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2026.09.14
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米国・カナダ間で激化する貿易戦争
~将来的に自動車関税が引き上げられる場合、日系企業にも深刻な影響~
前田 和馬
- 要旨
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米国とカナダの貿易戦争が激化している。ただし、現時点における追加関税の対象は限定的であり、両国経済への影響は小さいとみられる。仮に貿易戦争が長期化する場合、対米依存度の高いカナダの方が影響は相対的に大きくなりやすい一方、カナダの世論調査は対米報復措置を支持している。
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マクロ的な影響が限られる一方、米国の一部の州や産業に貿易戦争の影響が及ぶ場合、11月中間選挙における接戦州の情勢が変化するかが注目される。仮に共和党の敗因として関税措置が挙げられる場合、米国の保護貿易政策への歯止めになることが期待される。
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北米に進出する日系製造業の米加貿易は自動車産業に集中している。トランプ大統領は対カナダの自動車関税を2027年1月に現状の25%から50%へ引き上げる方針を示しており、両国の貿易戦争が緩和せずにこれが実現する場合、日系製造業の大幅なコスト増へと繋がる懸念がある。
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1. はじめに
米国とカナダの間で貿易戦争が激化している。米国とカナダのUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定;現協定は2036年に失効予定)見直し協議が難航するなか、8月22日に米トランプ政権は約200億ドルの対カナダ輸入に関して50%の追加関税を発動した(1930年関税法338条に基づく措置)。トランプ政権は関税発動の理由として、「カナダが自動車・同部品、乳製品、アルコールの輸入を巡って、米国を他国よりも不利に扱っている」と指摘している。なお、こうしたカナダによる貿易措置の一部は、トランプ政権が2025年3月以降に対カナダ関税を引き上げたことに対する報復措置だ。一方、カナダのカーニー首相は9月8日に同規模(約200億ドル)の米国輸入に対して15~50%の報復関税を発動した。米国はこれへの対抗措置として、9月15日に追加関税の対象品目を拡大するほか、29日にはアルコール飲料や一部乳製品等への禁輸措置を実施するなど、両国の対立が激化している。
米国よりもカナダの方が米加貿易の依存度が大きいものの(図表1)、現時点において追加関税の対象は限定されており、両国経済に関する影響は限定的に留まると見込まれる。

2. 米国経済への影響
米国にとってのカナダは、メキシコに次ぐ主要な貿易相手国である。米国の輸出総額に占めるカナダの割合は15.3%(GDP対比:1.1%)、輸入総額では11.2%(同、1.2%)にそれぞれ達する(2025年)。対カナダ輸入を巡って、第二次トランプ政権は広範な品目への関税率を引き上げた一方、USMCAに準拠した輸入品には適用除外措置等が採用されたため、カナダに対する関税率の上昇は限定された(図表2)。2026年前半における実効関税率は全世界で7.4%(トランプ政権以前の24年実績:2.3%)、中国が23.9%(同、10.7%)、日本が11.1%(1.6%)に対して、カナダは3.1%(0.1%)と主要国でも低水準に留まっている。
米国による対カナダ輸入への関税発動はワインやホッケースティックなど約200億ドル分の輸入を対象としており、これまでの関税措置のようにUSMCAに準拠した製品への免除措置はない。ただ、対象規模は全輸入の0.6%、対カナダ輸入の5.2%にそれぞれ留まる(GDP比では0.1%未満)。このため、米国の実効関税率に対する影響は全体で0.2%程度、対カナダで2.6%程度と試算されるなど、上昇幅は限定的だ。なお、米国はカナダへの対抗措置として対象品目を9月15日に拡大する予定であるが、これと同時に一部品目を対象から除外するため、関税対象の輸入規模は小幅な変化に留まるとみられる。加えて、新たに発表された禁輸措置は対象が更に限定される。禁輸対象で輸入額の大きい品目にはバーボンウイスキーやワインなどのアルコール飲料が挙げられるなど、仮にカナダ以外の代替調達が困難となっても他産業への波及効果は小さいだろう(図表3)。
他方、カナダによる対米報復関税は鉄鋼や家電・家具、衣類など対象が多岐にわたる。これは米国の対カナダ輸出を押し下げる要因となるものの、これも米国経済全体に与える影響は限定的とみられる。中西部の一部州では輸出全体の3~4割をカナダ向けが占める一方(図表4)、報復対象の輸出規模は約200億ドル(米国の輸出全体の0.9%)に留まる。カナダとの経済的結びつきが強いメインやミシガンにおいても、悪影響を受ける輸出額は州経済規模(GDP)の0.2~0.4%と試算される(図表5)。もっとも、特定州の一部産業に悪影響が集中する可能性は否定できず、こうした貿易戦争が連邦上院選におけるメインやミシガン、オハイオなどの接戦州の選挙結果を左右するかが注目される。仮に中間選挙後において、接戦州の共和党の敗因として関税措置が挙げられる場合、米国の保護貿易的な動きに対する政治的な歯止めとなることが期待される。


