThe Watershedなど他にも例がある。お互いの切磋琢磨やコラボレーションも期待でき、自身のアイデアなどに関する機密が保たれないという欠点を超えた利点を持つものと筆者は考える。

4. ミーティング場にもなりそうな、くつろげる広場

廊下の一方の端は、大きな広場につながっている。広場は大きな段差のある床が広い面積を占め、その前の平らな部分にも椅子がいくつも置かれていた。作業の合間などに一息ついてリラックスするには格好の場所であろう。筆者もここで一休みした。Oodiは木を多用しているが、この広場も、木を印象的に配置することで、フロア全体が無機質な感じになるのを防いでいるように思われる。

利用者間の交流のためには、くつろげる広場は有効である。おそらく相談やネットワーキングの場になっているのではないだろうか。新たな仲間づくり、エコシステムの創造に役立っていると考えられる。

5. Oodiは「すべての人のため」の施設

Oodiの英語版パンフレットの裏表紙には ‟Oodi is for all of us”と記されている。すべての人のための施設という発想は至る所に活かされているように思う。

入館に際してのチェックはなく、旅行者でも気軽に3階の図書室まで行くことができる。本だけでなくボードゲームなども3階に並んでいる。2階にはゲーム室もある。

さらに、先に述べた2階にある工作機械等は、誰でも材料費を除いて無料で使うことができる。施設や機器の利用を予約したい場合は、ヘルシンキ市の予約サイトでネット上から可能である。

税金で作られた施設を市民以外にも無料で使わせることについてOodiに尋ねたところ、図書館は無料と法令で定められていることが直接の理由であるが、公共図書館(広くは公教育)が民主主義の柱であると長年みなされており、民主主義を利用料に頼ることはできないと考えられてきたとのことである(ただし無料への批判もあることから、何でも無料とするのではなく、一定の範囲を定めている)。

また、実際に様々な年齢層の人々が利用している。デジタル機器で造形をする若者、パソコンに向き合う壮年女性、ヨガか何かに興じる高齢者の集団など、多様な人が利用している。外国人や移民に対しても、日本語を含む各国語の本が備えられているなど配慮が感じられる。Oodiの公式サイト(英語版)にあった、高齢者による高齢者へのICT指導(注2)の告知には「流ちょうに英語を話せる人が毎回いるとは限りません。でも来て質問してくれることを歓迎します!」と書いてあって、そのホスピタリティをほほえましく感じた。

6. おわりにー「オープンで、わくわくして、役に立つ」場所を日本にも

筆者が感じたOodiの魅力をまとめると「オープンで、わくわくして、役に立つ」ということになるだろうか。誰でも入れて誰でも使えるオープンな施設とすることで利用者の幅が広がる。そしてガラス張りの部屋や廊下の機械で、来た人に使ってみたい・作ってみたいというわくわく感が生まれる。そして実際に作りたいものが作れるような機材・設備を整えることで利用者が作りたいと思っていたものを作れる。こういった仕組みが(おそらく他の機能においても)できていることが、年間延べ250万人が訪れる施設となった理由ではないだろうか(フィンランドの人口は約550万人)。フィンランド人は読書好きだそうだが、それだけではないと思う。

Oodiを作る際には地元住民の声を様々な形で吸い上げた。例えば建設コンペの段階であった2012年にはヘルシンキ市住民からの要望募集キャンペーンが行われ、2,300ものアイデアが集まった。図書館の名称についても公開募集が行われ、1,600件を超える応募の中から審査員が名称を決めている。このような経緯があって、単なる本と読書室だけの図書館ではなく、ガラス張りの2階や映像ホールなどを備え、多くの人が利用する建物になったのだろう。

フィンランドは国民負担率(国民所得に対する税金および社会保険料の割合)が高いにもかかわらず、世界幸福度ランキングは連続して1位を保っている。これはOodi建設過程に見られるように、民主主義を守る姿勢が徹底しているためかもしれない。

日本の公民館などの公共施設は、印刷機でさえもサークル登録をしないと使えなかったり、閉ざされたドアの向こうでどのような活動が行われているのかわからなかったりするところの方が一般的なように思える。

日本の公民館で利用者が使えるパソコンを設置している施設は2021年で全体の12%、インターネットに接続されているものに限ると10%である(注3)。図書館においても、図書館が契約した外部データベースを利用者が検索するためのパソコンを備えている館は全体の46%に過ぎない(注4)。

一方で、公共図書館に3Dプリンターなどを設置して利用者に開放する例もみられるようになってきた(注5)。小さくてもよいので、日本にも「オープンで、わくわくして、役に立つ」Oodiのような公共の社会教育施設が増えることを願い、本稿の結びとする。

以 上

【注釈】

  1. (車いす用を除き)WCの表示だけで性別による区別・表示がなかったので、筆者は「男性用トイレ」を探して少し迷うこととなった。

  2. ICT(Information and Communication Technology)は「情報通信技術」と訳され、情報や通信に関する技術全体を表すことばである。本文で取り上げたイベントでは、オンラインサービスを含んだパソコン・タブレットなどのデジタル機器の使い方について指導・相談が行われるようである。

  3. 文部科学省(2021)の「公民館調査(公民館)」参照。

  4. 文部科学省(2021)の「図書館調査(図書館)」参照。

  5. インターネットでの検索の結果、3Dプリンターの常設されている図書館・図書館類似施設として、石川県立図書館、県立長野図書館、浦安市立図書館、田川市立図書館、安城市図書情報館、ジェイトエル(東京都北区)が確認できた(2024年12月5日検索、同一建物内の別施設に設置されている場合も含む)。

 

【参考文献】

  • 文部科学省(2021)「令和3年度社会教育調査」

  • Oodi公式サイト

  • 2024 Oodi - Helsinki Central Library(英語版パンフレット)Helsinki Central Library Oodi

重原 正明


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

重原 正明

しげはら まさあき

政策調査部 シニア研究員
専⾨分野: 社会保障・保険・年金、リスク管理・保険数理、会計・開示

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