内外経済ウォッチ『米国~中間選挙後の「トランプリスク」再燃~』(2026年11月号)

桂畑 誠治

2026年11月3日に控える米国中間選挙において、トランプ大統領の支持率は約38%(10月7日時点)まで低下しており、与党・共和党が上下両院で過半数を維持するのは極めて困難な情勢となっている。これにより、上下両院で多数派が異なる「ねじれ議会」の発生、あるいは与党の過半数割れに伴う立法プロセスの深刻な機能不全が現実味を帯びてきた。

ねじれ議会下では、党派間の深刻なイデオロギー対立や主導権争いが激化するため、大型財政法案や構造的税制改正、予算案の合意形成は難航する。議会が事実上の機能不全状態に陥ることで、政権は立法・財政アプローチによる政策推進力を削がれ、内政上の手詰まり感を強めることになる。

こうした政治的苦境において、政権が支持層へのアピールと求心力を維持するために講じる手段こそが、「議会承認を必要としない大統領権限の最大化」である。具体的には、大統領令の頻発や、通商拡大法232条(安全保障に基づく輸入制限)および通商法301条(不公正貿易慣行への報復)等を根拠とした、行政主導による貿易規制への依存度が高まる。すなわち、議会運営の停滞と内政の行き詰まりこそが、中間選挙後も「米国第一主義」を推進させ、トランプリスクを増幅・長期化させる最大のメカニズムとして作用しよう。

行政権限の行使によるトランプリスクは、主に以下の4つの波及経路を通じてグローバル市場および実体経済へ打撃を与えるとみられる。

第1に、包括的関税の導入とそれに伴う政策不確実性の構造的高まりである。強力な大統領権限を背景に、対中国のみならずカナダ等の同盟国や新興国に対しても一律の追加関税や厳格な輸入割当が不定期かつ強硬に突きつけられよう。関税の価格転嫁は米国の物価を押し上げる直接要因となるほか、一方的な通商政策の変更は企業の経営予測を著しく困難にする。その結果、本来成長分野へ投じられるはずだった巨額資金がサプライチェーン再構築やリスク回避費用へと割かれ、設備投資の延期や意思決定の遅延を余儀なくされる。さらに、主要国の報復関税誘発によって米国の輸出産業も打撃を受ける。

第2に、企業の回避行動に伴うサプライチェーンの混乱と経済統計の歪みである。貿易制限の発動が予見される局面では関税回避を目的とした駆け込み輸入が頻発する。これは一時的に貿易統計や製造業指標を押し上げるが、発動後には反動で輸入急減と製造業活動の停滞が到来しよう。このような需要先食い現象は景気の基調判断を困難にし、統計の乱高下を通じて金融市場のボラティリティを高める要因となる。

第3に、行政権限を通じた厳格な移民規制の継続と労働供給制約の定着である。国境管理強化やビザ制限は、建設、農業、飲食・宿泊、物流といった非熟練労働力への依存度が高い産業において長期的な人手不足を引き起こす。労働供給の制約は人手確保競争を通じた人件費高止まりをもたらす。人件費上昇はサービス価格へ転嫁されやすく、粘着的なインフレ圧力を定着させる直接要因となる。

第4に、金融市場へのストレス伝播とFRBの政策舵取りの難航である。一方的な関税強化やインフレ圧力の高止まりは米長期金利の上昇圧力を生む一方、世界的な貿易停滞は安全資産としての米ドル需要を誘発しやすい。「ドル高・高金利」の重複は新興国からの資金流出や債務不履行リスクを高めるだけでなく、米国自身の輸出競争力を削ぐジレンマを生む。スタグフレーション懸念が高まればFRBの政策対応の自由度が制限され、不安定な金融環境が長期化する。

このように内政上の手詰まり感が強まるほど、トランプ政権は外交・通商面における強硬な排他政策へと傾斜しやすい。それゆえ中間選挙後のトランプリスクがグローバル経済に与える負のインパクトは、長期化を避けられない。

桂畑 誠治


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