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- 内外経済ウォッチ『日本~賃上げは続くのか?~』(2025年12月号)
10月21日に高市早苗政権が発足した。この内閣では、名称を「日本成長戦略担当大臣」とする大臣を置いている。成長戦略への内閣の強い思い入れを表現しているのだと思うが、実のところ高市政権が最も弱いのは、この成長戦略と思われる。どうすれば、さらに経済成長率を高められるのか。内閣府によると、労働投入・資本投入などによって決まってくる潜在成長率は、0.5%前後である。金融緩和や財政出動によって、この潜在成長率を大きく押し上げることはできない。むしろ、大切なのはテクノロジーを磨き、稼げるビジネスモデルを普及させることが、技術進歩を促して潜在成長率を押し上げる。政府の成長戦略とは、技術進歩を促すための環境づくりをするという意味がある。だから、高市政権にはしっかり腰を据えた成長戦略づくりをやっていただきたい。
国難と賃上げ
成長戦略を語る手前で、対処すべき課題がある。少し前に「国難」と言われたトランプ関税である。日本に課される相互関税は、当初の24%から7月22日の日米合意で15%まで引き下げられた。しかし、この15%でさえ、対米輸出企業には重荷である。この15%をいずれ輸出品の値上げによって価格転嫁できればよいが、どうしても1~2年はかかる。すると、完全に価格転嫁できない間は、輸出企業の負担になってしまう。現在、この「国難」について改めて経済活動にマイナスだと強調する人は少なくなったが、2025~2026年の景気動向には明らかにマイナスである。一頃のように、景気後退リスクを意識させる局面ではないとしても、経済成長率を抑制していることは間違いない。
筆者が心配するのは、2026年の春闘賃上げ率を下ぶれさせることである。その手前で2025年冬のボーナスにも、いくらか影響しよう。ボーナスの場合、企業業績との連動性が高い。2025年4~9月の半期でみると、トランプ関税が業績に悪影響をもたらすだろう。11月前半に明らかにされる決算発表では、いくらか厳しい結果になるのではないか。2025年度の決算見通しでも、楽観的な見方が影をひそめてくると、2026年の春闘はより厳しいものとなるだろう。
成長戦略のイメージのずれ?
現在わかる範囲で、高市政権がどんな成長戦略をとりそうなのかを考えてみた。10月24日の所信表明演説は、高市政権の政策方針を反映したものと言えるだろう。ここでは、「大胆な危機管理投資が力強く経済成長をもたらす」と謳われている。経済安全保障、食料安全保障、国土強靭化などが事例として挙げられている。おそらく、これらは民間企業の賃上げに対する影響力は大きくないとみられる。
そのほか、高市首相は賃上げ促進税制の見直しに自民党総裁選のときに言及していた。事実関係として、従来の賃上げ促進税制は赤字企業でも法人税の軽減措置が最長5年間、繰り越して使えるようになっていた。さらにどんな工夫をするかが注目される。とはいえ、この税制だけで中小企業の賃上げが進むとは思えない。これまでの経験では、中小企業の賃上げが進みにくいのは、コストプッシュ分を完全に価格転嫁できないのが一因と分析されている。
日銀の金融政策に慎重さを求めると、さらに円安傾向に拍車がかかると考えられる。すると円安による輸入インフレによって、中小企業がよりコストプッシュに苦しみ、賃上げには不利になってしまう。
もしも、高市政権が賃上げに対して直接的に貢献できるとすれば、それは公的支出関連の分野についてであろう。所信表明演説では、診療報酬・介護報酬の引き上げを示唆するとともに、国・地方自治体から民間への請負契約単価を、物価上昇を踏まえて見直すと発言した。この部分は、医療・介護、そして建設関連の従事者にはプラスであろう。
熊野 英生
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