3. カナダ経済への影響
カナダ経済にとって対米貿易への依存度は非常に高い。2025年において、対米輸出は輸出全体の72.3%(GDP比17.3%)、対米輸入は全体の45.9%(同、11.1%)と圧倒的なシェアを占める。また、今回の貿易戦争で影響を受ける米加貿易額は400億ドル(両国がそれぞれ200億ドル相当の輸入品の関税を引き上げ)に達し、これはカナダGDPの1.7%に及ぶ(米国は0.1%)。とはいえ、例えば米国が関税を引き上げた品目の対米輸出が10%減少しようとも、GDPへの影響は0.1%未満である。また、カナダ政府は米国への報復措置と同時に、国内経済への影響を緩和するための資金繰り支援策等にも取り組むと表明している。このため、今回の貿易戦争がカナダ経済への景気後退を招くほどの影響はないとみられる。実際、カナダ中銀のマックレム総裁は9月政策決定会合後の記者会見において、貿易戦争による不確実性が企業の設備投資や採用の先送りにつながるリスクを指摘した一方、米国の関税措置が経済活動に大きな影響を及ぼす可能性を否定している。
この間、カナダの世論調査(8月22~23日実施)をみると、国民の76%が「対米貿易交渉の打ち切りは正しい」と評価し、62%が「米国への報復措置は概ね妥当」と述べている。このため、貿易戦争が続いた場合の経済的なダメージはカナダの方がより大きいとみられるものの、現時点において、カナダ側に妥協を促すような国民世論は形成されていない。
4. 日系企業への影響
上記でみたように、現時点において米国とカナダへの影響は相対的に抑制されると見込まれる。最後に海外事業活動基本調査(2024年度実績)に基づき、北米に進出する日系企業への影響を確認する。なお、カナダの計数は北米地域の集計値からアメリカを差し引くことで算出した。
まず、自動車を中心とした輸送機械産業において、米国法人からのカナダ向け輸出、及びカナダ法人からの米国向け輸出が合計で12.2兆円に達し、これは北米法人(米国+カナダ)における売上高の46%を占める。これまでの自動車産業はUSMCAによる関税免除の利点を活かし、部品などが完成車となるまでに米国・カナダや米国・メキシコの国境を複数回越えるなど、北米一帯で統合的なサプライチェーンを構築してきた。一方、トランプ大統領は2027年1月からカナダに対する自動車関税を現行の25%から50%へ引き上げると表明しており、これが実現する場合の自動車産業への影響は大きい。米国の対カナダ自動車輸入(HSコード87:部品等を含む)の実効関税率は2024年に0.2%だった一方、2026年1~7月には9.1%へと上昇している。この背景には、通商拡大法232条に基づく自動車関税により、USMCAの原産地規則を満たしていても、完成車の非米国産部材に対して25%関税が課されることがある。仮に自動車関税が50%へと引き上げられ、実効関税率が倍増する場合、日系企業のコスト負担は約3,900億円拡大すると試算される(=カナダ法人の対米輸出[4.3兆円]×9.1%)。他方、輸送機械以外の製造業は米国法人によるカナダへの輸出、及びカナダへの進出そのものが限定的であり、企業収益への影響は限られるだろう。

前田 和馬
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 前田 和馬
まえだ かずま
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析
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