内外経済ウォッチ『米国~FRBはイラン攻撃で高まった二つのリスクに対応~』(2026年5月号)

桂畑 誠治

目次

イラン攻撃による原油価格高騰

米国ではトランプ政権による「米国第一主義」に基づいた対外関係の再構築が加速している。関税措置の強化、軍事力の行使、不法移民への厳格な取り締まりが継続されており、国際社会および国内における地政学的・政策的不確実性は極めて高い状態にある。

26年2月28日、米国とイスラエルはイランへの軍事作戦を開始し、指導部を殺害した。これに対しイランは、ホルムズ海峡の事実上の封鎖を強行し、中東各国のインフラ・民生施設へのドローン・ミサイル攻撃などを行った。中東全域への戦火の拡大、大規模なエネルギー関連施設の破壊等が危惧され、WTI先物は1バレル=110ドル台に上昇した。

米国・イスラエルに海峡の安全航行を確保できる能力がなく、イランによる事実上の封鎖が続いたことで、原油価格は高止まりしていた。4月に入って米国とイランが2週間の停戦で合意し、ホルムズ海峡での事実上の封鎖が解除されるとの期待が高まったが、両者の要求には隔たりが大きく、恒久的な和平実現は困難とみられる。依然として不透明感は拭えない状況だ。

原油高騰によるインフレ上昇と労働市場の悪化

不確実性の高まりによる原油高は、短期的にはFRBが政策目標の一つとする物価指標のPCEデフレーターを押し上げる要因となる。

一方で、エネルギーコストの上昇は個人消費、住宅投資、設備投資を抑制する要因となる。また、世界規模では原油およびLNG(液化天然ガス)の供給不足が、日本、EU、アジア諸国の経済活動を減退させる可能性がある。これにより、米国内でも労働市場が悪化する可能性が高まっている。インフレの上振れリスクと雇用の下振れリスクが、イラン・中東情勢の混乱に伴い増大した。

FRBは様子見を維持

FRBは、3月17、18日に開催されたFOMCでFFレート誘導目標レンジを予想通り2会合連続で3.50~3.75%に据え置くことを決定した。声明文では「中東情勢が米経済に及ぼす影響は不確実」と明記された。パウエルFRB議長も記者会見で「短期的にはエネルギー価格の上昇が全体的なインフレ率を押し上げるが、経済への影響が及ぶ範囲や期間を把握するには時期尚早」との見解を示した。さらに議長は「関税ショックやパンデミックを経て、今度は規模・期間ともに相当なエネルギーショックに直面しており、こうした事態がインフレ期待に悪影響を及ぼすことを懸念している」と強い警戒感を露わにした。

その後、3月30日の講演では、議長はインフレ期待について「短期を超えてしっかり安定しているようだ」と述べ、期待インフレ率への影響は限定的との見方を示した。紛争が継続中ということもあり、「経済への影響がどうなるかは不透明」との見方は維持された。議長は「金融政策は様子見が可能な良い位置にある」としたうえで、「労働市場には下振れリスクがあり、これは金利を低く維持すべきであることを示唆している一方で、インフレには上振れリスクがあり、これはおそらく金利を低く維持すべきではないことを示唆している」と両方向の対応を指摘した。そのうえで、「供給ショックは通常、政策判断において重視しない傾向があるが、その際に極めて重要なのはインフレ期待を注意深く監視することだ」と改めてインフレ期待への影響を指摘した。インフレ率がパンデミック以降、依然として2%の目標に戻っていない点にも留意が必要だと述べた。

FRBはインフレの上振れを警戒しつつも、労働市場の悪化を同時に注視せざるを得ない板挟みの状況にあり、政策金利の据え置きが長期化する可能性が高い。

桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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