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2024.07.09
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高齢化
高齢者と若者の共住「異世代ホームシェア」
~世界で広がる血縁関係によらない世代間の支え合い~
福澤 涼子
- 目次
1.一戸建ての家に1人もしくは2人で住む高齢者は多い
最新の国民生活基礎調査によると、高齢の単身世帯と夫婦のみの世帯が、高齢世帯全体の6割以上を占めている。さらに、今年4月に発表された国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」によれば、2050年には高齢世帯の45.1%が単身世帯、26.5%が夫婦のみ世帯と、合わせて高齢世帯全体の7割以上を占める見込みである。
かつての日本は三世代同居が多く、地域のつながりも強いとされてきたが、近年では独居・夫婦のみ世帯の高齢者の孤立・孤独が懸念されている。そこで本稿では、孤立・孤独対策の1つになりうる、高齢の単身や夫婦が住む自宅の空き部屋に血縁関係のない若者が住む「異世代ホームシェア」を取り上げる。
はじめに、受け入れ側となる高齢者の住まいの現状を概観する。内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際調査比較(2020)」で高齢者の住居形態をみると、持ち家一戸建てに住む高齢者は夫婦二人世帯で8割におよび、単身世帯でも5割以上となっている(図表1)。

また同調査によると、持家一戸建てに住む高齢者の場合、身体に不自由が出てからも現在の家に住み続けたいとのぞむ割合が64%と他と比較して高い(注1)。これは、持家に住む高齢者のうち住宅ローンを返済中の人が15%と住居費負担の軽い人が多く(注2)、持家一戸建てに住む高齢者の75%が31年以上同じ地域に住み続けているように(注3)、住み慣れた地域で暮らし続けることを望む人が多いからだろう。こうした世帯では、子どもの独立、親や配偶者との死別などを経て、自宅の部屋が余っているケースも多いと考えられる。
2.高齢者自宅の空き室を活用する「異世代ホームシェア」
「異世代ホームシェア」とは、夫婦もしくは単身の高齢者が住む持家の空き部屋を活用して、血縁関係のない若者と高齢者が共同生活を送るという仕組みだ。それぞれが自立して生活することを前提にしつつも、可能な範囲で交流や助け合いを行う。
このような住まい方は、1990年代にスペインで始まり、その後ドイツ、アメリカ、ベルギーなど欧米諸国で広く取り入れられている。その多くが、独居高齢者の孤立・孤独の解消や、若者の住居費負担の軽減を主な目的としている。たとえば、フランスでは2003年の熱波により高齢者が多く亡くなったこと、都市部の家賃が高額で若者が住みづらいことを背景に、異世代ホームシェアが広がった。フランスの異世代ホームシェア事業に取り組む最大の組織は、2004年の設立から現在までに5,000件以上の同居を支援している(注4)。
日本での実践例はまだ少ないものの、首都圏、京都府、奈良県、福井県など国内でも広がりを見せはじめている。中でも、自治体が主導する先駆的な事例である京都府の次世代下宿「京都ソリデール」事業は、事業が始まった2016年から2023年度末で合計65組の同居を支援した。学生たちは月々2万5千円~3万5千円ほど(中には光熱費を含む場合もある)の家賃で高齢者宅に住むことができる。京都府の事例を参考に、2021年から京都府京田辺市が、2023年から奈良県大和郡山市が同事業を開始している。また首都圏では、異世代ホームシェアを主な事業とするNPO法人や、シェアハウス運営などを手掛ける企業が高齢者と若者の間に入り独自に双方の同居を支援している。
3.異世代ホームシェアが若者や高齢者にもたらすメリット
このような異世代ホームシェアは、高齢者・若者それぞれにメリットがある。
まず低収入の若者や学生にとっては、都市部でひとり暮らしをする際にネックとなる住居費の負担を軽減することができる。全国大学生活協同組合連合会の学生生活実態調査によると、下宿生への仕送り金額は減少が続いている。アルバイトに長時間携わらなければならない学生や、大学の近くに転居することができず片道2時間以上かけて実家から大学に通う学生も多い。そうした若者が異世代ホームシェアに参加することで学業や将来働きたい業界でのアルバイトに時間を増やすことができたという調査結果もある(注5)。また一般に近所づきあいや地域活動をしない若者が多いなか、その地域に住む高齢者を通じて若者の地域参加が進むという効果も期待できる。
高齢者にとっても、拙稿「老後にシェアハウスで暮らすという選択」で取り上げたように、生活の身近なところに他者がいることにはいくつかのメリットがある。他者との交流が増えることで孤独感が和らいだり、生活に活気が生まれ、認知症の予防など心身の健康への良い効果が期待される。高齢者を狙った犯罪などの防止にもなる。また、転倒や急病などに対するセーフティネットにもなりうる。基本的に自立した高齢者のみを対象とするため、若者が高齢者の介護をサポートすることはないものの、これらは自宅に住み続けたいという高齢者の希望を後押しすることにもつながるだろう。
また、ホームシェアをきっかけとした異世代交流がもたらす価値も大きいといえる。高齢者が若者から現代の価値観やパソコン・スマートフォンなどの使い方を学んだり、逆に若者が親ではない年長者とコミュニケーションする機会になる。高齢者に学校での活動や就職などについて相談することで、同世代とは異なる助言を得る機会にもなる。そうした交流を通じて、高齢者からは「日々刺激を得られる」「自分も若者に負けないよう頑張ろうと思った」といった声が、若者からは「就職した際に上の年代とのコミュニケーションに活かされた」という声が聞かれている。
若者は卒業や就職、結婚などのライフイベントが多いため、同じ若者との同居は数か月から長くても数年程度だが、退去した若者が定期的に高齢者宅を再訪するケースもあり、長期的な関係が構築されることもあるようだ。

