注目のキーワード『芸術の秋』

重原 正明

秋というと色々なことばが浮かんできます。読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋、そして芸術の秋。最近は芸術よりもエンタメ(エンタテイメント)の方を聞くことが多いですが、秋というと「芸術の秋」で、エンタメ系は「夏フェス」「ライブの夏」と夏のイメージが強い感じがします。秋の落ち着いた雰囲気は、エンタメよりも芸術の方に合うのでしょうか。

音楽や動画はスマホや家庭の大型モニターで楽しむこともできますが、劇場などに行って観る・聴くのはまた別の体験としての要素があります。チケットを買う時から、劇場に入る、席に着く、客席が暗くなる、そして…という一連のプロセスは、鑑賞の楽しみの一部といっても良いでしょう。

また「観客(聴衆)はもう一人の演者」とも言えます。客が真剣に観て聴いていれば、演奏者や演者も乗ってきます。一方で欧州のある一流のオペラハウスでは、オペラ公演で出演者が一音間違えかけただけで、客席に「静かなざわめき」が走ることもあったそうです。そのような厳しい聴衆が、演奏家を育てていくのでしょう。演奏家(俳優)は移動できますが、観客は連れていけません。有名な劇場・ホール(劇場やホールもまた「一人の俳優・楽器」ですが)、音楽祭・演劇祭に行く意味の幾分かは、観客の反応を感じることにあると私は思っています。

また、思いがけない出会いがあるのも生の楽しさ。いろいろな作品が楽しめるフェス等で、偶然出会った作品が一生の宝となるかもしれません。「チケット代と時間を返せ」と言いたくなる演奏会・公演も多くあるでしょうが、あまり事前に品定めして無難なものばかり選ぶのも野暮というもの。多少の「授業料」を払うことは必要でしょう。知られていない芸術はたくさんあり、例えば最近の映画で話題の舞踊家の踊りも、実は海外では舞踏(butoh)として以前から評価されてきたものです。

何かと物騒な世の中で何が芸術だ、と思われる方もおられるかもしれませんが、感じることは生きること。異質なものを感じることで、人は刺激を受け、進化します。この秋、舞台や音楽の“生”の力を、私たちみんなで感じてみませんか。

(総合調査部 政策調査グループ 研究理事 重原正明)

重原 正明


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