4.高齢者と若者をうまくつないでいくためには
異世代ホームシェアを実現するには高齢者と若者をマッチングする必要があるが、先述した京都府の次世代下宿「京都ソリデール」事業では、業務委託している複数のマッチング事業者が双方の希望を詳しくヒアリングしマッチングを行っている。また、生活のルールを一緒に検討したり、面談の場に立ち会ったり、入居後に不満はないかヒアリングするなどのアフターフォローも行う。
ヒアリングの内容は、希望の家賃や大学までの距離などの基本的な情報だけではなく、希望の交流の頻度や生活スタイルなども含む。たとえば、「毎日夕食を若者と一緒に食べたい」と考えている高齢者宅に、挨拶程度の交流を希望する若者を入居させてしまうと互いのストレスになりやすい。ときにはお試し同居期間も設けて慎重にマッチングしていく。
それでも、他人同士の生活は不満やトラブルもあり、放置すると関係が悪化しかねない。特に高齢者はそこが自宅であるために自ら退去できず、健康を害してしまうリスクもある。そのため、事業者がこまめに話を聞くなどして、トラブルの早期解決を図ることが重要とされている。
事業者によって関わる度合いに差はあるが、異世代ホームシェアにおいてマッチング事業者は重要な役割を果たしている。ただ、アフターフォローも含めたマッチングコストを誰が負担するのかという問題もある。自治体が主導する場合を除けば、低収入の若者や高齢者からは見合うコストを徴収しにくく、現状採算の取れていない法人もある(注6)。そのため、今後、こうした異世代ホームシェアを広げていくには、自治体などの関わりや資金面の支援が重要となるだろう。
また、こうした異世代ホームシェアは今後、若者だけではなく母子世帯など住まいに制約のある層にも対象を広げていける可能性もある。家族の機能が縮小し、家族に代わる新たな生活の支え合いが求められつつあるなかで、異世代ホームシェアのような住まい方は、新たな支え合いの1つになるのではないだろうか。
【注釈】
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「もし、あなたの身体の機能が低下して、車いすや介助者が必要になった場合、自宅に留まりたいですか。それともどこかへ引っ越したいですか。(単一回答)」の問いに対して、持家一戸建てに住む高齢者の「現在のまま、自宅に留まりたい」「改築の上、自宅に留まりたい」の合計は64%。賃貸住宅の場合には、それらの合算が34.6%にとどまるほか、持家の分譲マンションなどの集合住宅に住んでいる場合も55.2%である。
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内閣府「令和元年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」2019年
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内閣府「高齢者の住宅と生活環境に関する調査」2023年
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Le Pari Solidaireのホームページより(2024年6月閲覧)
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栗林 梓「異世代ホームシェアの展開と学生の利用実態―「京都ソリデール事業」に着目して―」人文地理第74巻第4号 2022年
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毎日新聞「高齢者と若者の交流を促進 注目集める「異世代ホームシェア」」2024年6月5日より
【参考文献】
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菊池吉信「異世代ホームシェア事業を基軸とした地域パートナーシップ構築に向けた実践的研究」全労済協会 2016
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川崎一平,永井邦明,原田瞬,森本誠司,佐川佳南枝,吉田健,小川敬之「日本の異世代ホームシェアの実態とそれぞれの世代に与える影響」日本世代間交流学会誌(12)2022
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小林稜,菊地吉信,井上早帆「ドイツにおける異世代ホームシェア事業 Wohnen für Hilfeの運営システム」日本建築学会技術報告集2015年
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丁志映「欧州の異世代ホームシェア」日本建築学会講座CPD講座「世界の助け合い」から学ぼう第1回 2016年
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厚生労働省「国民生活基礎調査」2022年
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国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」2024年
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内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際調査比較」2020年
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内閣府「高齢者の住宅と生活環境に関する調査」2023年
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全国大学生活協同組合連合会「第59回学生生活実態調査 概要報告」2024年
福澤 涼子
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。